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2017.09.19(火)
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2017年9月19日~22日の4日間、DBICメンバー企業幹部の皆様にデジタルトランスフォーメーションの最前線を体感していたく海外探索ミッションの第1回目を開催しました。目的地は国を挙げて「スマートネーション」を推進しているシンガポール。 DBICの提携先であり、アジアでも有数の経営大学に発展しつつあるシンガポールマネージメント大学(SMU)とIMDシンガポール校の全面協力を受けた、他では体験できない本プログラムの全容をレポートします。
目次 Day 1 ・シンガポールマネージメント大学(SMU):イントロダクション ・DBIC:問題解決より、まずは問題発見 ・シンガポール経済開発庁(EDB):シンガポール人のDNA ・シンガポールマネージメント大学(SMU):人間のためのスマートネーション ・IMDシンガポール校:エグゼクティブ向けデジタルプログラムの拡充と差別化 ・フレッシュリーグラウンド:国家戦略としてのデザインシンキング Day 2 ・NCS:価値創造(バリュークリエーション)に取り組むIT企業 Day 3 ・Grab:東南アジアで急成長するトランスポテーションスタートアップ ・UNiCEN:富士通、SMU、A*STARによる産官学研究室 ・Unilever Four Acres Singapore:ユニリーバの圧倒的な危機感と人材育成最前線 ・FinLab by UOB:銀行主導のフィンテックインキュベーション ・NICKEL:FinLabから誕生したスタートアップ1期生 ・Innosparks by ST Engineering:スタートアップ支援のための共同ラボ設備 ・Ascendas-Singbridge:ビジネスを創造するデベロッパー Day 4 ・シンガポールマネージメント大学(SMU):スマートシティ専攻の新設 ・DBIC:日本企業が壁を乗り越えるために ・参加メンバー各位の感想
初日はシンガポールマネージメント大学(SMU)情報システム学部で、4日間のプログラムのブリーフィングから開始。全日程のプログラムディレクターはSMUのPatrick Thng教授、プログラムファシリテーターはCLO LABSの三井幹陽様にご担当いただきました。 プログラムディレクター SMUのPatrick Thng教授 プログラムファシリテーター CLO LABSの三井幹陽様 まずはSMU情報システム学部長であるPang Hwee-Hwa教授のプレゼンテーション。SMUはシンガポールで最後発の2000年設立の大学にも関わらず、The UTD Top 100 Worldwide Business School Rankings Based on Researchにおいて、イェール大学やケンブリッジ大学より上位の40位にランクインするなど、シンガポールのみならず世界で注目を集める成果を出しています。 SMU情報システム学部長 Pang Hwee-Hwa教授 SMUの大きな特徴として「問題解決能力」だけではなく「問題発見能力」をトレーニングしている点が挙げられます。テクニカルなスキルも重要ですが、まずは社会科学の視点からコミュニティでどんな問題が起きているかを発見しない限り、有効なソリューションに結びつきません。テクノロジーと社会科学と経営がSMUの3本柱です。 その結果して企業や政府機関と取り組んだ実ビジネスが教育に組み込まれ、産学官の成果物として公共交通、マーケティング、治安維持、船舶管理、高齢者の見守りなど、幅広い社会課題においてIoTによるデータ収集と機械学習を組み合わせた効率化が進められていることがわかります。 企業の側から「弊社で抱えているこういうビジネス課題がある」と学生側に提示され、それを受けた学生側からアカデミックなソリューションを提案する、というコミュニケーションがSMUでは当たり前のように行われているのです。
ここでDBIC代表の横塚裕志と副代表の西野弘から、前週にシンガポールで開催されていたSMU主催の「Lee Kuan Yew Global Business Plan Competition」に関連づけた解説が入ります。 DBIC代表 横塚裕志 2年に一度開催されるこの大会では、SMUが世界300以上の大学をネットワークし、556のビジネスプランの応募があり、オンライン選考を通過した36チームがシンガポールに集結し、ピッチを行ないました。 ファイナリストのプレゼンではすべて「プロブレム(問題)」からスタートするのが特徴的。「こういう問題がある。それをこの技術で解決する。そこにはこんなマーケットがある。だからこれだけの利益が見込める」までがフォーマットになっています。 問われているのは、問題「解決」能力に加えて、問題「発見」能力。「この新技術を使いたい」や「新製品を出したい」ではなく、「具体的な社会課題を定義し、それを具体的に解決する」のがこの大会です。 また参加する大学も単体ではなく、オックスフォード、ハーバード、ブラウンといった複数の大学がグローバルチームを組んでオープンイノベーションを起こしているのも特徴的。 実際、優勝チームもオックスフォード大学とハーバード大学の混成チームで、なおかつほとんどがバイオ、経営、テクノロジー分野のドクター(博士)だったとのことです。次回開催は2019年になりますが、狭間の2018年にはプレゼンスが急上昇している中国でリージョナルコンペティションが開催されます。
