【横塚裕志コラム】AI導入は 第4次オンライン計画として実施すべき

企業におけるAI導入が本格化している。生成AI、AIエージェントの活用で、その対象業務は、単なるオフィスワークにとどまらず、営業、商品開発、品質管理、製造、顧客サービス、さらには経営判断にまで広がり始めている。しかし、多くの企業では依然として「便利な新しい道具の導入」という認識にとどまり、部門ごとの小規模なPoCが乱立しているのが現状だ。

果たして、それでよいのだろうか。

1.AI導入は「第4次オンライン計画」として実施すべき

AI導入の本質を捉えるには、銀行業界がかつて取り組んだ「第1〜3次オンライン計画」の歴史を振り返るべきだと私は考える。あの計画が業界全体を変えたように、AIもまた企業の構造そのものを変える力を持っている。

だからこそ、AI導入は「第4次オンライン計画」と位置づけ、トップダウンで全社横断の体制を整えるべきだと思う。以下、その理由を述べる。

  1. オンライン計画の本質は「技術」ではなく「組織の横断再設計」にある

    銀行のオンライン化は、単なる勘定系のコンピュータ化ではなかった。むしろ核心は、中核業務の標準化・統合にあり、そこで莫大な効果が生まれた。

    ① 全社横断の「ヨコグシ」が徹底された
    オンライン計画以前、銀行の業務は店舗や部門ごとに手続きが異なり、プロセスもまちまちだった。そこでオンライン化に合わせて、手続きの統一、用語・データ定義の統一、決済・勘定といった基幹業務プロセスの統合が徹底された。
    
これは技術導入ではなく、企業のビジネスプロセスそのものを作り直す作業であり、まさに「全社BPR」であった。

    ② ITを「経営課題」として扱った
    
オンライン計画が成功した最大要因は、経営トップの強いコミットメントだ。
    CIOという概念が確立していなかった時代にもかかわらず、経営層が当事者として主導し、横断組織を設け、全社のリソースを投入した。
    
この「トップダウン+全社横断」の体制こそ、成功の基盤だった。

  2. AI導入は、オンライン化以上に「全社統合」が難しい

    現在のAI導入は、多くの企業でなお「ツール」として扱われている。しかしAIの本質は、単なる自動化や効率化ではない。意思決定や価値創造の在り方そのものを変える「構造技術」である。「意思決定」に踏み込むがゆえに、経営課題としてトップダウンでの検討が必要だ。

  3. 小粒なPoCでは価値が出ない

    実際、多くの企業では次のような状況が起きている。部門ごとに小規模なAI導入を試す、目的が「AIを使うこと」になってしまう、データがつながらずスケールしない、投資回収の道筋が見えない。
    これはオンライン化初期の混乱と極めてよく似ている。「構造改革」という視点が欠けているのだ。

2.金融業界だけでなく、サービス業・製造業も「第4次オンライン」を

「第1〜3次オンライン計画」という考え方自体は銀行業界特有かもしれない。しかし、「第4次オンライン計画」としてAI導入を進めるべき理由は、すべての業界に当てはまる。

製造業では、次のような問題に陥りやすいとの指摘がある。

 
  1. 工場・部門ごとにPoCが乱立する
    • 工場ごとに異なるモデル
    • データ形式もセンサー仕様もバラバラ
    • 設備メーカーに依存した閉じたデータ構造

    これでは全社としての生産性向上につながらない。

  2. データが統合されない

    製造業のデータは「OT(設備データ)」「IT(ERP等)」「設計データ」と多層構造であり、これらが統合されなければAIの価値は出ない。

  3. AIが「自動化ツール」として誤解される

    本来は「経営の再設計」のはずが、「現場の省力化」に矮小化されがちである。だからこそ、製造業こそ「オンライン計画型」の全社AI導入が必要なのだ。

 

3.DXもAIも、「テクノロジー導入」ではなく「企業文化の変革」と認識すべき

日本企業が長年培ってきた「現場改善・縦割り・短期志向」という考え方と、AIが求める「経営改革・全体最適・長期志向」の間には、明確な「文化ギャップ」がある。そして、この文化を変革しない限り、AIを効果的に活用することはできない。
多くの企業でDX/AIが進まない理由は、技術や知識の不足ではなく、次のような「文化的抵抗」が大きいからだと考える。

 ① 現場改善文化 →「現場の効率化」に矮小化される
 ② 縦割り組織 → データがつながらず「全社プロジェクト」にならない
 ③ 短期志向 → 数年スパンの変革投資ができない


この「文化ギャップ」を変革する意味でも、AI導入を梃にした「第4次オンライン計画」という企業変革を、トップダウンで、本社変革オフィスが主導する形で実施する意欲を経営陣やCIOが持つ必要があると思う。現場での個別のAI導入だけで満足していると、効果が出ない上に、属人化したAI負債がたまって酷い状況になることも容易に想像できる。
企業の競争力を上げる意味でもこの文化ギャップの変革は重要であり、まさにAI導入というヨコグシのいい風が吹いているときに、企業改革に踏み出してはどうだろうか。

4.「ビジネス変革人材」の認知・育成

まさにこのタイミングで、12月1日に、経産省が「DX人材」ではない「ビジネス変革人材」の役割を公表している。経営戦略をビジネス構造の変革として組み上げる役割の「ビジネスアーキテクト」、その戦略をプログラム単位で具体的な構造として設計する「ビジネスアナリスト」「プロダクトマネージャー」がそれだ。
(「ビジネスアーキテクチャ人材の育成に関するタスクフォース 報告書」参照)
 
デジタルやAIを現場でツールとして使うのではなく、それらの最新技術を梃にしてビジネス構造そのものを変革する姿を企画できるのは、高い専門性と変革マインドを持つ「ビジネス変革人材」なのだ。AI導入のタイミングで、経営はその人材の必要性を認知し、育成する活動を開始するべきだろう。変革は継続して行うべきもので、変革を継続できる体制・人材・文化を創っていくことが経営の使命だと思うからだ。

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