マーケットダイブツアーの目的は、シンガポール以外の東南アジアマーケットを学ぶこと。そしてその国の政治・経済・社会・文化を学び、自分たちのビジネスアイデアの展開可能性を探ることです。今回はプログラム参加者が訪れていないベトナムの首都ハノイを訪問先に選びました。
まずはベトナムの歴史を学びます。現地ガイドが運転するバイクの後部座席にまたがり、ハノイの旅が始まりました。ひとたびバイクが走り出すと、その混沌とした交通状況に誰もが言葉を失います。道路を埋め尽くすバイクの波、そして逆走やノーヘルメットは当たり前。まさにクレイジーとも言えるその中を、ガイドが運転するバイクはスイスイとくぐり抜けます。 到着したのは文学寺院(Temple of Literature)と呼ばれる史跡です。西暦1070年に建立されたこの寺院は、ベトナム初の国立大学であり科挙が行われた場所として有名です。また庭園にはベトナムの100,000ドン紙幣のモチーフになっているような建物が点在しています。ここでバイク運転手が現地ガイドに変身し、様々な角度からベトナムの歴史と文化について学びます。 続いてオペラハウスやホーチミン廟を巡ったあと、地元のローカルレストランで昼食となりました。現地ガイドは若い学生が多く、食事をしながらベトナムの現代っ子たちの話を聞くことができ、思いがけず生活者へのインタビューをすることができました。
次に訪れたのはハノイ旧市街にあるコワーキングスペース「toong」です。ベトナムで最初かつ最大のコワーキングスペースを運営するグループであり、ラオスやカンボジアにも施設を構えています。今回訪れたのはToong Trang Thiという施設で、CFOのDung Le Tien様にお話を伺いました。 施設に足を踏み入れた瞬間、外の街とはまったく異なるハイセンスな空間が広がります。そして2階建ての施設に多くの利用者が溢れていることに驚きました。ベトナムはスタートアップやコワーキングの黎明期であり、toongはその開拓者と言っても過言ではありません。toongは多数の施設を運営していますが、それぞれの施設で入居者の業界に偏りがあります。それは入居希望者と必ず面接をし、toongの活動主旨に賛同する人だけを入居させているからです。それが人と人とのネットワークになり、toongに入居する最大のメリットになっています。 WeWorkなどの様々な競合が参入する中で、どのようにネットワークを広げていくのか。これはDBICにも共通する課題であり、お互いに連携することを約束してtoongを後にしました。
翌日は日本ユニシス株式会社様(以下、日本ユニシス)の海外子会社であるUSOL-Vietnam様(以下、USOL-V)に訪問しました。日本ユニシス本社の全面的なご協力で実現したこの企業訪問は、単純にオフィスを訪れるだけではなく、そこで働く現地社員にインタビューして生活者視点の知見を得ることが目的です。 まずは名物のバインミー(ベトナム風サンドイッチ)で歓迎を受けました。焼きたてのバインミーはUSOL-Vの従業員にも人気の朝食メニューです。 USOL-Vはオフショア開発を中心としたIT企業であり、主に日本ユニシス本社から案件を受注しています。日系企業として10年以上の歴史があり、ITスキルや日本語を学べる就職先として人気がある企業です。現地コミュニケーターの方からベトナムのビジネス環境を学んだあと、従業員を年代別のグループを分けてインタビューをしました。 インタビューで全世代に共通していたのは仕事に対する真面目な姿勢と堅実な考え方でした。しかし日本と異なるのは20代前半には結婚して子供を持つこと。結婚しないと周囲からの圧力に耐えられないそうです。さらに共働きであっても家事はすべて女性の仕事とされており、この性別に対する意識の改革が大きな社会課題となっています。 そして「みなさんが大切にしているものは?」という問いには、全員が「お金!」と即答されました。給料が良い会社に転職し、少しでも多くのお金を稼ぐこと。経済が成長している国ではそれが当たり前であり、その素直な価値観に気付くことができました。 本来はUSOL-Vのみなさまからもインタビューをしていただき、日本からの情報をお伝えできればよかったのですが、時間切れとなってしまい、後ろ髪を引かれる思いでUSOL-Vをあとにしました。
最後の訪問先はハノイ南東部の郊外に農場を持つスタートアップ企業「Eco Vietnam」です。USOL-Vの元従業員のかたが起業されたスタートアップ企業で、コンポスト機能を持った植物栽培用プランターを販売されています。 高さ1.2mほどのプランタータワーの中央に生ごみの投入口があり、ここに投入した生ごみが土中の微生物によって分解され、肥料となって水と一緒にプランターの中で循環する仕組みになっています。 このプランターの中で生態系が完結しており、設置する場所を選ばない、土壌に影響を与えない、狭い土地で生産が可能といった特徴を持っています。またベトナムでも注目度が高まりつつある有機栽培を実現しています。 この農場は1ヵ月前にオープンしたばかりで、現在は大きなビニールハウスの一角にプランターが設置されており、1年以内にこのあたり一帯に農場を拡大する計画が立てられています。ベトナムではまだデジタルのスタートアップ企業は少ないですが、このような未来を見据えた取り組みが生まれ始め、第一次産業を主体とした社会からの変革が始まっています。 こうしてベトナムの過去・現在・未来を学ぶマーケットダイブツアーは終了し、メンバーはシンガポールに戻りました。ご協力頂いた日本ユニシス株式会社様、USOL-V様、Eco Vietnam様にこの場を借りて御礼申し上げます。 シンガポールイノベーションプログラムも残り1ヵ月。参加者の意識は、自分たちが何を得られたかではなく、自分たちが何を提供できるのかに変化してきています。シンガポールやベトナムのような東南アジアマーケットにどのようなベネフィットを提供できるのか。ハノイで得られたインサイトを活かし、2018年10月18日(木)に開催される最終成果発表会に向けて準備を進めています。
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