シンガポール経済開発庁(EDB)からシンガポール政府からの視点が説明されます。 シンガポールでは既存の産業をデジタル技術で改善する「スマートインダストリーズ」と、生活のあらゆる場で情報通信技術を使いデジタル国家を実現「スマートネーション」の両輪を政府が主導しています。 政府の取り組みは世界的な評価にもつながっています。午後に訪問するIMDの世界デジタル競争ランキングでもシンガポールが1位にランキングされ、大手テクノロジー企業トップ100のうち80社がシンガポールに支社をおき、研究・開発拠点として認識されている実績がプレゼンされます。 シンガポール経済開発庁(EDB)によるプレゼンテーション 加えて3日目に訪問予定のユニリーバがグローバルな人材開発拠点「FOUR ACRES」をシンガポールに設立したり、IBMがブロックチェーンイノベーションセンターを設立したりといった大規模な事例も挙げられます。 スピーカーであるEDBプロフェッショナル・サービス局長のClarence Chua様は「シンガポール政府はこれまでも企業の誘致は積極的に行ってきましたが、これからは単に誘致するだけではなく、持ち込まれたり開発されたりした技術をソリューションとして輸出するビジネスを興すフェーズだと考えています。たとえば国民の生活水準、QOLを上げていくことで、住宅、交通、医療といった分野で新しい輸出可能なビジネスを創出できる可能性があります」と解説します。 以降は質疑応答。中でも複数の参加者から重複してキーとなった質問は「どうしてシンガポールがこれだけイノベーションを起こすことができて、急激に成長できたのか?」「なぜシンガポールなのか?」というものでした。 EDBプロフェッショナル・サービス局長 Clarence Chua様 これに対してChau様は以下のように答えます。「歴史的にシンガポールは貿易の拠点ではありましたが、産業国ではありませんでした。これからのシンガポールは単なる仲介者ではなく、世界中から持ち込まれたビジネスモデル、モノ、サービスを実証実験して輸出するプラットフォームを目指します。誘致して来ていただく企業様にとっても、既に成功している分野の拠点を設立するのではなく、ゼロから開発してバリュー、つまり新しいビジネスそのものをクリエイトしていただくことが大切だと政府は考えています」 そもそも、2000年代にはシンガポールはグローバル・ビジネスハブを目指しましたが、SARSの流行により低迷して大型の建築事業に注力したり、リーマンショックの影響で生産性の向上に舵を切ったり、時代と共に柔軟に考え方を変えています。 Chau様の「『ハブ』という概念は、シンガポール人のDNAに植え付けられていますが、どんなハブであるかは時代によって変わります。シンガポール政府はとにかくオープンなビジネス環境を用意しますので、世界中から多様な企業に来ていただき、いろいろなことにチャレンジしていただきたい」という言葉でEDBのセッションが終了しました。
SMUのArchan Misra教授から、スマートネーションのテクニカルな事例紹介に移ります。 冒頭、2014年にリー・シェンロン首相によってシンガポールの「スマートネーション」政策がスタートした際の「シームレスなテクノロジーにより人々の有意義で充実した生活が実現し、すべての人々にエキサイティングな機会が与えられる」というスピーチが引用され、ゴールがあくまで政府が市民に提供する「日々の生活のためのサービスすべて」であることが確認されます。 SMU Archan Misra 教授 たとえばシンガポール内に11万個ある街灯にセンサーやBluetoothを取り付け、タイマーではなく交通需要ベースで点灯消灯させたり、公共交通機関を降りた歩行者が自宅まで通るルートだけを点灯させたり、といった実験が行われています。 シンガポール国内で求人する際には政府の求人データベースに登録することが義務付けられているのを活用して企業における採用ニーズをすべて把握し、可能性を持った個人に向けたキャリアアドバイスをする、といったユニークな事例も紹介されました。 一方、トップダウンの「政府主導」だからといって国民が必ず協力し、スムーズに進むとは限りません。その場合は国民の負担を減らしたり、インセンティブ設計により活用を促進したりする試みがあります。 プログラムファシリテーター三井様による通訳と解説で4日間を通してスムーズなセッションが実現しました たとえば、デング熱の予防のために蚊の発生源となる水たまりを除去することは環境庁の重要な仕事ですが、市民が水たまりの写真をスマートフォンで撮影して送ることで、職員は「発見」ではなく「処理」だけすればよくなります。また、買い物に行けないお年寄りの買い物に付き添えば、バーチャルクレジットが付与され、それを自分の子どものピアノの教室の支払いに使える、といった制度もあります。 シンガポール政府が主導する「スマートネーション」は、単にテクノロジーを投入するのではなく、「国民が何に困っているか」「どうやったら解決できるか」「ひとつの解決方法がうまく機能しない場合はどうやって改善するか」について産官学、そして市民までも加わったエコシステムを形成しようとしていることがわかるセッションでした。
午後からはDBICと提携し、東京で「DBIC-IMD デジタルビジネス・トランスフォーメーションプログラム」を開催していただいているIMDのシンガポール校に訪問しました。スイスに本校を置き、ビジネススクールの世界ランキングでトップクラスの評価を受けているIMDが、2015年にスイス以外に唯一設立したのがこのシンガポール校です。 IMDシンガポール校 Executive DirectorのSimon Craft様に加え、プログラムファシリテーターを担当いただいているCLO LABSの三井幹陽様も前職はIMDでシンガポール校の設立に携わったご経験があり、おふたりからIMDの特徴をご説明いただきました。 IMD Executive DirectorのSimon Craft様 まず、IMDの強みは大学を抱えておらず、エグゼクティブ教育に特化している点です。