2020年11月11日(水)、DBICでは企業変革実践シリーズの第4回オンラインにて開催しました。講演テーマは、「パッションが動かす食のイノベーション~日本の技術・人財を『最大の価値』で世界に繋げる~」です。講師は、株式会社シグマクシス・ディレクターの田中宏隆さん。田中さんは、パナソニック株式会社、マッキンゼー&カンパニーなどを経て、2017年からシグマクシスに参画。戦略策定、新規事業開発・実行、マーケティング、M&A、パートナーシップ、ベンチャー協業など幅広いテーマに精通し、これまで国内外で50を超える講演・セミナー・パネルディスカッションに登壇しています。セミナーではこれらで得た知見をもとに様々な角度からフードテクノロジーについてのお話しを伺いました。
本レポートでは講演内容を再構成してお伝えします。
田中宏隆さん:今日は、いま、食の世界で何が起きているのか。それがどういった原動力で起きているのか。その中に見え隠れするパッションを皆さまにお伝えできればと思っています。
まず、簡単に自己紹介をさせて頂きます。いま、シグマクシスという会社に勤務しています。もともと、パナソニックで10年ほど事業戦略立案の仕事をしていて、その後、マッキンゼー&カンパニーに入社、そこで8年ほどいました。ずっと通信などのハイテク畑の人間でした。デジタルヘルスとかスマートホームといった領域をみていたのですが、たまたま2016年に食のプロジェクトに関わることがあり、その時に、「食の奥深さ」に気づいたのです。丁度、お客様の中にスマートキッチンのことを知りたいという方がいて、米国のスマートキッチンサミットに行きました。実際、恐る恐る視察に出かけたのですが、そのサミットには馴染みのある家電メーカーやIoTプレーヤーだけでなく、グーグルやアマゾンのほか投資家が食の可能性について語っていたのです。一番衝撃的だったのが、50歳くらいのおじさんがコーヒーを96℃で淹れるといかに美味しいかを滅茶苦茶熱く語っていたシーンです。後日、聞いたら、その方はずっと半導体業界にいた人で、業界の仕事に疲れ果てて、メンタルをやられかけた時に救ってくれたのがコーヒーだったと。投資家を含めて、食に関して皆が熱く語っているのを見て、これは何かが起きていると思ったのです。
当時は、日本企業の登壇者はゼロだったので、この考え方を日本に持ってきたら、何かが起きるのではないかということで、シグマクシスに入社して直ぐ、「スマートキッチン・サミット・ジャパン」というイベントをやってみたいと提案しました。もちろん、米国のファウンダーに話をして実現しました。今回は、そうした経験で得た知見をもとにフードテクノロジーについていろいろ語っていきたいと思います。
最初に少しだけ、シグマクシスがどのような仕事をしているのかお話ししたいと思います。10年以上前に出来た会社で、いろいろなことをやっているコンサルティング会社です。ヒマラヤ登山支援の「シェルパ」と同様の考え方のもとに、お客さまに寄り添って結果にコミットすることをモットーに事業展開しています。他社にないサービスとしては、アライアンスとエコシステムの形成があります。お客さまと一緒にジョイントベンチャーをつくるとか、投資をすることもやっています。
私が3年半前にジョインした時、「スマートキッチンサミット」をやりたいと提案しましたが、同時に強調したのがイベント開催だけではなく、食に関わる事業競争プラットフォームをつくりたいということでした。イベント屋ではないので、サミットをテコに、日本と世界の大手企業・ベンチャー、コミュニティーや大学のプロフェッショナルの方々を繋げて、新しい価値を創造していきたいと考えたのです。その中では、1対1ではなく、N対Nの企業間コラボレーションを実践していく場づくりを目指しました。
田中宏隆さん:キッチンサミット以外にも様々な情報発信をしています。コロナ禍の前には年に10回くらい世界を回っていました。食に関わらず、いろいろなイベントの視察や企業訪問をしていました。
メインは年に1回のキッチンサミットですが、年に1回では熱量が高い人を繋げておくことが難しいので、イベントを定期的に開催しています。SNSなども活用して盛り上げています。まだまだ小規模ですが、オンラインコミュニティーも2,000人になりました。このメンバーの中には新規事業開発部門やR&D部門、ベンチャーで仕事をしている人たちが多く、活発な意見が交わされています。このイベントはいま、月に2回くらいで、最近では出版のワイヤードさんやイタリアのイノベーターなどともセッションをやっています。
