日本企業において、業務の生産性を上げることは、サステナブルの観点でも、平均年収を上げる観点でも、また社員の幸福度を上げる観点でも重要なテーマだ。
そして、生産性を上げるための重要な方法論として、「組織をフラットにして権限委譲をすすめる」ことが広く世界的に言われている。DBICの「VISION PAPER 2」を作成する過程でも、世界競争力ランキング上位国の方々が「競争力の源泉である生産性を上げるためには信頼をベースとした権限委譲をすすめるべき」と語る。
従って、日本企業も権限委譲というやつをやったらいいじゃないか、となる。なぜしないのか。すでにしているのか。いろいろと疑問が湧いてくる。そこで、組織論など学んだことがない私が、権限委譲を考えてみた。
権限委譲について、よく聞かれる議論は以下のような感じ。
<上司>自分は権限をかなり部下に委譲しているつもりだ。自由にやっていいといつも言っている。しかし、部下の自主性が足らないせいか、部下からなにもいい提案が上がってこない。せっかく自由だと言っているのに、最近の若い人は考えることをしない。
<部下>上司は自由にやっていいと口では言うけれど、組織としての方針を示さずに自由と言われても何をしていいのかわからない。それでも新しいことを企画して提案すると、枝葉末節な細かいことをうるさく言うし、YES/NOを言わない。挙句の果てに、それが成功するエビデンスはあるのか、と言ってくる。やってられない。
この状況はかなり一般的で、こういう状態では権限移譲どころではない。それでは、そもそも「権限」とは一体何だろうか。これが定義できないと議論が整理できない。
現役のころ、会社の「職務権限規程」を読んだ記憶がほとんどない。この文書に「権限」が記載されているのだろうか。情報システム部時代、CIOのスタッフをしていた時に「職務権限規程」を見直したことがある。その時の記憶をたどると以下の2点が思い出される。
余談だが、これを見たCIOが思わず言った言葉が忘れられない。「俺には権限がないっていうことだな。俺の権限はすべて経営会議付議事項なんだから、俺が独自に判断できる金額はない、というルールだな」。これは、私がいた会社特有のことかもしれないが、かなりリスクマネジメントができたルールだった。
購入金額の権限ははっきり記述されているのだが、それ以外の意思決定の権限などが記載されていたような記憶がない。意思決定のほとんどが何かを購入することにつながるから、この購入金額を抑えておけば適切なルールになるという考え方なのだろうか。
例えば、この例示したルールに従えば、1000万円までのことなら課長が勝手にやっていいということなのだろうか。権限委譲を行うということは、課長に1億円までの権限を渡すようなルール改定をするということなのだろうか。金額の支出を伴わない意思決定権限は、どのように考えればいいのだろうか。
他の会社ではどんな規定になっているのだろうか。はやりのJOB型には権限が規定されているのだろうか。そもそも、「権限」とは何だろうか。次々と疑問が湧いてくる。
しかし、ルールブックだけで権限が規定されることは難しいだろう。これから発生することをすべて前もって記述しておくことはできない。では、権限委譲とはどういうことなのだろうか。ルールブックではない、企業文化とか風土のようなもので構成されているのかもしれない。「信頼」という暖かい空気を土壌にした若い者に任せるという企業文化が権限委譲の姿なのかもしれない。また、上司と部下という上下の関係自体を見直したり、上司の位置づけを変えたりすることで、もっとフラットな関係にすることが必要なのかもしれない。とすると、簡単には権限委譲を実現することは難しいのかもしれない。奥の深い課題なのかもしれない。しかし、生産性向上の切り札として権限委譲がある以上、しっかり学ぶことが必要だ。
最近テレビでドン・キホーテ社の特集があり、各店舗のアルバイトにメーカーとの仕入れ判断の交渉や値決めが任されているとの説明があった。権限委譲が組織的に進められている事例だろう。「源流」という創業者が作った憲法に、上司は威張らない、部下の話を最後まで聞く、部下は意見をはっきり言う、社長の大名行列のような臨店をやってはいけない、などフラットを徹底する思想が書かれていた。グループ売上高1兆数千億円、海外店舗数約100店と躍進されている秘訣がここにあるらしい。
DBICは今年度制作予定の「VISION PAPER 3」のなかで、「信頼経営」を掘り下げていこうと思っているが、権限委譲・組織のフラット化は大きなテーマになりそうな気がする。
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