他にもライバルとなる世界的な大学のビジネススクールがありますが、どうしても大学経営が大きな部分を占め、エグゼクティブ教育の規模が小さくなります。 そのような中、エグゼクティブ教育に特化したIMDは、英ファイナンシャル・タイムズのランキングにおいてオープンプログラム(公開講座)で6年連続世界ナンバーワン、カスタム講座でもトップ3位内という評価を受けています。 近年のIMDの大きな変化としてデジタルプログラム(Eラーニング)の拡充があります。MOOC(Massive Open Online Courses)に代表されるマス向けのライバルに対して、ここでもIMDはSPOC(Small Private Online Courses)というアプローチで差別化しています。つまり、オンラインでも担当講師が付き、直接コミュニケーションができるのです。 シンガポール中心部の真新しい高層ビルに開設されたIMDシンガポール校は、ビデオ会議システムに対応したカンファレンススペースに加え、プライバシーの確保された会議室も充実していました 加えて新規ビジネスモデルのシミュレーションや、中国などへのマーケットダイブ(視察旅行)も実施。ビジネススクールのアカデミズムとコンサルティングファームの実践力の「良いとこ取り」をしているのがIMDです。教授陣も約50名と少数ですが、アカデミックとビジネスのキャリアを行き来して両方の知見を持っている人材が多いのが特徴的です。 現在ではIMDシンガポール校を拠点に中国、日本、香港、インドネシア、タイを広くカバー。プログラムがモジュール制になっているため、この部分を日本で、ここをジャカルタで、その間をデジタルでつないで、マーケットダイブを中国で行うなどフレキシブルな対応が可能です。 オンラインでご参加いただいたIMD北東アジア代表 高津尚志様 Q&AのコーナーからはIMD北東アジア代表である高津尚志様もオンラインでセッションにご参加いただき、デジタルビジネストランスフォーメーションを企業内で起こすためにチームで取り組む重要性とIMDの活用方法などについて解説していただきました。
初日の締めくくりは、DBICのデザインシンキング・ワークショップで講師を担当していただいているフレッシュリーグラウンド(FreshlyGround)のティエリ・ドゥ(Thierry Do)様とシャン・リム(Shang Lim)様。IMDのご厚意でクラスルームをそのまま使わせていただいてのセッションです。 今回はデザインシンキングのメソロジーではなく、シンガポールにおいてデザインシンキングがどのように導入されたか、そしてビジネスの現場で活用されているかをご紹介いただきました。 フレッシュリーグラウンド(FreshlyGround) ティエリ・ドゥ(Thierry Do)様 まずシンガポール政府がデザインシンキングを導入した目的が「持続的成長」であり、その成果としてシンガポール国民ひとりあたりのGDPが2003年の45,800USDから2017年に87,855USDまでに倍増していることが紹介されます。 政府機関であるDesign Singapore Councilから指名を受けた両氏が骨子を策定したDTIA (The Design Thinking and Innovation Academy)を通してこれまでに約500の企業と公共機関で約6000人がデザインシンキングのトレーニングを受講しています。 フレッシュリーグラウンド(FreshlyGround) シャン・リム(Shang Lim)様 国立図書館、裁判所といった公共サービスからヘルスケア部門、THALESやDBS、そしてシンガポール航空といった民間企業まで幅広く、デザインシンキングの要である「ユーザー中心のアプローチ」を取り入れている事例が紹介されました。 デザインシンキング分野は参加者の関心も高く、積極的な質疑応答が行われました。中でも象徴的だったのは「デザインシンキングの研修を受けた社員が数人いたとしても、実際のビジネスにおいてデザインシンキングを活用することが難しい」といった日本企業の悩みでした。 デザインシンキングセッションの質疑応答の模様 これに対してドゥ様、リム様からは「デザインシンキングはチームで共通言語を使って行うことが重要」「デザインシンキングを理解するだけではなく、組織内の他の社員にデザインシンキングを教育できる人材を育成する」「シニアマネジメントがデザインシンキングの重要性を理解し、トップダウンで行うのが効果的」「問題解決の前に、そもそもの問題発見のためにこそデザインシンキングを使うべき」といった回答がありました。 まさにSMUやIMDにおけるセッションでも繰り返し出てきたテーマが見えたところで、初日のプログラムがすべて終了となりました。
2日目はバスでの移動からスタート。シンガポール発のIT企業であるNCSを訪問し、政府と二人三脚で進めるスマートネーション構想におけるテクノロジー面についてのプレゼンテーションを受けました。 入館には厳重なセキュリティがあり、ほとんどの場面で撮影も禁止という厳戒態勢の中、SMUのサポートにより貴重な訪問の機会が実現しました。 NCSのエントランス 冒頭はSmart & Safe City事業部のディレクターShaun Ng様から、1981年に政府系期間として発足してから民営化し、1997年にシンガポールを代表するテレコミュニケーション会社であるSingTelの傘下に入り、更には2002年にはグループ内のIT部門であったSingTel Aeradioと合併して現在のNCSが形成され、シンガポールのICT市場でナンバーワンのマーケットシェアを持つまでになった同社の歴史が紹介されます。 ここからが本題。初日のSMUやEDBの説明にもあった通り、シンガポール政府が主導する電子政府化のシナリオにおいて最新の「スマートネーション」は市民の生活の豊かさにフォーカスしています。 