【横塚裕志コラム】デジタル化が進んでいるのに、何かが変わらない

1.デジタル化が進んでいるのに、何かが変わらない

最近、マイナンバー制度について考えることがある。マイナンバーカードの普及が進み、保険証もマイナ保険証へ移行して便利に使っている。行政サービスのデジタル化も進んでいる。印鑑証明もコンビニでとれた。
しかし、一人の国民として振り返ってみると、不思議な感覚が残る。行政との付き合い方が大きく変わった、という実感があまりないのだ。役所へ行く回数が劇的に減ったわけでもない。行政手続きが驚くほど簡単になったとも感じない。
デンマークでは役所に行かない、とか、韓国では政府が国民の「所得税確定申告」を作成してくれる、とか聞くと、日本はどうなのと思ってしまう。

2.保険証券の電子化にも同じ違和感を覚えた

何年も前から、加入している保険証券が電子化されている。企業側から見れば合理的な判断だろう。印刷費も郵送費も削減できる。管理も効率化できる。
しかし利用者として考えると、少し考え込んでしまった。私自身の利便性は、本当に向上するのだろうか。保険との付き合い方は変わるのだろうか。保険の内容をより理解するようになるのだろうか。必要なときに、より活用できるようになるのだろうか。
もちろん企業にはメリットがある。しかし利用者の行動が変わる姿までは見えてこない。ここに、どこか引っかかるものを感じる。

3.デジタル化の成果とは何だろうか

考えてみると、私たちは長い間、「システムを導入すること」と「価値を生み出すこと」を同じように考えてきたのかもしれない。システムが新しくなり、手続きが電子化されると、私たちは便利になり快適な生活になるものだと思ってきた。
しかし、本当にそうなっているだろうか。それぞれの会社ごとに「ID、パスワード」があり、管理するのも一仕事。電子化されたから、便利になったかと言うと、アナログの電話でできていたことが、すべて電子でできるわけでもなく、ストレスが増えている。

4.本来問うべきだった問い

では、私たちは何を問うべきだったのだろうか。
どのシステムを導入するか。どの機能を実装するか。効果でペイするのか。
しかし、それとは別枠で問うべきことがあった。利用者に、どのような行動変化を起こしたいのか。その問いだ。
顧客にどう行動してほしいのか。社員にどう判断してほしいのか。その設計がないままシステムだけを導入しても、効果が実感されないのだ。

5.AIは新しい問いを突きつけている

生成AIの登場は、この問題をさらに鮮明にしている。
これまでのITは、既存業務の効率化が中心だった。しかしAIは違う。調べ方を変える。学び方を変える。文書作成の仕方を変える。システム開発の進め方まで変える。つまり、人間の行動そのものに影響を与える。
単なるシステム導入ではなく、人の行動変容そのものが求められている。

6.人の行動変容は、どのようにして起きるのか

人の行動は、価値認識によって決まる。何を大切にするのか。何を成果とするのか。何を優先するのか。そこが変わらなければ、人は動かない。システムだけを変えても行動は変わらない。
だから課題は、顧客の、社員の、価値定義を正しく設計することだろう。

7.これからのデジタル化に必要なこと

これまで私たちは、「何をデジタル化するか」を考えてきた。
しかし、これから問われるのは、「利用者にどのような行動変化を起こしたいのか」
だろう。行政も同じだろう。企業も同じだろう。システム導入はゴールではない。
人の行動が変わり、価値の受け取り方が変わり、社会との付き合い方が変わって初めて、本当の変革になる。
AI時代は、その当たり前の事実を改めて私たちに問いかけている。

8.顧客の変化を誰が設計するのか

では、顧客の変化を誰が設計するのか。社員の変化を誰が設計するのか。この専門性を持つ人材が社内にいないのではないだろうか。これを職務とする組織が社内に存在しないのではないだろうか。それは当然だろう。そういう仕事をしてこなかったからある意味当たり前だ。
スマホをビジネスの中心に据えている会社は、そういう組織・人材を抱えていると思うが、JTCにはいないし、行政にもいないだろう。そもそも、企業や行政の組織は、商品やサービスの機能別に縦割りになっているから、顧客の行動、社員の行動を対象に科学している部門は存在しないだろう。
そういう専門人材と組織を準備するところから始める必要がありそうだ。人材は、BAと言われる人材が最も適切だと思われるが、育成から始めるしかないと思われる。

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