【横塚裕志コラム】日本のIT活用が下手なのは ビジネス側の問題が大きい

ウクライナは、ロシアからの侵攻を受け、国民が世界のどの国へ避難していても避難支援金を受け取れる仕組みを即座に作ったそうだ。また、ネットワークインフラが大きな損害を受けたが、「スターリンク」を使ったネットワークをすぐに再構築したことも知られている。これに比較すると、日本の企業にせよ政府にせよ、ITを活用することが下手だ。ビジネス戦略とIT戦略がバラバラに動いている感じがあり、ビジネス戦略がストレートにITシステムの構築に連動していない。また、実現のスピード感が全然違う。日本のマイナンバー制度は始めてから何年たつのだろうか、まだ役に立っている実感がない。企業のDXも、大きな変革をつかんだ事例は乏しく、現行ビジネスの効率化レベルにとどまっている。
ITの技術は世界みな同じレベルで、ウクライナも日本も同様だ。しかし、実際のIT活用に大きな差が出るのはなぜなのだろうか。
技術の問題ではなく、ビジネス側の問題が大きいと感じている。

私はずっとIT部門にいたので、ビジネス要求を受ける立場から肌で感じているビジネス側の問題についてコメントしてみようと思う。問題はいくつかある。

1.経営戦略とビジネス部門とIT
経営戦略はかなり包括的に書かれるので、解像度を上げたビジネス戦略は各ビジネス部門(本社機能部門、事業部門)ごとに作られる。従って、IT部門への開発要請はビジネス部門ごとに来ることになり、個別戦略の域を出ず、また、オペレーショナルな課題も多く、大きく会社を変革するような経営テーマにはならない。このような個別部門ごとのIT要請では、100年くり返しても会社は変わらない。
経営戦略を部門横断の一つのストーリーとしてナラティブに作成し、それに基づいて単年度ではなく中期的な計画として、企業変革・IT開発を実行していく必要がある。そして、IT開発のリソースの半分はこれにあてるべきだろう。

2.ビジネス部門とIT部門の境界線
ビジネス部門とIT部門の境界線がはっきりせず、深い溝を挟んで遠くから糸電話で会話している感じで、チームとしての創発になっていない。
私のSE歴30年のなかで、納得感がある「ビジネス要求書」を見たことがない。ビジネス部門の役割は「ビジネス要求」を作成する、という曖昧な言葉で定義しているだけだから、境界線が決まっているようで実は何も決まっていない。
こういう状況のなかでは、ビジネスプロセスの視点での改革、データ分析やAIといった新しい取り組みなどを実施しようとしても、どの部門にスペシャリストを配置すべきなのか、どの組織の文化を変えるべきなのか、かなり判断が難しい。
また、ビジネス部門が機能縦割りでITシステムは横につながっているということから、多くの課題が噴出している。全体最適の観点でビジネスプロセスを俯瞰する部門がない、責任部署が曖昧でリスクをとるオーナー部門がない、多くの部門が集まらないと検討が進められないので遅延していく、など。

3.経営の視点でビジネス戦略の企画・実行をマネジメントする機能がない
ビジネス戦略は、ビジネスモデル、業務体制、ビジネスプロセス、ソフトウエアの開発期間・方法・コストの選択、開発プロジェクトの実践・マネジメント、ITシステムのサービスレベル、ITシステムのライフサイクルといった順に検討し実行していくが、それらがバラバラに別々の担当者が別々のスキームで活動しており、経営視点での一貫した価値観に基づいていない。
実現すべき目的・価値を定義し、その価値観に基づいて、現場とデジタルの総合的な組み合わせを経営としてデザインすべきだろう。

これらのビジネス側の課題は、IT側からどうこうすることができない深いものだ。まさに、ビジネス側が明確な課題認識を持って、経営自身が改革に取り組むことが必要だ。その改革のきっかけをDBICとしてつくっていきたい。

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