ところで、フードテックというとあまりにも範囲が広すぎて、何がどこで起きているのか分からないという声も寄せられていましたので、フードイノベーションマップ Ver2.0で描いてみました。ご興味のある方はご覧になって下さい。このマップはこれからもどんどん進化させていきます。
田中宏隆さん:去年、ニューズレターを立ち上げました。私たちがキュレーターになって最新の情報を発信しています。「foodtech EYES」というもので月に1回から2回の発行です。いま、3,000人くらいの購読者がいるのですが、ここでベンチャー企業の取り組みなどを紹介しています。そんな活動をしていましたら、日経BPさんからお声掛けがありまして、2020年7月に「フードテック革命」という本を出版することができました。出版によって、企業の方々だけでなく、大学や高校生にもフードテックに対する関心が広がっているようです。こうした広がりが一番嬉しいですね。
企業間の取り組みで言いますと、去年からJAXAさんと一緒になって、「宇宙×食」の社団法人にも参加しています。「SPACE FOODSPHERE」という団体で、私はそこの理事も兼ねています。
NASAが提供する宇宙食は、サバイバル食なので無機質で、必ずしも豊かなものではありません。ですが、普通の人が月とか火星に移住した時のことを考えるともう少し心が豊かになるメニューが必要になります。そのために、いま40社から60社が参加してNASAを超える食のサービスをつくろうというプロジェクトを進めています。これは今後、機内食とか災害時などの避難施設の食のサービス向上にも繋がると期待しています。
田中宏隆さん:いま、世界でどのようなことが起きているのかというお話しですが、その一つ目としてフードテックへの投資が急増していることが挙げられます。
田中宏隆さん:この図は、フードテックに対する投資額の推移です。2014年から増加し、昨年は1.5兆円クラスまでに達しています。
田中宏隆さん:投資されている領域も物凄く広がっています。巷を賑わしているのは代替肉とか植物肉とかなのですが、それだけではなくて、買い物サービスとかデリバリーサービス、調理技術にも投資が及んでいます。本当にありとあらゆる所に広がっています。
2つ目はカンファレンスの変化です。2015年くらいから、世界中で食×テクノロジーのカンファレンスが急激に成長しています。
田中宏隆さん:その中で、いま日本で何が起こっているのかについてご説明します。2017年に開催したスマートキッチンサミット・ジャパンは、400人くらいが参加していました。企業の参加数で言うと200社、累計では300社が参加しました。スピーカーも60人余り。
余談ですが、サミットの特徴を一言で表すと「笑顔」なのですね。自分自身がずっとハイテク産業に関わっていたので、戦略というと、殺すか殺されるか、あるいは半導体業界では勝者以外は皆負け組といった捉え方をするのが一般的でした。
それに比べると食の世界は幸せに満ちていると言えます。サミットに来る人は、自分のことだけでなく、周りの人の食のことを考えて参加してくるので、何か興味のあることを見つけると皆さん笑顔になっている。
参加する人の層も凄く広がっています。
田中宏隆さん:この図は業界を超えた多様な参加者を描いたものです。昨年はさらにグローバル化が進みました。GAFAの一角を占めるグーグルのフードチームの方が登壇したり、2つ星のシェフが参加してテクノロジーをもっと使うべきだと主張したりという場面が見られました。
そうした動きを受けてか、日本でもフードテックベンチャーの数が増えています。未来を見据えた食品、新しい飲料やスナック、フードロス対策、レストラン事業にまつわるテクノロジー開発などです。私たちは4年前、キッチンサミットに参加してもらうための日本のフードテックベンチャーを探すのに本当に苦労しました。血眼になってリスト化したのですが、20社も存在しませんでした。その中から4社に参加してもらいました。ところがいまは弊社で保有するデータベースをみると数百社に膨れ上がっています。
海外はさらに先に行っています。専門特化したカンファレンスも立ち上がっています。
例えば、フードロボットだけのカンファレンスとか、パーソナライズフードだけのカンファレンスとかです。米国家電見本市のCESでもフードテックだけの基調講演が急増しています。ヨーロッパではシーズ&チップスのようなフードイノベーション系のカンファレンスが開催され、そこにはイタリアの首相が登壇したりしています。その前はケリー元米国国務長官とか、オバマ元大統領とかも登壇していました。あと、スターバックスのハワード・シュルツ会長とか、そういった方々が食の進化の可能性について凄く訴えているのですよ。会場ではスタンディング・オベーションが起きたりもする。そうした人たちを繋いでいるイノベーターネットワークを展開しているのがフューチャーフードインスティチュートで、世界中に拠点を持っていて、日本にも進出しています。
