【レポート】横塚裕志が聞きたいシリーズ第18回:21歳で起業した若者が、2億円以上の資金をかけてSDGsに取り組む

スピーカーは株式会社テーブルクロスの代表取締役である城宝 薫様。同社はユーザーが日本の飲食店を予約すると、途上国の子供たちに給食が届くという社会貢献型のグルメアプリ「テーブルクロス」を開発・運営しています。また、2019年7月からは訪日外国人向けの食文化エクスペリエンス提供サービス「byfood.com」もスタートしました。 本講演では、2014年に大学3年生で起業した城宝様の原体験、ビジネスを軌道に乗せるまでの経緯、新たな目標、そして大企業がSDGsに取り組むことをテーマにお話しいただきました。本レポートでは講演内容を再構成してお伝えします。 株式会社テーブルクロス 代表取締役 城宝 薫様

利益を出しながら社会貢献ができる「先行事例」を自分でつくる

城宝:私が社会貢献ができるグルメアプリ「テーブルクロス」を始めるきっかけになった原体験は、小学校低学年のときに行ったインドネシアへの家族旅行でした。 自分と同じくらいの年代の子供たちが学校に通わずに昼間から路上生活をしている様子を目の当たりにして、生まれた環境が違うだけでこんなに違うのか、と衝撃を受けました。それ以来、幼少期には街角で募金箱を見れば10円玉を入れたり、街の清掃のボランティアがあれば参加したり、と心がけていました。 転機になったのは2009年、高校1年生でアメリカに2週間滞在したときです。ちょうど、障害者支援を行っている現地NPOの会合があるというので参加させていただきました。そこでは「自分たちが障害者支援することで社会にどんな価値を提供しているのか」「その対価としてどうやってお金を頂き、売上を立てながら社会貢献できる仕組みをつくるのか」という議論がされていました。 それまで「寄付」や「ボランティア」が当たり前だと思いこんでいた私は、「利益を上げながら社会貢献する仕組みづくり」という新しい発想を得て、帰国しました。ところが日本でその話をすると「それをやっている先行事例はどの会社なの?」と、前例を求められるんですね。でも、そんな会社は日本にまだありませんでした。そこで、自分自身がその「先行事例」になろうと立ち上げたのがテーブルクロスです。

アイデアひとつ、2週間で起業

城宝:2014年当時、飲食店向け広告は、食べログ、ぐるなび、ホットペッパーといった大手が月額制で手掛けている業界でした。一方で、アルバイト求人広告などは成果報酬型に切り替わってきており、やがて飲食店向け広告にもその波が押し寄せてくることが感じ取れました。 そこで私が思いついたのが「飲食店向けに成果報酬型の広告サービスをつくって、予約が入ると途上国の子供に給食が配られる」というビジネスモデルです。そのアイデアを思いついて2週間後には起業してしまいました。 しかし、ただの大学生だった私にはヒト・モノ・カネなにもありません。幼馴染から起業ノウハウのある知人を紹介してもらい、ほとんど身内からの借金だけで2,500万円の開業資金を集めました。それで登記だけはできましたが、後からどんどんサービス開始のために必要なシステム開発の全容が判明し、資金が足りなくなりました。そこで政策金融公庫から「学生相手には初」の融資をしていただくなどして、総額約6,000万円の開発費をかけ、1年がかりで「テーブルクロス」をスタートしました。

最大のハードルと、その乗り越え方

城宝:当時、飲食店さんに営業に行くと必ず言われたのが「成果報酬型で初期費用も月額もかからないし、社会貢献までできるから本当に良い仕組みなんだけれど、お店のオペレーションを変えられないから導入できない」という言葉でした。 ウェブ経由の予約については、自動化できるシステムを構築していたのですが、電話の予約をシステムに入力していただく手間が店舗としては難しいというわけです。そこで、コストはかかりましたが、電話の音声をロボットが解析して予約人数やキャンセル状況をシステムに自動入力する仕組みを追加しました。 これで、飲食店さんにとって「断る理由」がなくなりました。すると、今度は広告会社さんから「営業代理店として飲食店さんにテーブルクロスを売り込みたい」というお話をいただくようになり、登録飲食店さんの数が飛躍的に増えました。今では全国で約3,000店舗あります。 通常であれば、これだけ登録店舗が増えると社内の経理やカスタマーサポートの人件費もかさむのですが、テーブルクロスは最初に徹底した自動化のシステムを構築しています。予約が入って、広告料が発生し、店舗に請求書が送られ、途上国に給食が送られるまで自動です。今でも経理担当者はひとりしか居ません。

給食を通して、途上国の教育を改善する

城宝:途上国での給食支援は、カンボジア、フィリピン、バングラディッシュ、ケニアなどで教育支援をしている9つのNPOさんと提携して行っています。 冒頭でお話した私のインドネシアでの原体験の話にもつながりますが、貧しい国ではそもそも子どもたちが学校に来ないのです。昼間は兄弟の面倒をみたり、ゴミ拾いをしています。ところが「学校に行けば給食が出る」というきっかけをつくるだけで、子どもたちが通学するようになります。それが結果的に教育のための環境づくりにつながるわけです。 起業したばかりで、テーブルクロスの予約件数が100や200件のときはもどかしかったです。100食だったら私が現地に行って炊き出しをやったほうが早いと感じていました。それが今では年間23万食、金額にして約700万円です。この規模になると、私ひとりで炊き出しできる規模ではありませんね。

