公立はこだて未来大学の美馬のゆり教授をお訪ねした。美馬先生が持たれているAI時代だからこその「学び」への危機感と、美馬先生が創造したオープンな「学び舎」である校舎、レイアウト、しつらえを全身に浴びて、あらためて「学び」とは何かを体の芯で感じた。
AIを活用する時代だからこそ、新しい学びへの取り組みが重要だと語る。その想いをWEBにあるインタビュー記事から抜粋した。
「私が大切だと思うのは、「共感性と創造性」です。問題を見つけ、テクノロジーを活かして社会に新たな仕組みや制度を生み出していく。そのためには、"人の痛みに気づく共感性"と、"社会を変える力としての創造性"が両輪にならなければいけません。そしてもうひとつ、大切なのはクリティカルシンキング(批判的思考)です。例えば、SNSで流れてくる情報や、おすすめされる動画。「なぜこの動画が自分に表示されるのか?」「この情報は誰がどう選んで届けているのか?」といった問いを、自分で立ち止まって考える力。情報の洪水の中にあって、AIが生み出すフェイクや偏ったアルゴリズムに振り回されないために、「ちょっと待って」と立ち止まれる力が必要なんです。」
「そして、正解がない問いに対して、いろいろな人と対話し、さまざまな視点を知り、自分なりの立場を見つけていく。それは、AIや生殖医療、気候変動、ナノテクノロジー、遺伝子組み換えといった、いま世界が直面しているリアルなテーマと向き合う力にもつながります。どれが正解ということではなく、自分はどう思うのか、そこから始まると思うんです。そのとき、他にどんな意見があるのか、どんなエビデンスがあるのか、研究はどの方向に進もうとしているのか。そうした情報に目を向けた上で、"じゃあ私はどうしたいのか"と考えていく力が、今の時代には本当に大切です。」
「人の痛みに気づく共感性」「社会を変える力としての創造性」、そして「じゃあ私はどうしたいのかと考えていく力」こそ、AIが持たない、人間としての根本的な力だという先生の主張に激しく共感を覚えた。
企業では、AIの活用が進みつつある。だからこそ、AIに依存しすぎて思考停止に陥ったり、過度に功利や成果に走り過ぎるなど、影の部分も大きくなる。いまこそ、自分で感じ自分で考える力を育てることが、企業人にとっても、企業の正しい成長にとっても重要なことではないかと、あらためて教えていただいた。
美馬先生はこう語る。
「複雑で大きな課題を擁する「問い」に対して、多様な人たちと、オープンに対話するプロセスがその人の「感性」や「考える力」を育てるのではないか。」と。
その対話を体感するために、一つの問いの例を示そう。
先生が代表を務め、院生の永田君ほか未来大学といくつかの大学の学生が運営しているNPO「aiEDU JAPAN」が、「問い」を提供し対話を推進する活動をしている。その活動の中から、一つの「問い」を選んでみたので、みんなで体感してみたいと思う。
問い:「あなたは政府の責任者です。価格が適正であれば人間の労働をAIに置き換えることを防ぐべきでしょうか? なぜそう思いますか?」
この問いについて、企業内で議論してみてはいかがだろうか。
私自身、この問いに向き合ってみると、いろいろな思いがよぎる。この問いを、2時間ほどじっくり対話すると、どういうことが起きるのだろうかとワクワクする。正解がないとよく言われるが、そう思わずに、自分としての、政府責任者としての実施案を真剣に、脳ミソに汗をかきながら、思案する時間が自分の何かを育てるだろうなと直感する。また、考えれば考えるほど、自分に不足している知識の多さにも気づく。
加えて、自分が働いた保険会社では、社員の労働をどのようにAIに置き換えるべきかも考えてみたくなる。これが「学び」なのかもしれない。
しかし、実際には、企業の方々は忙しいし、直接売り上げに貢献しないようなテーマには関心がないだろうから、こういう取り組みは行われにくいかもしれない。さらに言えば、社員だけでは価値観が同じなので対話が発散しないから、中学生や外国出身の方にも入っていただくといいと思われるが、それも難しいことかもしれない。
一方で、感じる力・考える力を養成するトレーニングは、ますます重要になっている。
とすれば、何か手を打たないといけないのではないかと思う。
5階からはるか遠方に海が見え、その先に青森が見渡せる。壁はすべて透明なガラスで、どの階の教室も研究室も学生席もすべて見渡せるから、誰が何をしているのか、視野に入ってくる。これが、美馬先生が創造した学び舎だ。
いろんな人が対話することが「学び」だとすれば、対話を後押しする「場」が、重要な道具となる。学び舎のレイアウト、キャスター付きの机などの備品、外の景色、などなど、お話をうかがってみて、その想いの深さに痺れる。
企業は学校ではない。しかし、「学ぶ」ことの重要性は、学校以上かもしれない。だとすれば、「学ぶ」「対話する」ことを後押しする「場」としての、オフィスデザインが重要な課題として見えてくる。「壁で仕切られた、四角い机がある執務室と会議室」というオフィスから、「壁がない、キャスター付きの机とホワイトボードがある広い部屋」というオフィスに変える手もありかなと思われる。
以上、美馬先生から感じたことの一端を書いてみた。
玄関までお迎えいただき、多くのことを教えていただき、ランチのお寿司屋さんでは端末で発注までしていただいた美馬先生に、あらためて感謝を申し上げたい。
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