私は、野中郁次郎先生から直接ご指導いただいた経験はないし、またお話したこともないので、偉そうにコメントする資格はない。しかし、先生のお考えに激しく共鳴するところがあるので、申し訳ないが、私の想いを書かせていただくことにする。
野中郁次郎先生がこう述べている。
「イノベーションの源泉は、機械的な形式知にあるのではなく、人間的な暗黙知にあるのである。両者の相互作用から、知が組織的に生み出されていくのである。」
「知識には、言語化、図式化が可能な形式知と、それが困難な暗黙知とがある。前者は論理分析的な頭で獲得する理論的な知(例えばマニュアル、スペック)であり、後者は身体・五感で経験的に獲得する、場に特殊な知(例えば直感的イメージや熟練のノウハウ)である。」
すなわち、
「野生を磨け、考える前に感じろ、知的コンバットだ、忖度するな。」
なぜなら、
「イノベーションの根は、暗黙知にあり、身体・五感を育てなければならない。」
そして、
「身体・五感による暗黙知を育てるためには、個人が自律しなくてはならない。」
野中郁次郎先生が著書『アメリカ海兵隊』の中で、「自己革新組織」の中核にあるのが、「目的の共有」と「個人の自律」と述べている。ここで言う「自律」とは、単なる「自由にやる」ことではなく、組織の目的に共感し、それを実現するために自ら考え、行動する能力と姿勢だと示している。
「共感」、「考え」、「行動」、する能力を自律と言っている。忖度しないで自分の考えを持ち、行動する、というところに本質があるように思う。
「勉強になりました」「デザイン思考は本で読み知っています」「顧客思考とは顧客の立場で考えればいいこと」などのような「知識」では役に立たない。実践することで汗をかき、体の中から暗黙知が湧き出てきて、それをさらに実践することで創造的なことができるようになる、と主張されている。
自律は、白か黒かということではなく、グレーの度合いで見るものと思うが、私の眼には自律度が低いように見える。それは、次の事象を多く目にするからだ。
このような状況が多くの企業で蔓延している。こんな状態では、健全な企業の発展は望めないのではないだろうか。個人を自律させていない責任と危機感を、経営者はもっと強く認識するべきではないだろうか。
指示待ちしていた人が急に自律することはなく、思考停止した組織が急に考え始めるわけもない。それぞれ地道な変革活動が必要だ。
社員全員が自律する状態は難しいだろうから、育成した自律しかけた人材を、組織の要所に配置し、経営の想いを共有し、組織を根底から変えていく活動が必要になるだろう。そのような組織作りがないとイノベーションなど生まれることはないと、野中先生はまだ忠告し続けているように思う。
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