【横塚裕志コラム】管理OSの経営から、マネジメントOSの経営へ

前々回のコラムでは、企業の行動様式を支配するOSを「管理OS」「マネジメントOS」「人間OS」という三層構造で整理した。多くの日本企業は長年、管理OSによって運営されてきた。しかし、顧客価値が複雑化し、正解が事前に見えない時代において、管理OSのままでAIを導入すれば、企業は変わるどころか、むしろ機能不全を加速させる。
では、管理OSに代わる「マネジメントOS」とは、具体的にどのような経営の姿なのだろうか。本コラムでは、管理OSとの対比を通じて、その実像をもう少し具体的に考えてみたい。

1.管理OSの企業では、何が起きているのか

管理OSの企業では、仕事は「決められたことを正確に実行すること」として設計される。評価の軸は、ルールを守ったか、ミスがなかったか、計画通りに進んだかといった点に置かれる。
このOSのもとでは、組織の会話にも特徴が現れる。会議では「しっかり対応します」「品質を高めます」「主体的に取り組みます」といった言葉が頻繁に語られる。しかし、これらは行動の姿勢を表しているだけで、成果そのものを具体的に規定しているわけではない。
売り上げ数字は「結果」であり、顧客のどの価値を上げるのか、という「成果」を表現していない。その結果、現場では「何を達成すれば成功なのか」が不明なまま仕事が進む。各部門はそれぞれ真面目に努力しているのに、組織としての成果が積み上がらない。

2.マネジメントOSの出発点は「成果の定義」

これに対して、マネジメントOSでは、仕事の出発点がまったく異なる。最初に考えるのは「何をするか」ではなく、「どのような成果を実現するのか」だ。
ドラッカーは、マネジメントを「組織に成果をあげさせるための道具」と定義した。ここで重要なのは、マネジメントが人を管理する技術ではなく、成果を実現するための仕組みだという点だ。
マネジメントOSでは、まず次の問いを明確にする。
「誰にとっての成果なのか。」「どの状態を成果と呼ぶのか。」「それをどのように測るのか。」ここでいう「成果」とは、努力や活動ではなく、顧客や社会に生まれた具体的な変化を意味する。

病院での事例で考えてみよう。
多くの病院では、「安全な医療を提供する」、「医療の質を高める」、という抽象的な方針になっている。しかし、ある病院では次のように成果を定義した。
「手術後30日以内の再入院率を〇%以下にする」
成果を定義すると何が起きたか。現場の問いが変わる。

  • 退院判断は適切か
  • 退院後のフォローは十分か
  • 患者は服薬方法を理解しているか
  • 家族への説明はできているか

つまり、成果を定義すると、改善の対象が「医療技術」から「医療プロセス全体」に広がる。これはマネジメントOSの典型例だ。

成果が定義されることで、組織の改善の方向が見えるのだ。管理OSが「仕事を正しく実行すること」を起点に組織を動かすのに対し、マネジメントOSは「成果を実現すること」を起点に組織を設計する。この順序の違いが、両者の本質的な差だ。

3.成果を定義すると、組織の行動が変わる

成果が明確になると、組織の行動は大きく変わる。
成果が定義されると、組織は「指示を待つ状態」から、「自ら判断する状態」に変わる。何を優先すべきかが明確になるためだ。
社内の業務はすべて変わる。マーケティング、経理、人材育成、デジタル化、などなど、今までとは違う動きになる。これは、順次、このコラムが書いていくつもりだ。

4.マネジメントOSはプロ人材を活かす

マネジメントOSのもう一つの重要な特徴は、専門性の高い人材を活かせる点にある。管理OSでは、仕事の進め方が細かく決められるため、現場は指示に従う存在になりやすい。その結果、専門性や経験を持つ人材であっても、自分の判断を十分に発揮できないことが多い。
これに対してマネジメントOSでは、成果と判断基準が共有されているため、現場の専門家が自ら考え、最適な方法を選択できる。マネジメントの役割は、方法を指示することではなく、成果を明確にし、判断の軸を整えることにある。
こうして組織は、「指示で動く集団」から、「専門性を活かして成果を生み出す集団」へと変わる。

日本企業はこれまでも、専門性の高い「プロ人材」を採用してこなかったわけではない。外部からCIO・CDOや高度専門職を登用したり、DX人材を採用したりする動きは、すでに広く行われている。それにもかかわらず、多くの場合、その力を十分に活かすことができていない。なぜか。
理由は単純だ。組織のOSが管理OSのままだからだ。
管理OSの組織にプロ人材が入ると、次のようなことが起きる。

  • 成果ではなく「手順」への適合が求められる
  • 判断ではなく「根回し」や「合意形成」が優先される
  • 専門的な提案が、「前例がない」「他部門との調整が必要」という理由で止まる
  • 最終的な意思決定の責任者が曖昧なまま、結論が先送りされる

この結果、プロ人材は自らの専門性を発揮する機会を失い、やがて組織に適応するか、あるいは離れていく。つまり、問題はOSだ。
管理OSは、「誰がどう動くか」を揃えることで安定性を生む仕組みだが、一方、プロ人材は「何を実現するか」に対して自ら判断し、価値を生み出す存在だ。この両者は構造的に相性が悪い。このミスマッチのまま「プロ人材を増やせば変革できる」と考えるのは、本質を見誤っている。

5.マネジメントOSを動かすのは「問い」である

もっとも、マネジメントOSは自然に生まれるものではない。
最大の難しさは、「何を成果とするのか」という問いにある。どの顧客に価値を提供するのか、どの状態を成功と呼ぶのか、何を優先し、何を捨てるのか。これらは仕組みではなく、人間の判断によって決められる。
つまり、マネジメントOSは成果そのものを問い続ける人間の思考が必要になる。
前々回のコラムで述べた「人間OS」が重要になるのは、このためだ。

マネジメントOSの経営に転換するために、人間OSとマネジメントOSが切り離されることなく、現実の課題を通して磨かれていく場が重要だと考えている。次回は、その場について、DBICの考え方を通じて探っていこうと思う。

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