【横塚裕志コラム】野中郁次郎先生に イノベーションの源を学ぶ

私は、野中郁次郎先生から直接ご指導いただいた経験はないし、またお話したこともないので、偉そうにコメントする資格はない。しかし、先生のお考えに激しく共鳴するところがあるので、申し訳ないが、私の想いを書かせていただくことにする。

野中郁次郎先生がこう述べている。
「イノベーションの源泉は、機械的な形式知にあるのではなく、人間的な暗黙知にあるのである。両者の相互作用から、知が組織的に生み出されていくのである。」
「知識には、言語化、図式化が可能な形式知と、それが困難な暗黙知とがある。前者は論理分析的な頭で獲得する理論的な知(例えばマニュアル、スペック)であり、後者は身体・五感で経験的に獲得する、場に特殊な知(例えば直感的イメージや熟練のノウハウ)である。」

すなわち、
「野生を磨け、考える前に感じろ、知的コンバットだ、忖度するな。」
なぜなら、
「イノベーションの根は、暗黙知にあり、身体・五感を育てなければならない。」
そして、
「身体・五感による暗黙知を育てるためには、個人が自律しなくてはならない。」

1. 野中理論による自律とは何か

野中郁次郎先生が著書『アメリカ海兵隊』の中で、「自己革新組織」の中核にあるのが、「目的の共有」と「個人の自律」と述べている。ここで言う「自律」とは、単なる「自由にやる」ことではなく、組織の目的に共感し、それを実現するために自ら考え、行動する能力と姿勢だと示している。
「共感」「考え」「行動」、する能力を自律と言っている。忖度しないで自分の考えを持ち、行動する、というところに本質があるように思う。

「勉強になりました」「デザイン思考は本で読み知っています」「顧客思考とは顧客の立場で考えればいいこと」などのような「知識」では役に立たない。実践することで汗をかき、体の中から暗黙知が湧き出てきて、それをさらに実践することで創造的なことができるようになる、と主張されている。

2. 日本企業のビジネスマンが自律しているか?

自律は、白か黒かということではなく、グレーの度合いで見るものと思うが、私の眼には自律度が低いように見える。それは、次の事象を多く目にするからだ。

  1. 自分の意見を持たない:「私」を主語にした発言が少ない
  2. 正解を探してしまう:正解が見つけにくいので思考が止まる
  3. 空気を読んでしまう:協調性を重視してしまう
  4. 上司の意向を忖度する:その方が人事評価が高くなり出世できる
  5. 組織の権限が狭く思うようには行動が許されない
  6. ワイガヤできる議論の場がない
  7. 議論しないから質問する能力が極端に低い
  8. 直感で意見を言うとファクトで語れと非難される雰囲気
  9. 上司に具申しても埒があかない
  10. 真似したい自律しているひとがいない
  11. できない理由は優等生のように整理して言える
  12. 指示をこなすだけで精いっぱいの部下
  13. 下手なことを考えずに指示通りやれという上司
  14. 短期的な数値指標を振りかざす人事部

このような状況が多くの企業で蔓延している。こんな状態では、健全な企業の発展は望めないのではないだろうか。個人を自律させていない責任と危機感を、経営者はもっと強く認識するべきではないだろうか。

3. 自律するためにどうしたらいいか

指示待ちしていた人が急に自律することはなく、思考停止した組織が急に考え始めるわけもない。それぞれ地道な変革活動が必要だ。

  1. 自律人材を育成する
    個人を自律に向けて覚醒していくプロセスやトレーニングが必要だ。自律しよう、と掛け声をかけただけで自律する人はいない。
    DBICは、「トランス・パーソナル」「UNLOCK QUEST」など、自律支援のプログラムを提供している。3か月間かけて、徹底して自分と向き合い、身体・五感を自分自身で覚醒していくプロセスだ。「トランス・パーソナル」は既に1万人が受講し、「UNLOCK QUEST」も満員の状況だ。「個人の自律」が企業の創造性獲得に重要だと理解し、このトレーニングに社員を参加させるメンバー企業が増えている。
    一方で、自律の重要性を認識している企業は多くない。私の知る限り、HRの界隈ではあまりテーマにもなっていないようだ。「個人の自律」に関して、もっと真摯に問題意識を持つべきと思う。上に書いた①~⑭の問題を放置しておいて、DXとかイノベーションができるわけがないと認識すべきだ。
  2. 組織文化を「自己革新組織」に変革する
    自律した組織にするには、「個人の自律」ともう一つ「組織文化」の課題がある。組織文化は、経営者の責任だろう。経営者が、「個人が考え、行動し、対話し、暗黙知を醸成し、イノベーションを創造する」組織文化に変える努力をするべきだ。
    何をすればいいのか。これこそ、まさに、経営者・役員がそれぞれ考え、意見交換の場でワイガヤし、仮説を立てて行動し、その結果を受けてまた考え、さらなる手を打ち、また考え、また悩み、暗黙知を育てていくプロセスが必要だろう。

社員全員が自律する状態は難しいだろうから、育成した自律しかけた人材を、組織の要所に配置し、経営の想いを共有し、組織を根底から変えていく活動が必要になるだろう。そのような組織作りがないとイノベーションなど生まれることはないと、野中先生はまだ忠告し続けているように思う。

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