国民番号制により引っ越し時の手続きをワンストップで行えるといった利便性向上はもちろん、NCSが開発するSURF(Solution for Urbanized Future)では特に「センサーによるデータ収集と分析による安全性の向上」を得意としています。 NCS Smart & Safe City事業部ディレクター Shaun Ng様 データを収集するだけではなく、センサーやソーシャルメディアなど異なるデータを統括して扱えるプラットフォームを開発し、数十名規模のデータサイエンティストのチームによってそれを分析し、アクションプランにまで落とし込む「アナリティクス」でバリューを生み出しています。 Proof of Concept(PoC=概念実証)として、リトルインディア地域における火災探知の事例が紹介されました。実証実験で車両に取り付けたセンサー、街灯に取り付けたカメラ、そしてソーシャルメディアを組み合わせてデータセンターに送信し、分析をしていたところ、深夜に起きた火災はどのセンサーよりも先にソーシャルメディアでの突然話題が活発にやり取りされたことから検知ができたとのことです。 その他にも、信号機にカメラを取り付け信号無視やスピード違反を検知する仕組み、チャンギ空港でカートにカメラを取り付け着陸便にあわせてカートが不足しているエリアを検知する仕組み、病院での処方箋発行から薬のピッキングをロボテック化して時間短縮する取り組み、と前日のデザインシンキングのセッションでも学んだ「顧客視点での問題発見、問題解決」の事例が繰り返し紹介されます。 また、各分野の実務経験者を採用し、エンジニアと共同でソリューション開発を行うことも特徴的です。治安分野でのソリューション開発のためには、元警察官の採用を積極的に行ない、現場視点での「問題発見」につなげています。これをSURFと結びつけることで、検知性の向上、迅速な対応、生産性の向上を兼ね備えた次世代の警備システムを開発し、競合他社のソリューションとの差別化に取り組んでいます。 最も時間を割いて説明を受けたのがスマートカメラ。従来の監視カメラによるビデオ撮影はデータが膨大になり、通信に時間がかかり、サーバーで保存・解析するためのストレージやコストがかかるといった問題がありました。 そこで、カメラ自体にデータ解析機能を搭載してしまうことで、カメラ単体で問題を検知し、問題が起こった前後の10秒間だけをサーバーに送信する、といったソリューションで通信や保存の圧倒的なコストダウンを実現しています。現在は顔認識を中心に実証実験を行っていますが、ひとつの映像の中から音声や、行動における異常行動を並行して検知する仕組みも開発中です。 トイレからエネルギーまで、効率化とQOL向上への取り組み 治安分野の説明はここでいったん終了。スピーカーは同じくSmart & Safe City事業部のシニアマネージャーAndrew Yip様に交代し、「Smart Urban Infrastructure」をテーマにビルオーナーを対象にしたビジネスモデルにテーマが変わります。 NCS Smart & Safe City事業部シニアマネージャー Andrew Yip様 最初の事例は「スマートウォッシュルーム」、つまりトイレの改善です。NCSではトイレの問題を汚れ、ゴミ、消耗品の欠品の3つに定義し、汚れ(臭い)を検知するアンモニアセンサー、トイレに入った人を数えるカウンターそしてタバコの煙を検知するセンサーを取り付けています。 シンガポールのトイレといえば、チャンギ国際空港で利用者がトイレを5段階評価するパネルが有名ですが、NCSの見解ではこれは「人は問題があるときにしかボタンが押されない」という不完全性を持つため、センサーによる自動化をし、トイレサービスを「オンデマンド」から「デマンド予測」に進化させました。 ユーザー視点でのサービス改善事例として有名な、チャンギ国際空港で利用者がトイレを5段階評価するパネル。NCSではこれを超える自動化ソリューションを提案 次のテーマは「ENERGY DATA MANAGEMENT」です。パリ協定により二酸化炭素の排出量削減が求められる中、シンガポール政府は水道料金の値上げや課税によって削減を促しています。ビルオーナーからの要求が高まり、ビル全体ではなく、スマートメーターを利用してフロア単位、部屋単位での電気や水のきめ細やかな利用計測が行われるようになりまいた。 また、NCS独自の技術デモとして「WAY FINDER」の紹介がありました。これは、GPSが室内に弱く、広大なキャンパスで学生が迷うという大学のニーズから開発されたもので、地球の磁力と建造物の壁にある鉄筋というふたつの情報だけを利用して室内での位置を1m程度の誤差の範囲で正確に特定するという技術です。実際に大学の室内を使ったデモ映像では、キャンパス内の位置をアプリが正確に特定しながら歩くことができていました。 NCS訪問記念の集合写真 その後は制御室のデモです。壁一面の大きなスクリーンにシンガポール全土が表示され、前週にF1が開催されたときのデータを元に渋滞情報はもちろん、どこに何人が集まっているか、その中のシンガポール人と外国人の比率がどうなっているか、どこの国の人がF1開催の前後にどのように移動しているか、といった情報が同じ画面内でモニタリングできることがわかります。 また、MRT(地下鉄)の駅に置かれた定点カメラで長期間放置されている不審物が発見された際、通知があり、それをどのレベルに通報するか、といったデモも。更に、街や建物を3Dで再現し、監視カメラの映像を建物内の実際の位置に組み込むことで、漫然と並んだ大量の画面を見るのではなく、「この位置に不審者がいる」といった情報が直感的に把握でき、侵入者に対して照明の点灯で警告を出したり、部屋の鍵をかけて閉じ込めたりといったことも行えるとのことです。 このように同一のプラットフォーム内で様々な種類、レイヤーの情報を組み合わせて直感的に表示し、アクションを起こせるようにすることで効率化が進み「F1開催時にだけ大量の警備員を雇わなければならない」といった問題を改善することもできます。また、監視システムは「何かおきたら通知される」という原則で動いているためオペレーターが常駐する必要もなく、通知が来たときにだけ見れば良い、というコストダウン効果もあります。 Tech Innovation訪問時の様子 以上でNCS訪問を終え、午後からはマリーナ・ベイ・サンズで開催中の「Tech Innovation」または「Digital Infrastructure Summit」を選択して参加し、2日目が終了となりました。
