【横塚裕志コラム】一畳から始まる企業変革  ~「好き」だから続けるという力~

日本舞踊と企業変革。一見すると、最も距離のある二つの世界に思えるかもしれない。しかし、DBICの「企業変革実践シリーズ」に有馬和歌子さん(27歳)をお迎えし、ご講演とともに「一畳」での舞踊を披露していただいたとき、その距離は一気に縮まった。

有馬さんは、坂東流という日本舞踊の正統な古典を学びながら、一畳という極めて限定された空間に、日本舞踊の本質を凝縮する表現に挑戦している舞踊家だ。加えて、絵画、音楽、書道など、ジャンルを超えたアーティストとのコラボレーションにも積極的に取り組んでいる。
イベント当日、有馬さんは本番よりかなり前に会場に来られ、一畳の空間でリハーサルをされていた。限られた時間の確認のはずだったが、有馬さんは少し照れたように、こう語られた。
「踊り出したら、楽しくなっちゃって、全部踊ってしまいました」
その一言に、日本舞踊に対する深い愛情と、身体の奥から湧き上がる喜びが凝縮されているように感じた。そして同時に、私たちは強く共感していた。私たち自身もまた、「好きで」このDBICの活動を続けているからだ。

1.伝統を学び尽くした先にある挑戦

有馬さんの活動が印象的なのは、「新しいこと」をやっている点ではない。むしろ、古典を徹底的に学び、身体化したうえで、その先を問い続けているところにある。
坂東流という型は、日本舞踊の長い歴史の中で磨き上げられてきた完成度の高い体系だ。それをなぞるだけでも、相当な修練が必要になる。しかし有馬さんは、そこに安住しない。一畳という極端に制約された空間に立つことで、「型」「間」「身体性」といった、日本舞踊の核心を、現代の観客にどう立ち上がらせるかを問い続けている。
それは、伝統を壊す試みではない。
むしろ、伝統を未来へと手渡すための、極めて誠実な実験だ。
この姿勢は、企業変革の現場にも驚くほど重なって見える。

2.現状の課題から目を逸らさない

私たちDBICは、企業や組織の変革、人材の成長を支援する活動を行っている。その中で、必ず直面するのが、「これまでうまくいってきたやり方が、これからも通用するのか」という問いだ。
日本企業には、長年にわたって築き上げてきた強みがある。一方で、その成功体験が、知らず知らずのうちに変化への感度を鈍らせてしまっている場面も少なくない。管理の仕組み、意思決定のあり方、人材育成の前提 ―― それらが、時代とのズレを生み始めている。重要なのは、過去を否定することではない。しかし、過去にとらわれ続けることでもない。
有馬さんが、古典を深く学んだうえで新たな表現を模索しているように、私たちもまた、日本企業が積み重ねてきた価値を踏まえつつ、今と未来に向けて問い直す活動を続けている。

 

3.デジタルもアートも「視点の一つ」

企業変革というと、デジタルやAIといった技術の話に収斂しがちだ。しかし私たちは、それを万能薬だとは考えていない。デジタルはあくまで一つの視点であり、組織や人の進化を考えるための手段にすぎない。だからこそ、私たちは経営、組織文化、価値観、学び方といった、より広い文脈から企業活動を捉え直そうとしている。
この姿勢は、有馬さんが日本舞踊という軸を持ちながら、絵画、音楽、書道といった他ジャンルのアートとのコラボレーションを志向している点と、深く共鳴しているように感じる。異なる分野の視点を取り込むことで、本質がより立体的に浮かび上がってくる。そのための対話を、恐れずに続けているのだ。

4.「好き」でなければ続かない

イベントの最後に、一畳の空間で披露された舞踊を見ながら、私は先ほどの「楽しくなっちゃって」という言葉を思い出していた。変革も、表現も、決して楽な道ではない。むしろ、理解されないことや、孤独を感じる場面のほうが多い。
それでも続けられるのは、そこに「好き」という感情があるからだろう。

私たちDBICの活動も同じだ。効率がいいわけでも、すぐに成果が見えるわけでもない。それでも、「企業や社会は、もっと良くなれるはずだ」という思いがあるから続けている。理屈だけではなく、どこかで「楽しい」「面白い」と感じているから、考え続けられる。
一畳という小さな空間から広がる日本舞踊の可能性。DBICという小さな組織から投げかける、企業や社会への問い。スケールは違っても、根底に流れているのは同じだ。
現状の課題を直視し、過去を尊重しながら、前だけを向いて考え続けること。そして、「好き」というエネルギーを、次の時代につないでいくこと。
有馬和歌子さんの挑戦を心から応援しながら、私たち自身もまた、その姿勢に学び、歩みを続けていきたいと思う。

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