田中宏隆さん:このようにいま、世界中で様々な動きが見られます。何故、いま食の進化が求められているのかですが。2つのドライバーが存在するとみています。
田中宏隆さん:1つは「社会課題と食」、もう1つは「食の多様な価値」です。人のためになると思っていた食が社会課題を引き起こしている。1つはフードロスですよね。3分の1の食材が捨てられているという現実。人口の増加に伴って、タンパク源が枯渇すると。みんな豊かになると牛肉を食べたくなる。ただ、牛肉は地球環境にとってめちゃくちゃ重い。なので、それを植物由来のものに代替するとか培養肉で代替するとか。そんな話しも出てきています。あとは食べ過ぎによる健康被害の問題。食べ過ぎによって人が肥満になるとかー。
田中宏隆さん:この図は、昨年出された「現状のフードシステムはネットロスの産業です」という衝撃的なレポートです。世界で食品産業は1,000兆円の価値を生み出している反面、裏側で1,200兆円に及ぶ隠れたコストを発生させているという内容です。健康保険のコストとか環境対策のコスト、それにフードロスのコストがこれに含まれます。ネットでマイナスの産業が食ですと、いうレポートです。
さて、いま注目されているのが、「食の価値の再定義」です。
もっともっと料理に時間を使いたいとか、もっと自分の身体にあったものを食べたいとか、あるいは個食を何とかしたいというテーマです。最近ですと、ビーガンも注目されています。
田中宏隆さん:この図は食に期待する価値についての調査です。昨年、日本と米国、イタリアの3か国で行ったもので、それぞれ800サンプルずつ調査を行いました。これをみるとお分かりの通り、自己表現したいとか、イタリアでは20%が周りの人と繋がりたいと回答しています。これはものすごいビジネスチャンスを内在している数字です。
そんな中で、食が持つ価値は非常に多様だなと改めて感じています。コロナ禍では、従来の価値を超えた商品が続々と登場しています。例えば、以下の図にあるように、子どもが料理を学べるスマートフライパンや発酵プロセスを楽しめる味噌づくりキットなどあります。味噌づくりキットは、パナソニックさんとマルコメさんが共同開発したものです。
田中宏隆さん:コロナ禍の影響だけでなくて、人は幸福を感じにくくなっている。SNSの影響もあって人の幸せや成功が露骨に見える化され、凄い比較社会になってきています。人がもっと幸せになるソリューションを世の中が求めている、こんなことが言われているのですね。
それを考える時、我々が非常にヒントになるなぁと思っているのが、この「WHOの健康の定義」です。WHOは社会的健康についても言及しています。健康の実現には、身体・精神だけでなく、やりがいや生き甲斐という社会的な健康や地球の持続可能性が求められているというものです。
田中宏隆さん:ここからは、いまどんなサービスが世の中に出ているのかという内容です。
田中宏隆さん:最初は、「ベースとなる潮流」。そして「新アプリケーションの領域」、最後は、「事業創造トレンド」です。
ベースとなる潮流では、フードイノベーションが起こる1丁目1番地で、サイエンス・クッキングという考え方が挙げられます。きっかけは「モダニスト・クイジーン」という分厚い雑誌だと言われています。ネイサン・ミヤボルトというマイクロソフトの元CTOが執筆したものです。彼はマイクロソフトを辞めた後にシェフになろうと考え、料理の世界を調べる中で、レシピの表記があまりにも曖昧なことに怒りを感じました。20~30分炒めるという表記をはじめ、電子レンジも150℃~250℃で肉を加熱すると書いてあることに怒った彼はシアトルに私財を投じてもの凄いラボを作ったのです。ここで英国の有名なシェフであるヘストン・ブルメンタールなどを巻き込んで研究した成果を執筆したのがさきほどの著作で、サイエンス・クッキングの手法を世の中に広めたわけです。スマートキッチンサミットも元々シアトル発なのです。テックマニアと料理の作り手を結び付けたというのがスタートポイントです。これは2011年から2012年くらいの出来事です。
ベースとなる潮流の中で、サイエンス活用と生活者データの見える化があります。いま、簡易なデバイスが次々に開発されて人の体の中の情報が可視化されるようになっています。以下の図は腸内細菌やグルコース値の生体データを可視化するサービスです。
