前回は、「ビジネスアナリスト(BA)」の役割について、「問題解決中心タイプ」「システム要件タイプ」の二つについて議論した。
今回は、三つ目の機能「顧客価値タイプ」の役割を考えてみる。
Ⅰ. 「ビジネスアナリスト(BA)」の「顧客価値タイプ」の役割
ビジネスアナリストは顧客とのオンラインビジネスを成功に導くために、ビジネスプロセスの効率化だけでなく、ユーザーエクスペリエンスに関わる要件の作成にも重要な役割を果たしている。
- 顧客のニーズの理解と分析:オンラインビジネスやデジタルサービスにおいて、顧客がどのような体験を求めているかを理解し、そのニーズを反映させた要件を作成する。アナログでの手続きをそのままの手順でIT化するだけの要件としがちだが、顧客の体験を優先して考える。
- UXの最適化:ビジネスアナリストは、ユーザーエクスペリエンス(UX)の向上を目的として、顧客が求めるシステムやプロセスを設計するための要件をまとめる。これにより、顧客にとってストレスがないインターフェースやプロセスを実現する。
- ステークホルダーとの調整:顧客や開発チーム、マーケティングチーム、営業チームなど、さまざまなステークホルダーと連携して、ビジネス要件を明確にする。特に、顧客の期待に沿ったUXを考慮し、ビジネスゴールと一致するように要件を調整する。
- データに基づく意思決定:顧客のオンライン行動やフィードバックをデータとして収集し、それを分析することで、UXを改善するためのインサイトを提供する。サービスイン後の利用状態の調査をしない会社が多い。
Ⅱ. 「ビジネスアナリスト(BA)」が持つべきマインドセット
これまで、「ビジネスアナリスト(BA)」の三つの役割、問題解決・システム要件・顧客価値を考えてきた。ビジネスアナリストがビジネスプロセスの改善や顧客理解において成功するためには、スキルだけでなく、適切なマインドセットが非常に重要だ。業界の常識や会社の慣習などを脱ぎ捨て、忖度なしに「正しさ」をあくまで追求する姿勢を維持できるかがBAの使命だ。
そのために必要なマインドセットは以下の通り。
- 顧客中心のマインドセット
顧客理解を深めるためには、企業側の論理を忘れて、常に顧客目線で物事を考えることが不可欠。顧客のニーズや期待を優先し、顧客の立場に立ったソリューションを提供することが求められる。
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共感力(Empathy):顧客の視点や感じていることを理解し、感情やニーズを察知する能力。ユーザーの体験や課題に共感し、その解決策を見つけ出す姿勢が重要だ。
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問題解決志向(Problem-Solving):顧客の課題を正確に捉え、創造的かつ実行可能な解決策を提供することにフォーカスする。問題を単に分析するのではなく、解決に向けて実践的なアクションを取る姿勢が求められる。
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柔軟性と適応力
ビジネス環境や顧客のニーズは日々変化している。柔軟で適応力のあるマインドセットは、ビジネスアナリストが変化に対応し、最適なソリューションを提供するために必要な能力だ。
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アジャイルな思考(Agility):プロジェクトが進行する中で新たな課題が発生したり、要求が変化することがある。その際に、柔軟に方向転換できる能力が求められる。アジャイル開発やフレキシブルなプロジェクト管理手法を意識することが有効。
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学び続ける姿勢(Continuous Learning):新しい技術やトレンドに対してオープンで、常に学び続ける姿勢を持つことが重要だ。特にUXやビジネスプロセス改善の分野では、変化が速いため、最新のアプローチやツールを習得することが求められる。
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データ駆動のマインドセット
ビジネスアナリストは、データを分析して意思決定を行うことが多いため、データ駆動型のアプローチを採用することが重要だ。感情や直感だけでなく、客観的なデータに基づいて意思決定を行う姿勢が求められる。特に、事業部門との議論では、データに基づく議論でないと空中戦に終わる懸念がある。
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証拠に基づく意思決定(Evidence-Based Decision Making):データや事実に基づいて問題を解決し、改善策を提案する姿勢が必要。顧客行動のデータやビジネスのパフォーマンス指標を活用して、効果的な提案を行う。
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論理的思考と分析力:ビジネスプロセスの改善においては、プロセスデータや効率化の指標を論理的に分析し、改善策を導き出す能力が求められる。
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コラボレーションとコミュニケーション力
ビジネスアナリストは、複数のステークホルダーと密接に協力しながら仕事を進めることが多い。コラボレーションとコミュニケーションのマインドセットは、成功するために欠かせない。特に、法規制などを改定する必要がある場合は、改定を担当する部門と粘り強くコミュニケーションしていくことが重要だ。
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オープンなコミュニケーション(Open Communication):ステークホルダーやチームメンバーとオープンで透明性の高いコミュニケーションを心掛けることが重要。自分の意見を伝えると同時に、他の意見にも耳を傾け、建設的なフィードバックを受け入れる姿勢が求められる。
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チームワーク(Teamwork):ビジネスアナリストは、他のチームメンバー(開発者、UXデザイナー、マーケティングチームなど)と連携し、共同で目標を達成する必要がある。協力して最適な解決策を見つけるために、チームワークを重視する姿勢が求められる。
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クリティカルシンキング
問題を解決するためには、クリティカルシンキング(批判的思考)が不可欠だ。表面的な情報や感情に流されることなく、問題の根本的な原因を見つけ出し、効率的な解決策を提案する能力が必要。現場の意見と反することが多くなるが、長期的視野で提案することが大事だ。
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論理的な思考と分析:複雑な状況や問題を論理的に解明し、原因と結果の関係を明確にすることが求められる。特にビジネスプロセス改革においては、改善点を正確に特定し、効果的な解決策を提案する能力が必要。
以上が、BAが持つべきマインドセットだ。これは、会社の文化に染まった企業人にとってはとても難しいことだ。簡単にできることではない。自分の信念を覚醒させたり、何が正しいことなのかを学びつづけることで、初めて実現できる。従って、スキルセットとは別に、マインドセットのしっかりとしたトレーニングが必要だということも肝に銘ずるべきだ。
次回は、「ビジネスアナリスト(BA)」というプロ人材が2000年代から急に必要になってきた理由を考えてみたい。