前回までの連載ではイノベーションの最初のステップであり、同時に最大の難題でもある「テーマの探求」について、「社会課題」「自分ごと」「会社のビジョンとの整合」という3つの円が重なるところを意識して行うように推奨しました。 DBICが提唱するイノベーションのテーマ設定「ステップ1:テーマの探求」の3つの円 しかし、テーマを見つけただけでは終わりではありません。それを「プロブレムステートメント」というメッセージで描き表わすことで、設定のプロセスが完結します。 プロブレムステートメントは、イノベーションへの想いを簡潔に、なおかつ必須要素を網羅してまとめた一文です。プロジェクトの背景や目的をシンプルに言語化することで明確な発信が可能になり、共感してもらえるパートナーを集め、不足している専門性を補い、チームを組成していくことができます。
具体的なプロブレムステートメントの例を挙げてみましょう。
必須ではありませんが、このように疑問形になっているケースも多く見られます。ステートメントの要素を分解すると以下のようになります。
イノベーションの立ち上げ時に、テーマをプロブレムステートメントで表現することはグローバルスタンダートです。何がやりたいのかをシンプルに伝えることができなければ、プロジェクトは動かないし、仲間も集まらないからです。 これは、囲碁将棋なら「定石(定跡)」であり、サッカーで例えるなら「4-4-2」であり、勝つために最低限必要な基本的な作戦だと言えるでしょう。 私は2017年にシンガポール経営大学が世界の大学を対象に開催した「ニュービジネスコンテスト」を見学しました。最終選考に残った48チームのピッチのすべてが、「1. プロブレムステートメント」「2. 解決方法」「3. マーケットサイズ」「4. 成長プラン」という4コマ漫画仕立てのストーリーで構成されていました。これがグローバルスタンダードなのです。
このようなプロブレムステートメントを作成するプロセスは数か月を要することもあり、簡単ではありません。仮説を立てて深く調査をしていくと、仮説の奥の真の課題を見つけることになり、さらに深堀りすると、その奥底にある新たな真の課題に巡り合うことになります。そうやって、らせん階段をぐるぐるとまわりながら上に上がっていくことが求められます。 常に重要なのは、対象者の真の「ペインポイント(解決すべき痛み)」を探り当てることです。この「問題を見つける」能力、感性、好奇心、情熱の質と量が勝敗を分けるのですが、残念ながらこういった要素こそ大企業の社員に決定的に不足しているのが実情です。 なぜなら、大企業の多くの社員は正解のないものを追いかけることに慣れていないからです。幼いころから「正解」を出す訓練しか受けていなければ、仮説に対して最初に目についた答えを「正解」だと考えてしまっても無理はありません。ただし、これではイノベーションと呼ぶに値するテーマの探索は難しいでしょう。 真に「問題を見つける」ための感性を磨くためには、街に出て生活者の汗を感じ、涙し、感動し、「少しでも役に立つことから始めよう」と感じることが必要です。それが正解かどうかは重要ではありません。
どんなに優れたサッカーの教則本を読んでも、それだけではサッカーが上達しないように、イノベーションも体を動かして練習することから始めるべきだと私は思います。そのため、DBICではシンガポールと日本を舞台に「Diving Program」という試合形式のイノベーション練習メニューを提供しています。 ここ数年で「デジタルトランスフォーメーション」という言葉が急速に広まりましたが、その何年も前から日本の大企業は海外のディスラプターに侵食され続けています。そして彼らは当然のようにグローバルスタンダードを体得しています。 その危機に立ち向かうため、日本の大企業が集結して学び合い、自らイノベーションを起こすために立ち上げたのがDBICです。まずは「テーマ設定」という最初の一歩を正しく踏み出すことから始めてみませんか?
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