アボットが販売しているフリースタイルLIBREという検査キットは身体の中のグルコース値を測れるものです。健康診断に行くと空腹時の血糖値を教えてくれますが、重要なのは常時の血糖値です。これはAmazonで買えるキットで、代替値であるグルコース値を測ることによって常時の血糖値が見える化できます。私の体験では、インドカレーとナンやライスを食べると食後スパイクは最悪であるとか、一方でパンにオリーブオイル、ご飯にとろろでは食後スパイクが起きないといったケースが分かりました。実際、自分の身体で何が良いかが分かったりして、食の改善を図ったら、1か月で5キロ体重が減ったりしました。昨今では、CESを始め、いろいろな見本市で身体の情報をセンシングする装置の展示が増えています。
田中宏隆さん:もう1つ、皆さんに紹介したいことがサスティナビリティーです。SDGsを事業の目標にするケースが増えています。その中で最もホットなのが、代替プロテインです。これは基本的にはタンパク源をお肉や魚ではなく、植物利用や培養して作ってしまおうという世界です。
2018年1月のカオスマップ
2020年1月のカオスマップ
田中宏隆さん:この図は2018年1月のカオスマップ、それが2020年1月の図では世界に300社が競い合うレッドオーシャンになっています。すでにアレルギーがない牛乳を開発するということが始まっています。つい昨日かな、ビヨンドミートがマクドナルドと植物ベースのハンバーガーの共同開発をするというニュースが出ていました。
田中宏隆さん:そうした中で、パーソナライズドフードがホットです。さきほど、身体の情報の見える化の話しをしました。診断はしてくれるけれど、介入するサービスはないという内容です。実は欧米では血液検査や遺伝子検査、腸内細菌の情報、その他、バイタルデータを分析して、調理レシピを提供するサービスが次々と出てきています。遺伝子検査を受けた後、自分に最適な料理(個別化食)をレストランで受け取れるサービスとか問診によってその人に最適な中国茶を自動抽出するマシーンなどが出現しています。
次は英国で始まったサービスです。お店で遺伝子検査を受けると1時間後にリストバンドをもらえ、それによってその人に合う食材情報をバンドの色で教えてくれる商品も出ています。Dnanudgeという企業です。Nudgeは日本語で言うとおせっかいという意味です。もう少しおせっかいなサービスもあります。個人の健康状態や噛む力に合わせた食材を3Dプリンターでつくって提供するといったものです。3Dプリンターを使って、パスタの内側を空洞にしてカロリーを減らす要求にも対応しています。
次にレシピの世界の話しをします。レシピはデジタル化、動画化の段階を経て、いまは調理家電に組み込まれる段階に進化しています。レシピが家電をコントロールする時代が来ています。現在の低温調理器ではお肉を58℃で1時間調理すればミディアムレアになるとか、63℃にするとミディアムになるとか、いろいろな設定があります。現在は、さらにお肉の重さも入力してもらい、この調理データをネットで収集、その日に消費者がどんな肉を食べたとかという情報を取ります。これまでレシピサイトは調理実績のデータが取れなかったのが弱点でした。消費者がどんな調理をしたのかというデータはどの企業も持っていませんでした。家電にレシピが搭載されて、それがネットに接続されることによって、先行したサービスを展開しようとしているのが米国のJUNEという企業です。そこが提供しているJUNE OVEN。会員制でデータを取得しているので、食事データを提供しているユーザーのプロファイルも分かります。そうするといままでとまったく違ったアプローチが可能になります。
このほかに、カクテルマシンでユーザーが自宅で飲んでいる飲料水の情報を収集している先行事例も出てきています。最新のスマート冷蔵庫では、冷蔵庫にカメラが内蔵されていて、ドアを開け閉めすると写真をバシバシ取るというものがあります。その画像データをもとに、足りない食材をリスト化して買い物支援をするサービスも出現しています。
では、流通サイドでどのような動きが出ているのでしょうか。
ドイツの事例では、サブスクリプション型で農地のシステムや管理を提供するサービスが始まっています。すでにベルリン市内のスーパーマーケットやレストラン、倉庫などに100ファームが配置されています。