3日目の冒頭は、2012年に起業してからの5年間でトランスポーテーションビジネスを軸に東南アジアで急成長を遂げている「Grab」からのプレゼンテーションがありました。 記録、撮影は一切NGだったため残念ながらここでレポートを掲載することはできませんが、その刺激的で圧倒的なビジネス理念、そしてスタイルに参加者からの質問も予定時間をオーバーして続き「今回のシンガポール滞在でGrabの話がいちばん刺激的だった」という感想を持つ参加者もいらっしゃったほどの目玉プログラムとなりました。ご興味のある方はぜひGrabの公式サイトをご参照ください。
続いては富士通アジアのニューソリューションビジネスディビジョン・バイスプレジデント山浦亮一様からシンガポール科学技術研究庁(A*STAR)、富士通、そしてSMUが2014年に産学官合同で設立した研究ラボ「UNiCEN(Fujitsu-SMU Urban Computing and Engineering)」のプレゼンテーションです。 古いビルをSMUがリノベーションし、UNiCENの施設として学生、教授、富士通社員、そして行政スタッフが共に働く場となっています MPO( Maritime and Port Optimization=海と港の最適化)とDMM(Dynamic Mobility Management=混雑解消)を事例に研究テーマと成果をご紹介いただきました。 富士通アジア 山浦亮一様(左)とSMU Lau Hoong Chuin教授(右) ここでもテーマになったのは「シンガポールならでは」の産官学連携のスタイルです。シンガポール科学技術研究庁は予測のテクノロジーを持ち、SMUのLau Hoong Chuin教授による「コーディネーション」というシミュレーションモデル、そして富士通の計算技術が組み合わさって実現しているコラボレーションであることは大前提ですが、それだけであれば日本でも可能性があります。 日本ではなくシンガポールでなければできないこととして山浦様が強調されていたのは、まず、データの分析結果を現場のノウハウと組み合わせて実際のオペレーションに落とし込むことができるか。MPO(海と港の最適化)の例で言えば、データシミュレーションによる事故予測や防止案について、政府のサポートによりシンガポール海事港湾庁の管制官や、船舶の船長経験者と「現場で通用するか」を議論する場がセッティングされるのが重要であること。DMM(混雑解消)ならば、大規模コンベンションセンターやショッピングモールがセンサーの取り付けやデータ提供に協力してくれます。 「プレゼンの場ではなく、語り合う場所にしましょう」と積極的なディスカッションを呼びかけてくださった山浦亮一様 シンガポールの人口は約560万人(2016年)、一人あたりのGDPが約53,000USD(2016年)であることを考えれば、シンガポールは「マーケット」ではなく、「シンガポールで出会い、実験、開発したビジネスを東南アジアに輸出する拠点」である、と山浦様もおっしゃいます。そのためのシンガポールの「場作りのうまさ」は圧倒的。 現時点において、世界最先端の技術はアメリカやイスラエルから生まれていることは事実です。一方で、今求められている技術革新は個別の技術そのものではなく、技術を「どう組み合わせ、どう使うか」にシフトしています。 ラボ内の見学ツアーの模様 プレゼンの最後に、多様な国籍、人種、立場から構成される「UNiCEN」チーム集合写真が映し出され「オープンイノベーションと口で言うのは簡単ですが、この多様性の中で、アジアのパワーを肌で感じられるのがシンガポールです」という山浦様の言葉が、参加者の心に刻まれたセッションでした。
ここから一行は「シンガポールのシリコンバレー」と呼ばれる「One-North」エリアにバスで移動しました。最初の訪問先はオランダとイギリスに本拠を置くグローバルな洗剤・ヘアケア・食品・トイレタリー用品メーカー・ユニリーバが2013年にシンガポールに開設した広大な人材育成施設「Four Acres Singapore」。スピーカーは同施設のグローバルディレクターを務めるBetty Lau様。 Four Acres Singaporeのエントランス ユニリーバは2016年の売上高は527億ユーロ、世界190カ国以上で400のブランドを取り扱う真のグローバル企業です。日本でもLUX、Dove、リプトンなど生活の一部となっているブランドが数多くあります。 ユニリーバの危機は意外な形で訪れます。近年の同社の売上の60%は新興国であり、インドが最大の市場です。最初はインドのスタートアップ企業がユニリーバの半値で、品質の悪い競合商品を売り出しました。初年度の時点ではユニリーバはそれを脅威とは感じていませんでしたが、2年目には商品の格段に品質が向上し、価格が半値のままであったため、ライバルのスタートアップ企業の売上は年間1億ドルにまで急成長しました。 Four Acres Singapore グローバルディレクター Betty Lau様 「今と同じビジネスを続けていたら、2年後にはユニリーバはインド市場を失うでしょう」とBetty様が語るように、ユニリーバは圧倒的な危機感から従来の「事前に用意したカリキュラムを学ぶ」という人材育成のスタイルを破棄し、デザインシンキングを導入したスーパーローカルなアプローチに急速に転換します。 