最近、多くのDXイベントやAIイベントが開催されている。そこでは、AI活用・データドリブン経営・AIによる業務改革・イノベーション・経営変革、といった、「構想」が華やかに語られる。
しかし、私は最近、BAの重要性に気がつき、その視点でDXイベントを見てみると、BA育成の議論をほとんど聞かないことに気がついた。「誰がそれを作るのか」という議論自体が、驚くほど少ない。唯一、ファーストリテイリング社の「デジタル業務変革サービス部」の説明が、まさにBAの役割だった。
以前は、データサイエンティストの話が少し出ることはあった。だが、本来、企業変革の中核を担うべき、BA(Business Analyst)、AIエンジニア、データエンジニア、ビジネスアーキテクト、セキュリティ設計者、といった「実装側の専門人材」の議論は、ほとんど出てこない。
だが、本当に企業を変えるのは、業務を分解し、意思決定構造を整理し、責任境界を設計し、AIを業務フローへ埋め込み、現場で運用可能な形へ落とし込む専門人材だ。にもかかわらず、日本のDX議論では、「構想」は語られるが、「誰が実装するのか」が語られない。私はここに、日本企業の非常に深い問題を感じている。
もし、超高層ビルを建てるとしたらどうだろうか。構想を語る人だけ集めて、「未来都市を作ろう」、「住民体験を変えよう」と言っても、現実には何も建たない。
必要なのは、建築士・構造設計者・電気設計者・施工管理者、といった、専門遂行能力を持つ人材だ。しかも、彼らがいなければ、建物は危険ですらある。
ところが、日本企業のDXは、時にこれに近い状態で進められている。「AIを活用しよう」、「データ経営へ転換しよう」と言いながら、その実装を担う専門人材を軽視している。
そして、専門人材不足を補うために、ベンダー任せ・外注依存・PoC乱立へ向かう。
結果として、「AIを導入した」、「システムを刷新した」にもかかわらず、業務そのものは変わらない。
本来、DXとは業務構造と意思決定構造を再設計することなのだが、専門の設計者が不在だから、それが手つかずになっている。
ただ、ここで正直に書くと、私自身も、CIOだった頃に「専門人材の重要性」を強く語っていたわけではない。だから、他人を批判できる立場ではないのかもしれない。
ただ、30年前に私たちIT部門が、経営・ビジネス部門に対して強く主張していた「専門人材」がある。それは、業務要件を分析・整理する業務には専門性が必要で、ビジネス部門の想いを構造的に可視化する専門人材「設計士」の設置を訴えた。
この理由は、システム開発のトラブル原因の60%が要件漏れだったので、それを防ぐ意味での専門人材を重要視していた。
しかし、その後、企業システムの役割そのものが変わり始めた。欧米企業では、IT化の目的が部門業務の効率化から、業務プロセス全体の変革へと広がっていった。
その結果、「業務プロセス全体をどう設計するか」が重視され、その構造設計を担う専門職として、BAの役割が大きくなっていったようだ。しかし、日本ではその考え方が十分には定着しなかった。
AIは単なるシステム機能ではない。どの業務で使うのか、どこまで自動化するのか、誰が判断責任を持つのか、人とAIをどう分担するのか、を設計しなければ、成立しない。
つまり、単なる「システム開発」ではなく、「業務構造設計」が必要になったのだ。
BAとは、要件整理役の「設計士」を超えて、業務、責任、意思決定、利害、組織構造、それらを横断して整理する、「構造設計者」であり、そしてAI時代になると、その役割はさらに重要になった。
結果、AIの普及によって、企業は初めて「業務構造を設計できる人材」の不足に直面し始めている。AIの課題は技術不足ではなく、設計者不足なのかもしれない。
これからのCIOに最も必要なのは、「専門遂行能力の重要性」を理解していることではないだろうか。
なぜなら、AI時代の競争力は、「AIを導入したか」ではなく、「AIを実装できる組織を持っているか」で決まるからだ。
BAは、業務、人、責任、意思決定、経営目的、それらを横断して整理する、「組織設計」の専門職。AIエンジニアもまた、単なる開発者ではない。AIを現実の業務へ組み込む、実装責任者だ。こういった専門人材を中心としたCoEを設置し、プロジェクトを多く経験させて、実装できる組織力を培っていくことが、まさに競争力になっていく時代ではないだろうか。
つまり、これからのCIOに必要なのは、どの専門人材が必要か理解し、その価値を評価でき、組織内に育成し、意思決定の中心へ配置できることだと思う。
「専門人材」の価値を理解しないままDXを率いること自体が、企業リスクになり始めているように思われる。
経産省が「DXスキル標準」を定め、専門人材の普及に力を入れているのも、まさにこの危機感の表れなのだと思う。
しかし、専門人材はスキルリストやその研修だけでは育成できない。重要なのは、専門人材が能力を発揮できる役割と業務を用意し、実務経験を積める状況をつくることだ。これはCIOの大きな役割だと思う。
DXを語るのであれば、まず「作る人」を語らなければならないのだと思う。
他のDBIC活動
他のDBICコラム
他のDBICケーススタディ
【レポート】UNLOCK Alumni #1 開催レポート エンゲージメントと越境で実現する持続可能なUNLOCK
【レポート】「トランスパーソナル ショート&エッセンシャル」 4月期Kick Off & コミュニティ・イベント 開催レポート
【レポート】企業変革実践シリーズ第39回 AI時代における学びとキャリアオーナーシップ ――変化の時代に、自分と組織の「在り方」をどう再定義するか
【レポート】DBIC特別セミナー なぜデンマークは「短く働いて豊かな国」なのかーー『第3の時間』とスモール・スマート・ネーションズから日本への示唆
一覧へ戻る
一覧へ戻る
一覧へ戻る