【レポート】2025年6月 DBICアップデート②:なぜマインドセットが重要なのか?~DBICのプログラムとその関係性について~

DBIC UPDATE第2部では、近年の活動で中核的なテーマとなっている「マインドセット」について、その本質と組織変革における役割が深く議論されました。一見すると捉えどころがなく、「怪しい」と感じられがちなこの概念を、DBICでは科学的アプローチと実践知に基づき、変革を成功に導くための具体的なツールとして位置づけています。

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1.マインドとマインドセットの正体とは?

まず、議論の出発点として「マインド」と「マインドセット」が改めて定義されました。

  • マインド(Mind)とは「意識」や「認知」のこと
    これは科学的には、脳内の神経細胞(ニューロン)を流れる電気信号による「脳の反応」として説明されます。私たちが何かを考えたり感じたりする心の働きは、この脳の反応によって生まれます。 私たちの意識は、自分で認識している「顕在意識」と、習慣や癖といった無意識に近い「潜在意識」の層に分かれています。日々の意思決定のほとんどは、この潜在意識レベルで行われていると言われています。
  • マインドセット(Mindset)とは「意識の方向付け」
    マインドセットは、その名の通りマインドを「セット」すること、つまり意識に特定の方向(ベクトル)を与える実践的な技術です。これは、脳の反応がどちらの方向へ流れるかをコントロールし、物事の捉え方や考え方を定めることに他なりません。 特に、スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授が提唱した「グロースマインドセット」、すなわち人は常に成長・変容できるという考え方を持つことが、現代において不可欠とされています。

2.成功循環モデルで見るマインドセットの力学

マインドセットは、個人の心持ちに留まらず、組織全体のパフォーマンスを向上させる「成功循環モデル」の起点となります。(マサチューセッツ工科大学 ダニエル・キム教授提唱)

  • 関係性の質 (Quality of Relationships): マインドセットを変え、誰と付き合うかを意識的に変えることで、関係性の質が向上します。
  • 思考の質 (Quality of Thinking): 新たな関係性は新たな視点をもたらし、思考のパターンを更新します。このプロセスこそが「学習」です。
  • 行動の質 (Quality of Actions): 学習によって知識やスキルがアップデートされ、「行動変容」が起こります。
  • 結果の質 (Quality of Results): 行動が変わることで、目に見える成果が生まれます。
  • サイクルの循環: ポジティブな結果は、さらに良い関係性を引き寄せ、サイクルが再び回り始めます。
  • マインドセットを扱うとは、このサイクルを回すために、まず自分たちの潜在意識にある「当たり前」や「癖」を意識化し、「どのような関係性を築き、どう思考し、どう行動すれば、望む成果を生み出せるのか」を意図的に再設計するための実践的なテクニックなのです。

    3. DBICのプログラムと組織変革へのアプローチ

    DBICでは、このマインドセットの変革を組織全体で起こすため、階層別に最適化されたアプローチとプログラムを提供しています。

    まずトップ・エグゼクティブ層には、グローバルな視点(現代の黒船)から現状を多面的に認識し、新たな選択肢を見出すこと、そしてその気づきから変革への強いコミットメントを確立し、組織に示すことが求められます。DBICでは、そのためのマインドセットを醸成する機会として、「EXECUTIVE QUEST」や「トップ・セミナー」、IMDといった海外機関との連携セッションを提供しています。

    しかし、トップ層の変革意欲を削いでしまう「学習性無気力」の原因となりがちなのが、組織の中核を担うミドル層の存在です。彼らが多忙さや現状維持バイアスから本来のポテンシャルを発揮できず、むしろ変化への抵抗勢力となってしまうことがあります。この層を動かすことは変革の成否に直結するため、トップがリーダーシップを発揮して「余白」(不要な会議の廃止など)を作り、業務命令としてでも取り組んでもらうことが重要になります。DBICでは「UNLOCK QUEST」や「UNCHAIN QUEST」を通じて、彼らが変革への具体的なアクションにドライブをかけるためのマインドセットの機会を提供しています。

    そして若手層には、変革への強い思いを持つ人材が確実にいるものの、多くの社員の中に埋もれてしまうことも少なくありません。長期的な視点では、この若手を未来のリーダーとして位置づけ、人財投資を行っていくことが重要です。この観点からDBICは、広く未来の可能性を見出し、各自が自律した挑戦につなげられるよう、共通言語を育むマインドセット施策として「トランスパーソナル」を提供しています。デジタル環境を通じて提供するため人数制限をかける必要がなく、手挙げ制で内発的動機を引き出し、会社の枠を超えて「自分の人生のキャリア」として成長を捉える視点を育むことが可能です。

    4. 私たちはどうアクションすべきか?

    DBICのプログラムはマインドセットというテクニックを磨き、具体的な実践につなげるための一つの手法です。重要なことは、単にプログラムを受講することではなく、このマインドセットの考え方を日々の仕事や組織運営に活かすためのアクションです。

    • 個人として
      • 「失敗」を「学習」と捉え直す:「失敗」とは、ある一面的な解釈に過ぎません。起きた事実から何を学べるかを考え、次のステップに繋げることが成長の鍵です。
      • 自分の「癖」に気づく: なぜそう感じるのか、なぜそう行動するのかを自問し、自分の潜在意識にあるパターンを意識化することが、行動変容の第一歩です。
      • 自分の人生の視点でキャリアをデザインする: 「会社の仕事」ではなく「自分の人生」という大きな枠組みでキャリアを捉え、会社や機会をどう活用するかを主体的に考えましょう。
    • 組織として
      • 「正常化バイアス」を疑う: 「みんながやっているから正しい」という集団の思い込みを打破するため、積極的に外部の視点(グローバル・トレンドなど)を取り入れることが重要です。
      • 心理的安全性と「余白」を創出する: 挑戦を推奨し、失敗を許容する文化を醸成します。特に経営層は、不要な会議をなくすなど、社員が新しい挑戦に取り組むための時間的・精神的な余裕(余白)を意図的に作り出すことが求められます。

    DBICが提供する一連のプログラムは、単なるスキル研修ではなく、この複雑で奥深いマインドセットの世界を探求し、組織と個人の可能性を最大限に引き出すための、極めて戦略的な「組織エンジニアリング」のツールなのです。

    なお、マインドセットのアプローチは、実はAIの理解にもつながります。意識づけを行い、どのように物事を認識し、考え、アウトプットするかを整理するマインドセットのアプローチは、昨今の生成AIのプロンプト・エンジニアリングなどに大いに応用できるからです。AI活用の観点からも、マインドセットを理解しておくことはとても有用なのです。

    これらの考え方や施策をどのように活用していくかは、各社・個々人によって変わってきます。重要なことはマインドセットそのものではなく、その先のアクションを経て実現されるDXなどの変革とソーシャル・イノベーションです。 ぜひこのDBICの場を自社の成果を実現するための戦略・戦術オプションとして、今後もご活用いただければ幸いです。そのための個別サポート等は今後も充実させていく予定ですので、まずは気軽にご相談ください。

    (文責:DBICディレクター 渋谷 健)

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