ひとつの例は、エグゼクティブチームを中国に派遣し、現地のミレニアル世代(2000年代に成人あるいは社会人になった世代)の生活に一日密着させ、彼らがどのようにモバイル機器を使っているかを実体験させます。2日目にはエグゼクティブチームが初日の体験を踏まえて、ユニリーバとしての中国でのEコマース戦略を検討します。 大規模なカンファレンスルールにお招きいただきました これは、デザインシンキングの基礎、すなわちユーザーを観察し、分析し、プロトタイプし、テストし、継続的に改善していくという循環のメソロジーに基づいたものです。 また、人材育成のプログラム開発自体にもデザインシンキングを導入しています。まずは教育対象となる社員100名に対して徹底取材し、年齢性別人種、家族構成といった基礎データに加え、どんなキャリアを持ち、何を目指しているのか、何がモチベーションになるのか、どんな学習方法を好むのか、何に困っているのか、といったペルソナを対象社員ひとりずつに設定していきます。 美しくデザインされたFour Acres Singapore その際、Betty様の部署では「Go Crazy」と呼ばれるブレインストーミングセッションがあり、特定の社員の問題を解決するために「制約なし」で解決案を検討する機会を設けています。「Go Crazyブレインストーミングをやらない限りは、結局従来の教育システムに戻るだけです。Go Crazyを通して、職場内、他部門、更には他社までを巻き込んだ人材育成イノベーションを起こすことができました。私たちは教育を提供するのではなく、問題を発見し、解決するサービスを提供しています」とBetty様は語ります。 具体的な手法としてはアメリカのEラーニングキュレーションサービス「Degreed」の活用が挙げられます。これは、自分の関心やスキルを登録することで、クオリティチェックが済んだコンテンツをパーソナライズして提供されるサービスです。 ユニリーバではDegreedをはじめとするEラーニングを社外サービスも含めて積極的に取り入れています。外部サービスをプラットフォームにすることで、社員がユニリーバを退職しても学習を続けることができるため「囲い込み」よりも「生涯学習」というカルチャーを優先している同社の姿勢が現れています。 普段は入ることのできないエグゼクティブ向けの会議室も見学させていただきました 歴史のある大手の学習サービスよりも、Degreedに代表されるようなスタートアップのEラーニングシステムのほうが安価でフレキシブルであるため、ユニリーバにおいてはスタートアップを中心に教育サービスを選定していとのことでした。 また、現在ユニリーバ社内で300人を対象に実験的に行っているのが個人別に心理テストとスキルテストによるアセスメントを行なって、スキルプロファイルページ作成し、育成プランを組み立てることです。 これは「オープンタレントエコノミー」と呼ばれる社内人材把握や流動のためですが、驚くべきはその「オープン」の範囲が他社にも広がっている点です。もし、ユニリーバ内に必要な人材が他社に入ればプロジェクトに参加してもらい、逆にユニリーバ内の人材が他社から求められた場合は提供する、という仕組みです。 Four Acres Singapore内のツアーの模様 もうひとつ実験として、外部サービスである「リモートイヤー」を実験的に活用し、Betty様の部署内のミレニアム世代の社員を12ヶ月間、1ヶ月につき1カ国、ローテーションしながら勤務させる実験も行っています。 渡航期間中も同部門の仕事を続けますが、12ヶ月間にもわたってリモートワークとなり、各地のユニリーバのオフィスまたはコワーキングスペースから勤務することになります。これにより、インドで起こったようなハイパーローカルなコンテクストを理解できる人材育成が期待されています。 Four Acres Singapore内のツアーの模様 ユニリーバほどの歴史あるグローバル企業がこれほどの「危機感」を持って、これまでの常識をリセットするようなイノベーティブな人材育成を、しかもスタートアップを中心とした外部サービスを活用して行っていることは、DBICメンバー企業からの参加者の目にどのように映ったでしょうか。 Four Acres Singapore内のツアーの模様 Betty様と参加屋の積極的な質疑応答の後は、美しく広大な「Four Acres Singapore」の施設ツアーを経て、一行はOne-Northエリア内にあるスタートアップのインキュベーション施設に徒歩で移動しました。
シンガポールのスタートアップが密集するOne-Northエリアに「JTC Launch Pad」と呼ばれる、工業団地をリノベーションしたインキュベーション施設密集地帯があります。 象徴的な「THE FUTURE STARTS HERE」の文字 その中で最初に訪れたのはスタートアップ支援の政府系機関SGInnovateにより2015年に開設されたコワーキングスペースBASH(Build Amazing Start-ups Here)です。 遊び心あふれるBASHのエントランス BASHのドアを開くと最初に目に飛び込んでくるのは、共有の広いプレゼンスペース。ベンチスタイルの観客席、コーヒーカウンター、ドラムセットなどクリエイティブなムードたっぷりの空間から、ドアを1枚挟んだ奥には広大なスタートアップのためのコワーキングスペースが広がっています。 プレゼンテーションのトップバッターはFinLabからOperations ManagerのWill Leong様。FinLabは19カ国に500以上の支店を持つシンガポール3大銀行の一翼を担うUOB銀行とSGInnovateのジョイントベンチャーで、FInTech領域を専門にスタートアップ支援をしています。 