【横塚裕志コラム】+AIからAIネイティブへ 経営の大転換が始まる

先日、CeFILの理事でもあるNTTデータグループの梅原稔執行役員に「AIが起こすビジネスへのインパクト」について旬なお話をしていただいた。
AIを既存ビジネスの効率化ツールとして使う段階(+AI)から、AIを前提にしてビジネス自体を大きく変革しようとする段階(AIネイティブ)への歴史的な大転換が始まっているという内容であった。欧米の先駆事例も含めた示唆に富む議論であり、参加者との質疑も尽きることがなかった。
この強烈な刺激を受けて、私として感じたことを以下に書こうと思う。

1.「便利になった」ことの意味を考える

この一年、日本企業におけるAI活用は急速に広がった。生成AIによる議事録作成、資料ドラフト、問い合わせ対応。現場の負担は確実に軽くなり、生産性も上がっている。これは間違いなく前向きな変化である。

一方、私たちは「便利になった」ことを、どこまで成果と呼んでよいのだろうか。
多くの場合、速くなったのは既存業務である。だが、ビジネスモデルそのものはどこまで変わっただろうか。価値の出し方や収益構造は、大きくは変わっていないようにも見える。
もちろん、効率化は重要である。しかしそれは出発点であって、終着点ではないように思う。

2.AIネイティブへのアプローチ

まずは、「便利にしたい」という目先の課題ではなく、経営課題ど真ん中に焦点を当てて、AIを前提にしたときの課題解決の方向性を考えるべきだろう。
損害保険を例に考えると、経営課題は次のようなことだろう。「代理店の品質向上」「保険金支払いのストレスフリー」「商品開発の多様化」など。これはこれで考えるべきテーマだと思う。しかし、これは「既存モデルの改善」であり、構造を温存したままの最適化である。

もう一段、AIネイティブへの取り組みがあるように思う。それは、AIを前提にしたとき、「保険とは何か」という定義自体を再定義することができるのではないか、というアプローチだ。
例えば、当社は「事故後補償会社」なのか「リスク伴走会社」なのか、保険は「支払う仕組み」なのか、「未然に減らす仕組み」なのか、という問いへの挑戦だ。AIは予測・検知・リアルタイム対応を可能にするため、「補償」中心モデルは相対的に古くなる可能性がある。

将来がどう展開するかは誰にも分からない。しかし、予測精度の差が積み重なることで、収益構造や競争条件に影響が出る可能性は否定できない。
もし事故やトラブルの予兆まで把握できるようになれば、事後対応中心のモデルから、未然防止型のモデルへと価値の重心が移ることも考えられる。
AIはツールというより、経営の前提条件を静かに書き換える存在なのかもしれない。

3.現行のプロセス改革でAIの可能性を体感したい

とはいえ、いきなり壮大な未来像を語ることにも違和感がある。
現行プロセスでAIを使い、精度の限界やデータ品質の課題を体感することは欠かせない。そのプロセスを経ずに構造転換を語っても、現実味を持たないだろう。
だからこそ、構造的な全体最適を前提にした効率化は必要である。
ただし、それを最終形にしないことが重要なのではないか。その先に、どのような構造の問いを置くのか。そこに次の一歩があるように思う。

4.AIは誰のテーマか

もしAIが価値定義やリスク構造に影響を与えるなら、それはIT部門だけのテーマではない。どのリスクを取るのか。どの顧客にどの価値を提供するのか。どこまでを企業の責任とするのか。
これらは経営そのものである。
AIを「導入する対象」として扱うのか。それとも「前提として考えるもの」として扱うのか。この姿勢の違いが、数年後に大きな差になっているように思える。

5.構想と技術の往復

AIを前提に考えるためには、構想と技術を往復できる場が必要だと思う。ビジネスモデルを描く視点と、AIの可能性と限界を理解する視点、その両方が交わるところで、本質的な議論を行うべきだ。新しい発想、新しい技術、未知の世界を専門に追いかけるチームが必要だろう。どこかの会社が始めるのを待って、あとから真似したらいい、という戦術は通用しないだろう。AIは、蓄積と学習の積み重ねが競争力そのものであり、遅れてしまうと追いつくことは難しい。

チームを構成する人はどんな人がいいのだろう。ビジネス改革を行うので、その業態の商品やプロセスに関する専門性が高いことは必須だろう。加えて、AIは新しい世界観なので、学ぶ意識が高いことと、業界の常識や成功体験を捨て去ることができる人材が適任だろう。

6.AIの倫理観

そしてもう一つ、見落としてはならない論点がある。
AIが予測を高度化し、意思決定を自動化し、リスク選別を精緻にしていくとき、それは企業の収益構造だけでなく、社会の構造にも影響を与える可能性がある。
誰がリスクから排除されるのか。誰がより高い価格を提示されるのか。アルゴリズムの判断に、どこまでを委ねるのか。

AIを前提にするということは、効率だけでなく、公平性や説明責任についても前提を問い直すということではないだろうか。
AIネイティブな企業とは、単に技術的に先進的な企業ではなく、AIがもたらす力と影響を自覚し、その使い方に責任を持とうとする企業なのではないかと考えている。
私たちは、どのようなAIの使い方を選ぶのか。
その選択が、どのような社会を形づくるのか。
AI時代の経営とは、競争戦略であると同時に、社会との約束の再定義でもあるのかもしれない。

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