前回のコラムで、青翔開智中学校・高等学校を率いる織田澤校長の学校経営の考え方を紹介した。この考え方はまさに「信頼経営」の要素を十分に含んでいるものと仮説を立て4つの特徴を整理したが、今回一つ加えて5つの要素で整理してみる。 織田澤校長の経営戦略の軸は以下の通りだ。
この5つの要素を、企業の経営に当てはめた言葉で言い換えると次の通りとなる。
この5つの要素は、VISION PAPER 2でインタビューした4つの国の方々のお話を受けて、その感覚に近いところで整理したつもりだ。この「信頼経営」は、日本企業の多くが使っているピラミッド型の上下関係をベースにした管理型経営とは大きく異なる。「信頼経営」の解像度を上げるために、それを実践している企業の経営スタイルを調査したり、行動されている方々のお話を集めてみようと思う。
まず、グーグル合同会社 執行役員 人事本部長 谷本美穂氏(日本の人事部「HRアワード2021」最優秀個人賞)の受賞インタビュー(2021.12.20)から抜粋する。
――谷本さんは、現在の日本企業の人事部が抱えている課題とは何だとお考えですか。
他社の人事の方から「どうすれば個を大事にする組織にできますか?」とよく相談されます。今は自律した社員を育てていき、個を生かした組織に日本企業が変わっていく転換期にあるのでしょう。私がお伝えしているメッセージはシンプルで、「社員を管理しない」ことに尽きます。GEもグーグルもそうなんですが、そもそも人事には人事権がありませんし、社員を管理するという発想自体がありませんでした。会社が掲げるビジョンやミッション、追いかけている目標をきちんと透明性を持って共有する。それにひもづいた、それぞれのジョブのミッションや役割を明確にする。ミッションや目標の実現に向けてどう会社に貢献できるのか、貢献していけるのかを社員自身に考えてもらう。それを上司と話し合い、実践してもらう。その実践のやり方は100%、社員に委ね、信頼する。だから、どこで何時からどのように仕事をしてもかまわない。貢献というアウトプットを持って評価する。これだけのことなんです。
――リモートワークを導入した企業では、遠隔から社員を管理しづらいことに戸惑いを感じている方も多いと聞きます。
管理することこそ人事の役割だと捉えて、長くやってこられた方もいますよね。それが主流だった時代では、そのやり方でよかったのだと思います。しかし、いかに新しい価値を創造していけるかがカギとなる現代では、トップダウンで生まれるものには限りがあります。みんなのいろいろなアイデアや意見をいかに引き出して、生かせるかが組織の力になる。だからこそ、社員を管理せずに、自律と成長を促したいと考えている人事の方が増えているのではないでしょうか。オーナーシップを持って、社員が自分で自身のキャリアを探求していく必要があります。その仕組みをつくって、支援していくことが人事の役割だと思います。「そうは言っても、うちの社員は管理されるほうが好きなんですよ」と他社の人事の方に言われることがあります。そんなときは「本当にそうですか?」といつも聞き返しています。グーグルだから、外資系だから特別ということはないはずです。グーグル日本法人の社員の7割は日本人ですし、前職で管理型の日本企業に勤めていた人も多くいます。それでも、「自分のやりたいことや意見が尊重される」「自分で自身の将来を切り開いていかなければならない」環境に身を置くと、そのことをポジティブに捉えて成長していきます。だから私自身は、管理されるほうが好きという意見には懐疑的で、会社側の仕組みの問題なのではないかと考えています。
谷本氏のお考えも、「100%社員を信頼し委ねる」「管理しない」という「信頼経営」に近い考え方だと推測される。加えて、「管理型の日本企業に勤めていた方でもその環境に身を置けばポジティブに捉えているので、会社側の仕組みを自立型に変えるかどうかの問題」というご発言に大いに勇気づけられる。
組織や人事制度は人事部の担当と決めつけてご自身では関心を持たない方が多い。自分の会社の大事な将来のことだから、人事部任せにしないで皆さんで議論を始めることが必要ではないだろうか。むしろ、私はこの「信頼経営」への大変革をDXの本命として「DX推進室」が起案するべきと考えている。DBICでは、このような意識の変革、文化の変革なしには日本企業の将来はないと考え、VISION PAPER 2で「信頼経営」を提言したつもりだ。大事なテーマなので、このコラムでは引き続き「信頼経営」をテーマにして調査したり、考えたりしていこうと思う。
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