FinLab Operations Manager Will Leong様 Will様は東南アジアマーケット進出への足がかりとしてのシンガポールにおけるスタートアップの優位性を説明した後、革新的な技術があったとしても、チーム編成やクライアント探しのハードルが高いという課題を挙げます。 UOBの審査を通り、FinLabに参加できたスタートアップは最大6ヶ月間のBASHの利用、UOBによるクライアント紹介、メンター制度、政府支援、プレゼンテーション内容のアドバイス、外部専門家の紹介といった「不公平とも言えるレベルの」サポートを受けることができます。また、UOBやクライアントから「問題」を提示され、それを解決するためのソリューションを解決する、というビジネス開発の機会も与えられます。 プレゼンテーションの模様 また、UOBがファミリー層に強いという特徴を活かし、インドネシアやタイといったファミリーマーケットへ進出を目指すスタートアップにとってのメリットも多くあります。実際、金地金をモバイルで気軽に購入できる「Hello Gold」など8つのビジネスがFinLabから生まれ、サービスインしています。
BASHでの2番目のプレゼンテーターはFinLab第一期卒業生であり現在はオンライン外貨交換サービス「NICKEL」のCEOであるLiam Juilen Lin様。 NICKEL CEO Liam Juilen Lin様 Liam様は、インドネシアのマーケットにおける外貨交換の主流がまだ銀行窓口が中心であることに着目し、ブロックチェーンを使って複数の銀行レートを比較し、自動的に最も良いレートで交換できるプラットフォーム型モバイルサービスとして「NICKEL」を開発した経緯をご紹介いただきました。 プレゼンテーションエリアの奥に広がるコワーキングスペースはたくさんのスタートアップメンバーで賑わっていました
BASHを後にして「JTC Launch Pad」内を移動してオープンイノベーションラボである「Innosparks by ST Engineering」に向かいます。Business Development 部長のMalcolm Chua様を中心に施設内をナビゲートしていただきました。 Innosparks by ST Engineering Business Development 部長 Malcolm Chua様 ここでは3Dプリンターを中心としたプラスティック、金属の工作機械と専門エンジニアが常駐し、スタートアップに不足しがちなハードウェア面での加工技術や設備の支援を行っています。 本格的な3Dプリンター設備のデモンストレーション 雑然と工作機器が並ぶ様子はまさに研究室 このラボからは「AIR⁺ Smart Mask」という世界初の超小型通風機付きマスクが誕生し、複数のデザイン賞の受賞や、大気汚染へのソリューションとして中国市場でのセールスにつながっています。
盛りだくさんだった3日目の締めくくりはシンガポールを代表するデベロッパーであるAscendas-Singbridgeが手がける新しいオフィス施設「the bridge」にてChief Customer Solution OfficerであるAylwin Tan様にお話を伺いました。 正式オープン前の最新オフィスビル「the bridge」 先程まで訪れていたOne-North地区も同社によるプロジェクトであり、バイオメディカル、インフォコム、エンジニアリング、メディアのセクターにフォーカスし、同エリア内にシンガポール国立大学、シンガポール国立大学病院、サイエンスパークなどを集約することでエコシステムを形成。更にチャンギ国際空港などシンガポール国内の大規模開発に加え、中国、インド、そして東南アジアにおける大規模オフィス建設を多数手がけています。 Ascendas-Singbridge Chief Customer Solution Officer Aylwin Tan様 Ascendas-Singbridgeが単なるデベロッパーと異なるのは、土地や建物の提供のみにとどまらず、ローカルマーケットへの参入サポートを手がけている点です。例えば日本企業がインドや中国への新規参入、または参入済みの国の異なるビジネスエリアに参入したい場合、現地企業や参入済み企業とのコミュニティ、エコシステム形成をサポートしています。 シンガポール各所で繰り返されてきた「これからのグローバルビジネスは一社だけでは成功できません。日本企業も他社とのコラボレーション、パートナーシップによって問題解決し、エコシステムを形成してください」というメッセージをAylwin Tan様からもいただき、まだオープン前という新しいオフィス内を特別に見学させていただいて3日目のプログラムが終了しました。 3日目の充実した7つのセッションが終了
最終日の4日目は会場をSMUに戻し、2017年10月からSMUで開講する「Smart-City Management Technology Major」を担当されるKar Way Tan教授によるプログラム解説からスタートします。 初日のSMU情報システム学部部長Pang Hwee-Hwa教授のお話にもあった通り、SMUにおけるスマートシティ専攻はテクノロジー、社会科学、そして経営の3本柱から構成されます。 世界人口の54%が都市部に集中し、2050年にはそれが66%まで上昇するという予測に基づき、スマートシティはソリューションとして世界に通用する「輸出物」に成長する可能性が高い領域です。 SMU Kar Way Tan教授 また、スマートシティの目的はあくまで「テクノロジーを使って、人々の暮らしを持続的に豊かにすること」であり、そのためには「問題発見」能力が重要であることが繰り返されます。