【横塚裕志コラム】IT化は取り組めても「デジタル化」ができない日本企業 その⑦

今回は、ビジネスアナリスト(BA)の仕事と密接なかかわりがある「ビジネスプロセス」という考え方について考えてみる。

皆さんは、「ビジネスプロセス」という考え方を活用されているでしょうか。
「ビジネスプロセス」とは、企業や組織が業務を効率的に遂行するために定めた一連の活動や手順のことを言うのだが、これを理解して活動している企業は少ないように思う。
欧米の企業では、いかなる活動であっても、最も効率的と考えるプロセスを標準プロセスとして定義して、その手順で世界中が仕事を進める。そして、プロセスの実践状況を可視化してデータを集め、課題を見つけてそれを改善する。そのプロセス改善サイクルを「マネジメント」と言う。
一方、日本企業は、現場や個人の努力に任せるという考え方をとる。一所懸命努力することで生産性や品質を上げていく。「頑張る」の世界だ。しかし、残念ながら、このスキームを続けることで、この20年競争力を失ってきたともいえる。この日本企業の経営姿勢について、反省をすべきではないだろうか。

Ⅰ.日本の「現場の努力」経営が「プロセス・マネジメント」経営に負けた理由

  1. イノベーションと技術革新の変化
    1990年代以降、特にITやソフトウェア分野、そしてインターネットの普及が進む中で、「ソフトウェアによる革新やイノベーション」が、「ハードウエアと現場の努力」より大きな効果を生むようになった。
  2. 情報化社会とデータ活用の重要性
    現場の努力や感覚での意思決定では、データに基づく精緻な判断ができないため、情報を効果的に活用できる「プロセス・マネジメント」が優位に立った。
  3. 組織の複雑化とプロセス管理の必要性
    企業の規模や複雑さが増し、国内外での事業展開が広がる中で、現場の努力だけでは組織全体の効率を管理することが難しくなった。結果、企業全体を俯瞰する部門がないことで生産性も品質も問題が大きくなった。
  4. 品質管理からプロセス全体の最適化へ
    1980年代の日本は、総合的品質管理(TQM)やカイゼンなど、品質向上のための取り組みが非常に効果的だった。しかし、これらの手法は個々のプロセスの改善に焦点を当てており、全体のビジネスプロセスが最適化されているわけではない。

Ⅱ.日本企業は、なぜ、プロセス・マネジメントをしないのか

私の仮説だが、欧米は「経営者に対する利益率20%必達の圧力」が強く、それを実現するための経営行動として、ビジネスプロセスによる科学的なマネジメントを採用したと思われる。(最新のデータで、米国・小売業はROE 25.4%、日本・非製造業8.5%) 高い利益率を目指せば、必然的に全社最適な経営を考えることになる。その理由はシンプルで以下の通りだ。

  1. 現場の改善では利益率20%は無理
    経営者は高い利益率を求められるようになれば、ただ単にコスト削減を行うだけでは実現できないので、ビジネス全体のプロセスを最適化することを考えざるを得ない。
    利益率20%以上を達成するためには、製造、物流、販売、サプライチェーンなどのプロセスを精緻に管理し、単に部門ごとの業績を改善するのではなく、ビジネスプロセスの科学的マネジメントを導入するほかない。
  2. 過去の成功体験だけでは経営できない
    経営者は、利益率20%以上を維持するためには、単に直感や経験に頼るのではなく、データに基づいた意思決定を行うスキームを考えるはずだ。経営者はより精緻でリアルタイムな意思決定を行う仕組みがなければ戦えないはずだ。

Ⅲ.「デジタル化」ができないのは「経営者」の責任ではないか

「現場の改善」を軸に経営している日本では、既存のプロセスを変えることができない。結果、現場の要求する細かい、効果の薄いIT化しかできない。「ビジネスプロセスという考え方」と「全社最適」は同じ意味を示しており、経営の軸を「現場や個人の努力」に置くのではなく、「プロセスの変革」に置かなければ、たぶん正しい「デジタル化」はできないだろう。社長やCIO、CDOがビジネスプロセスをもっと学ばなければ、本質的な変革を起こすことは難しいだろう。

経営者が学ぶためにも、BAという役割を認知したうえで、社内に配置することが有効ではないだろうか。BAが分析する会社の構造的な課題を、BA、事業部門、経営者が議論する中で、全社最適な発想が芽生え、全社最適という考え方が理解されていくことになるのではないだろうか。そしてそれが、正しいDXの企画につながっていくことが期待できる。それなしに、現場からのDX提案を待っていても、それは細かいことしか出てこないだろう。現場は現場しか見えないのだから。

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