9月の企業変革実践シリーズは、スタートアップ「株式会社シェメディカル」を創設した峯氏を講師に招いた。彼が開発した「遠隔型聴診器」のストーリーから、大企業が新規事業を起こすときに大事なポイントを探ろうと思ったからだ。新しい価値を持つ新商品をある一人の医師との対話から気付きを得たこと、試作品を全国の現場の医師に使っていただく中で潜在的な価値を発見していったこと、など、多くの興味深い観点があった。このコラムでは、大企業が峯さんと同じように行動できるかを考えてみようと思う。
一人の医師との対話の中で、「校医をしていると毎年の学校健診の際には100人200人という単位で生徒の聴診を行うので聴診器の付け外しで耳が痛くなる」と聞かされる。峯氏はその瞬間に聴診器の改善の余地を感じたそうだ。他の医師からも同様の話を聞いていたので、この課題を解決する聴診器を模索し始める。かねてから遠隔医療の可能性も頭の隅にあったので、患者の胸などにあてて聴診する部分、その音をデジタル化する部分、その音を通信してヘッドホンで聴く部分、を組み合わせた新しい製品を開発してはどうか、とすぐに絵を描いたそうだ。ヘッドホンを医師の好みの市販品を使うことにすれば、痛みと遠隔聴診とが解決できると未来図を予測したのだ。そして、試作機を作り始める。
案の定、峯氏はこの構想をもって日本の製造業40社を回るが、マネタイズできないという理由ですべて断られる。DBICでもメンバー企業にアピールする機会を持ったが、どこも相手にしてくれなかった。
しかし、峯氏は諦めずに規制がない海外にマーケットを求めるつもりで、台湾のメーカーと巡り合い試作機を完成させる。2019年12月、まずは、試作機を国内の医師の方々に試していただきながら現場での意見を聞く。そうすると、今まで気が付かなかった現場の課題がいろいろと浮き彫りになってくる。
などなど。
そして、2020年に入ると新型コロナ感染症の蔓延により、少し離れた距離での聴診のニーズが高まり、また遠隔医療の規制緩和がなされることになり、峯氏の構想は花開くことになる。
さて、このストーリーを大企業に当てはめて考えてみたい。
まず、2019年の構想時のレベルでGOサインが出せるか。それは今の日本企業ではまず無理だろう。具体的なマーケットサイズが想定できない中、「費用対効果」という一見合理的な基準では前へ進むことは難しい。しかし、そのままボツとしてしまったら、峯氏のようにイノベーションは起こせない。確実に見込まれるメリットを条件とする20世紀型の意思決定理論では、いつまでたってもイノベーションは生まれない。21世紀の「センスメイキング理論」を使うことが世界では常識らしい。
次に、峯さんが試作機を作り、現場の医師に操作していただきながら新しい価値を見つけていくプロセスに着目してみよう。
机上で考えているのではなく、現場の医師と本音で語り合う場を数多く持たないと、真の課題、即ち新しい価値を探し出すことはできないようだ。この現場での本音の対話を実行できる人が大企業にいるだろうか。形式的なヒアリングは持てるかもしれないが、現場に本音で深く入り込んで課題を感じ取ってくる機会が持てるだろうか。熱意や専門性、信頼感がなければ、本音は語ってくれないだろう。
峯氏が投げかけた大企業への問題提起だ。皆さんの企業ではいかがだろうか。
あなたは、何を感じ、どのように行動しますか。
会社を1ミリでも変えたいですね。
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