中心となるスキルはデータ解析、プログラミング、そしてプロジェクト経験ですが、SMUはカリキュラム構成にあたって企業や政府機関に徹底的にヒヤリングし、「こういうスキルを持った学生がいれば、こういう職種で採用できる」という意見からブラッシュアップしていきました。 3日目の富士通とのコラボレーションによって生まれたUNiCENラボに加え、DHLのサプライチェーンの課題にSMUが取り組んだ事例も紹介され、「企業から奨学金をいただくのも強力なサポートになりますが、企業のリアルな課題をSMUに投げていただくこと自体が、SMUにとってたいへんありがたい機会になるのです」とTan教授は語ります。また、SMUが課題解決に取り組むことで、企業にとってもそれがそのままアジアマーケットのリサーチになるというメリットもあります。 SMUの卒業要件のひとつに「企業の課題解決」が課されており、シンガポールにおける産学連携が、本当の意味で機能していることが改めてわかる最終セッションとなりました。
以上でセッションのすべてが終わり、DBIC副代表である西野によるプログラム総括です。 冒頭に、諸外国と比較した際の日本における派遣会社の突出した多さと芸能ニュースの多さ、そして2016年のOECD加盟国内の労働生産性ランキングで日本がギリシャに抜かれて22位になっていることがデータと共に紹介され、その圧倒的な「危機感」からDBICが設立された経緯が説明されます。 DBIC副代表 西野弘 ひとり当たりの国民所得もシンガポールが日本を大きく引き離しており、収入だけではなく「幸福度ランキング アジア第1位 (2017)」といったランキングが紹介され、日本にもそのポテンシャルがある一方、経営におけるIT活用ができていないことが日本の壁になっているのではないでしょうか。 DBICは、NPOであるという強みを活かして、今回の「経営幹部向け海外探索ミッション:シンガポール」でもIMD、SMUそしてシンガポールのEDB局長と連携したプログラムを提供することができました。その一方でメンバー企業の皆様にイノベーションを起こすことができていないという危機感を感じています。 今回シンガポールの4日間で学んだ大きなテーマは単体企業ではなく「コミュニティをつくり、その中でひとりのプレイヤーとして参加する」ということで壁を乗り越えることです。そして、シンガポールが国家としてその「場づくり」を自ら主導している点でした。 初日の朝と同じSMUの会議室で最終セッションを迎えました。参加者の皆様にどんな変化をおこすことができたでしょうか 果たしてこれからのDBICがメンバー企業の皆様に対してその「場づくり」を提供できるか、という課題を共有し、西野の総括が終わります。
最後に参加メンバーの皆様からいただいた感想の一部をご紹介して、本レポートの締めくくりとさせていただきます。(発表順) 味の素株式会社 小川 晶子 様 プログラムで学んだことをChange、Influence、Achieveの3ステップで進めます。私自身の行動やマインドセットを変える。部の若手や同僚を巻き込む。問題を発見しそれを解決することです。 東京海上日動火災保険株式会社 五十嵐 逸郎 様 自分だけでなく、ここで学んだ問題意識を持った人をどうやって周囲に増やしていけるかが課題になります。日本に戻ってから持続していくことの重要性を感じました。 AJS株式会社 工藤 弘明 様 仕事に求められる安定性・確実性と、経営として考えなければならないイノベーションの間で葛藤を感じつつも、明日から何かアクションを起こしていこうというきっかけになりました。 東京ガス株式会社 門 正之 様 デザインシンキング、産官学のエコシステム、そして若い人の活躍という点において、シリコンバレーとの共通点を多く感じました。次は若手の社員と一緒にシンガポールに来ます。 株式会社アイ・アイ・エム 住友 邦男 様 デザインシンキングは単なる「顧客志向」ではなく「自分がその視点になって考える」ことに気づけました。そのスピード感含めて、考えるだけでなく実践までもっていきたいです。 ヤマトホールディングス株式会社 奥住 智洋 様 日本のビジネス環境において大きな危機感を持っているところ、社会課題の中から問題発見するというシンガポールのアプローチに刺激を受けました。ぜひ持ち帰って実践したいです。 大日本印刷株式会社 沼野 芳樹 様 危機感が増幅する4日間でした。また、シンガポールは事業をやる場所ではなく、他社とコラボレーションして新しい事業を創り出す場所として位置づけ直す必要があると感じました。 株式会社かんぽ生命保険 中川 尚久 様 従来は技術開発があり、後から使い道を見つけて事業化される傾向がありましたが、まず問題を発見し、解決のロードマップを示すことがイノベーションを推進するのだとわかりました。 株式会社野村総合研究所 長谷川 剛 様 自分が日頃海外で仕事をしていて日本に対して感じていた危機感を、今回のプログラムを通して確信に変えることができました。この危機感を日本に持ち帰り、社内改革につなげたいです。 日本航空株式会社 光益 彰 様 DBICのメンバー企業31社には金融、システム開発、食品まで幅広い業種が揃っています。私たちが手を組み、もう一度「メイドインジャパン」の強さをアジアで示せたらと強く感じます。 ANAシステムズ株式会社 稲田 敏 様 技術だけなら日本とシンガポールはそれほど変わらなくとも、国が国民をペルソナとして捉え、実行するプロセスが圧倒的に異なりました。問題発見能力を鍛えるヒントが見つかりました。 日本ユニシス株式会社 千葉 真介 様 「マーケットは何処か?何か?」「誰がパートナーで、誰かコンペティターか」など改めて考え直させられると共にスピード感においての危機感を強く感じさせられる有意義な機会となりました。感じるだけでなくアクションし続けたいと考えます。
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