もう1つ注目されている動きが、「リテール フォー ウエルビーイング」です。お客さまの健康や心の豊かさを重視した様々なサービスを展開しようというもので、例えば、店舗レイアウトの進化です。これまではレジの近くに売れ筋商品を置くという動きがメインでしたが、いまは一番魅力的な棚に健康的な商品を置くという動きが活発化しています。あるいはダイレクトに医食同源のサービスを提供するお店も出てきています。また、スーパーマーケットの従業員に対して医食同源について指導するシェフドクターを配置する企業も現れています。
ぜひ、皆さんに知っておいて欲しいテーマが、フードロボットと機能分離です。
米国でここ数年、フードロボットはホットな話題です。我々が注目しているのはフロントで活躍するロボットです。以下の図のサラダロボットでは1000種類のサラダが作れるのですよ。
このほかではクリエーターというサンフランシスコのロボットがあります。これはものすごく美味しいハンバーガーを提供できるロボットです。
機能分離の中でホットなのがゴーストキッチンです。これはデリバリーサービスがどんどん広がった時に、デリバリー専用のレストランを作れば良いという発想です。ドアダッシュという企業はウーバーイーツよりも大きなデリバリーサービス企業でして、30万店とつながっています。であれば、個店対応する必要はない。メニューだけもらって、フードデリバリー専用のキッチンを作れば良いとなって、シンガポールでは10階建てのビル1棟がゴーストキッチン、セントラルキッチンになっている事例も出ています。
田中宏隆さん:次はコロナ禍で起こった事例です。お客さんが来なくなったお店の厨房をライブキッチンにしてしまって、45分の料理ストリーミング番組を配信。それに興味を持ってもらった視聴者はお店にミールキットを買いにくるという仕組みのビジネスも出ています。
そのほか、大企業がベンチャー企業とのコラボに乗り出している事例も少なくありません。
伝統的なパスタメーカーのバリラはイタリア・パルマにあるR&D施設などをベンチャーに開放したり、チョバインという米国のヨーグルトメーカーもベンチャーに開放。また、ジボダンという香料メーカーは複数企業と一緒にラボを作ってスタートアップ支援に乗り出しています。
今日の話しで是非、覚えて頂きたいのが、これまで見えなかった「人間」や「家の中」の情報が見えるようになってきたということです。これまで企業にとって暗黒大陸だった家の中が、見える化によって可能性が一気に広がってきたのです。
とは言うものの、結果的にサービスが乱立して、ユーザーからみるとリコメンドされまくる社会が到来し、自分で判断できない利便性の罠が展開する。そうではなくて、食による社会課題が解決されないままフードロスや食べ過ぎによる不健康問題が闊歩するというのも懸念材料です。やはりこれからは、生活者を中心にした一気通貫の食体験をつくることが重要だと思っています。
田中宏隆さん:去年出版したフューチャーフードビジョンの中で、12個のストーリーを書いています。
最後に、日本から発信できる価値についてお話しします。
1つは、大手食品企業に眠る技術力・人財。現状では、外に出してはいけない秘伝のタレ化しています。もっともっと開放すべきです。
2つ目は和食が持つポテンシャルの最大化と開放です。
3つ目は、課題先進国としてのポジショニング。これは世界の人から注視されているものです。日本が食の価値の再定義の発信拠点になるべきです。本来、食が持つ楽しさや人をつなげる要素は日本が得意とする分野なのです。
今年も12月17~19日にスマートキッチン・サミット・ジャパンをやりますので、是非、ご参加ください。それではいったん、ここで講演を終了します。
ご清聴、ありがとうございました。
田中 宏隆氏
(略歴)
株式会社シグマクシス ディレクター、スマートキッチン・サミット・ジャパン主催者。一般社団法人 SPACE FOODSPHERE 理事。パナソニック株式会社、McKinsey & Company等を経て、2017年よりシグマクシスに参画。戦略策定、新規事業開発・実行、マーケティング、M&A、パートナーシップ、ベンチャー協業等幅広いテーマに精通する。フードテックを中心とした食・料理のトレンドやプレーヤー動向等に造詣が深く、これまで国内外で50を超える講演・セミナー・パネルディスカッションに登壇した。メディアを通じた情報発信も多数に上る。
『フードテックの未来』(日経BP総研;2018年12月)監修、著書に『フードテック革命~世界700兆円の新産業「食の進化と再定義」』(日経BP;2020年7月)
以上
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