一人当たりGDPという生産性指標でみると、日本は1995年に世界3位でありながら、2024年では36位に低迷している。まさに、この30年の長期低下傾向はたいへん厳しい状態だ。その要因はいろいろとあるだろうが、大きな要因の一つが人材問題だと考える。
人材問題で何が起きたかを概観すると以下の通りではないだろうか。
日本企業・日本社会において、1980~1990年代の高度成長期まで有効だった「人的資本蓄積のモデル(安定雇用、長期育成、終身雇用・年功序列)」が、グローバル化・技術革新・人口構造の変化といった外部環境に適合しなくなった。
それに対応する形で、人材育成・組織文化・人事制度などを変革すべきであったが、何もせずにここまで来てしまった。
結果として、企業の生産性上昇やイノベーション創出が鈍化し、企業価値成長・所得上昇・賃金上昇などが抑制され、停滞が続いた。
今まさにブームとなっている「人的資本経営」「リスキル」という戦略で、この問題が解決できるのだろうか。30年の停滞から抜け出すことができるだろうか。
「人的資本経営」も「リスキル」も、何を課題と捉え、何を解決しようとしているのかの戦略がはっきりしない。これでは、間違いなく30年の眠りから覚めることはできないだろうと思われる。
この時代に活躍できる人材育成という視点で、今までの企業内研修制度を分析・レビューすることが必要だろう。
IMDの「世界人材ランキング」で日本は40位と低迷しているが、低い順位になっている要因の一つが「グローバル人材が少ない」という問題だ。
また、DBICでの海外での挑戦プロジェクトでもこの問題が露呈しているし、グローバル企業でも「日本人は海外の人に比べてあきらかに弱い」と悩まれている。
DBICから見て、部長・課長クラスに感じられる問題は以下の通りだ。グローバル人材というのは、単に語学力とか多様性への寛容だけの問題ではないのだ。
意見を持っていないわけではないが、表現・発言に踏み込めないことが多い。
命令型の伝達が中心だった企業文化。双方向の議論に慣れていない。
指示待ち型、受け身型のスタイルが残っており、状況を先読みして動く力がない。
安定志向(リスクを避けた判断)が強く、挑戦的な方向性が少ない。
欧米のように、専門性が高いプロ人材を育成・配置する必要があるのではないか。
「業務をこなす人材」を育てるだけでなく、「新しい問いを立て、チームで価値を創る人材」を意図的に育成することが必要ではないか。
現状の短期成果主義制度でいいのか。
社外や海外へ出て学ぶことの重要性、新しいことにチャレンジして失敗する経験、などを軽視して、短期的な成果ばかり追いかけているように見える。制度自体をあらためて見直す必要があるのではないだろうか。
組織・人材政策の変革は、日本企業が30年の眠りから覚めるための最大の解決策ではないだろうか。しかし、現状の人事部門は忙しくてそれどころではなさそうだ。異動・処遇・採用などの業務に加え、「人的資本経営」とかでディスクロージャー小冊子も作らなくてはならない。
加えて、この変革は、ゴールがはっきり見えないので、計画や準備さえ何をしたらいいかわからない状態なのではないだろうか。
経営者が「10年の長期計画でよし」とする宣言を行い、変革魂にあふれた人を集めたチームを作り、まずは、欧米の目指したい会社に住み込みで働いてみて、日本企業の問題の所在と変革の方向性を探すところから始めるしかないように思える。AIやコンサルが助けてくれるとは思えない。
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