事業で「謎解き」をする感覚

城宝:テーブルクロスの事業を通して、私は「日本人の中で寄付文化はどこまで広がるのか?」という謎解きをしている感覚があります。2011年の東日本大震災の時、日本でも寄付活動が巻き起こって、私は初めて「日本人も本気になれば寄付をするのか!」と実感したのですが、後から数値を調べてみると、そのときの規模でも、アメリカと比較すると2%程度だったことがわかりました。 税制や宗教など環境の違いはあれど、そのときの感覚を通して「日本人の文化に合った寄付制度をつくりたい」と考えたのがテーブルクロス起業のきっかけのひとつです。当時リサーチした際に、日本における寄付文化の成功事例のひとつが「ペットボトルのキャップを外して箱に入れる」というモデルでした。 ペットボトルキャップを通した寄付制度にはふたつポイントがあって「お金がかからない」ことと「日常生活の中のちょっとした行為」ということです。テーブルクロスにおける「飲食店の予約を通した寄付」というのもこの条件に当てはまり、日本人にとって無理なく持続可能なモデルになると考えたのです。

700万円を70億円にするために

城宝:飲食店の予約で寄付をして、それを「見える化」する。これがテーブルクロスの特徴であり、2019年1月にはシステム特許も取得しました。先程お話した通り、現状で年間23万件の予約があり、約700万円の寄付をしています。でも、私はこれにまったく満足していません。これを7,000万円、7億円、いや、70億円にしたいのです。それが経営者の責任だと思っています。 みなさんなら事業を10倍、100倍にしようと思ったとき、どうしますか? 私が選んだのは、インバウンド向けビジネス展開でした。 実は、近年における国内の大手グルメ広告サービス会社の決算を見ると、右肩下がりになっている傾向があります。私たちのようなベンチャーが資金調達して事業拡大するためには、そもそもマーケットそのものが伸びていない業界ではポテンシャルが評価されません。一方で、日本には毎年3,000万〜4,000万の外国人観光客が来訪れ、毎年17%ずつマーケットが拡大していると言われています。 インバウンドマーケットに参入するため、トルコの会社を買収し、システムを総入れ替えして今年の7月に立ち上げたのが「byfood.com」です。欧米豪のお客様をターゲットに、国内の鉄道会社や地方自治体と提携して、日本酒の飲み比べなど、その地方でしか体験できないツアーを販売する新しいサービスです。 従来の飲食店予約は1件あたり180円の成果報酬制でした。一方で体験ツアーは単価が高く、手数料を15%に設定したので、1件あたりにするとこれまでの10倍くらいの売上が立ちます。果たして1年後、700万円の寄付が7,000万円になっているのか。今から楽しみです。

答えの出ない議論への回答

城宝:テーブルクロスを運営していて、いつも答えが出ない議論に「寄付するお金があったら、それをマーケティングにまわして売上を拡大した方がよいのではないか?」というものがあります。特に起業当初は売上もなかったので、役員として入っていただいていた外部の投資家さんにそれを問われました。 正直なところ、私自身にも、どちらが正しいのかわかりません。最終的に私は「その700万円をマーケティングに使うのなら、私じゃなくてもできるので、他の会社でやってください」と答えるようになりました。他がやらないことだからこそ、チャンスがあると思うからです。 また、先程申し上げた通り、テーブルクロスのような会社がひとつ「先行事例」として出てくれば、これから起業するみなさんが「テーブルクロスみたいな会社をつくらない?」というコミュニケーションができるようになります。私は途上国支援だけをやりたいわけではないので、他の社会課題に取り組む企業がどんどん出てきて、横でつながることができたら本望です。

大企業にとってのSDGsへの取り組み方

城宝:私が起業した2014年時点でも、ソーシャルビジネスとかフェアトレードみたいな言葉はありました。ただ、2016年にSDGsという言葉が出てきたときの爆発の規模は桁違いです。 国連が提示し、日本でも外務省や内閣府が推進していて、企業にとっても若干の「強制力」が働いています。そのため大企業からも「SDGsで何かやらなくては」という前のめりな気持ちが感じられます。 今ならSDGsを真ん中に置くだけで、大企業とベンチャーがいきなりコミュニケーションを取ることができます。大企業であったら、最初は「ベンチャーが既にやっているプロジェクトを支援する」という入り方で十分です。次に、支援しているうちに大企業とベンチャーの間で何らかのコラボレーションが生まれてきます。そこまできたら最後に社内ベンチャーやプロジェクトを立ち上げて、0から1の新規事業につなげていただくことができます。 大企業が社会課題の解決に取り組もうとした際、SDGsという言葉を使いさえすれば、コラボレーション先が見つかるのが今の時代です。せっかくのチャンスなので、ぜんぶ使い倒しましょう。皆さんとつながっていけたらうれしいです。 DBIC代表 横塚裕志

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