【横塚裕志コラム】AI前提の業務改革 ~ 会議・日報

生成AIの活用が広がる中、多くの企業では「AIをどの業務に適用するか」という議論が行われている。しかし私は、その問いそのものが間違っているように感じている。本当に問うべきなのは、「AIを使って今の業務を効率化する」ではなく、「AIが存在する前提で、この業務は本当に必要なのか」なのではないだろうか。

1.会議はなぜ存在するのか

例えば会議。AIによって、情報収集・資料作成・議事録作成・論点整理の多くが自動化できるようになった。すると、多くの企業は「会議準備の工数を削減できる」 と考える。しかし本当に考えるべきなのはそこではないと思うのだ。

そもそも、その会議は何のために存在しているのか。
情報共有が目的なら、AIが要約した内容を各自が確認すれば済むかもしれない。
進捗確認が目的なら、AIがリアルタイムに状況を整理してくれるかもしれない。
そう考えると、残るのは意思決定や利害調整のための会議だけになる。
つまり問われるのは、「会議をどう効率化するか」ではなく、「どの会議が本当に必要なのか」だろう。

2.日報はなぜ存在するのか

同じことは日報にも言える。
多くの企業では、毎日あるいは毎週、社員が日報を書いている。AIを使えば、文章作成は簡単になるだろう。しかし、それで問題は解決するのだろうか。
日報の目的は何か。上司への報告なのか。業務記録なのか。部下の育成なのか。情報共有なのか。もし業務記録が目的なら、自動的にログを収集する仕組みの方が有効かもしれない。もし育成が目的なら、必要なのは日報ではなく対話かもしれない。もし状況把握が目的なら、AIによる分析結果の方が役に立つかもしれない。
AIが日報を書く時代になると、「どう書くか」ではなく、「なぜ書くのか」が問われる。

3.AIが問いかけているのは業務の目的

会議も日報も、本質は同じだ。
AIによって業務の実施コストが大幅に下がると、これまで曖昧だった業務の存在理由が浮き彫りになる。
その業務は何のために存在するのか。誰に価値を提供しているのか。本当に必要なのか。別の方法で実現できないのか。
これまで企業は、「今ある業務をどう改善するか」を考えてきた。しかしAI時代には、「そもそも何を実現したいのか」から考え直す必要がある。

4.AIは改善ではなく構造改革を求めている

しかし多くの企業は、ここで再び改善活動に向かう。会議時間を短くする。資料を減らす。日報の様式を簡素化する。AIで文章を作成する。もちろん、それらにも一定の効果はある。しかし、それは会議や日報という仕組みを前提とした改善に過ぎない。

本当に問われているのは、会議をどう効率化するかではなく、会議という仕組みが本当に必要なのかだ。日報をどう楽に書くかではなく、日報という仕組みが本当に必要なのかだ。
改善の発想と構造改革の発想は似ているようで全く違う。
AIが企業に突きつけているのは、改善ではなく構造改革なのだ。

しかし、ここで新たな問題が生まれる。会議や日報の存在意義を問い直し、新しい仕組みを設計するのは誰なのか。
現場の社員だろうか。管理職だろうか。それともIT部門だろうか。普通の社員だけでは、新しい仕組みを設計することは難しいだろう。
実は、この課題こそがAI時代の企業にとって最も難しい課題だと思われる。

5.なぜ普通の社員だけでは難しいのか

会議や日報の見直しなら、現場の社員や管理職が集まって議論すればよいのではないか、と思われるだろう。確かに現場の知見は欠かせないが、多くの社員は現在の業務の中で成果を上げる人たちであって、その業務の存在意義そのものを問い直す訓練を受けているわけではない。

例えば日報の議論を始めると、「入力項目を減らそう」「AIで自動作成しよう」という改善案は出てくる。しかし、「そもそも日報は必要なのか」という問いにまで進むことは少ない。なぜなら、多くの人は現在の仕組みを前提に考えるからだ。
さらに、業務の背後には複数の利害関係者が存在する。社員は負担を減らしたい、と考え、上司は部下の状況を把握したいと思い、人事部門は育成の情報を得たいと思い、監査部門は証跡を残したいと考える。それぞれが異なる目的を持っている。
会議も同じだ。情報共有を求める人もいれば、意思決定の場として必要だと考える人もいる。こうした状況の中で、本当に実現すべき価値は何かを整理し、新しい仕組みを設計することは容易ではない。
利害関係者の要求を整理し、本質的な目的を明らかにし、それを実現する仕組みを設計する能力が必要なのだが、これは訓練と実務を繰り返すことで初めて身につくものだ。

6.AI時代はBAの時代になる

ここで必要になるのが、BA(ビジネスアナリスト)だ。
生成AIによって、多くの業務は効率化されていくだろう。しかし企業にとって本当に難しいのは、効率化ではない。今ある業務を前提にしないことだ。
会議の目的を問い直し、日報の存在意義を問い直し、そして、企業の情報共有や意思決定の仕組みそのものを再設計する能力が求められている。

日本企業は長い間、「今ある仕組みを改善する能力」を重視してきた。しかしAI時代に必要なのは、「今ある仕組みを前提にしない能力」だ。
経営にとって、とても重要な能力だと認識すべきだろう。

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