【横塚裕志コラム】経営は「顧客の状態変化」から始める

「売上を伸ばす」「利益率を上げる」「生産性を高める」「DXを進める」。経営会議では、こうした言葉が日々語られている。
しかし、その先にいる顧客に、どんな状態変化を起こすのかという問いは、意外なほど語られていない。
私は、経営の出発点は「顧客成果の定義」にあると考えている。
企業が実現しようとする「顧客成果」をまず定義し、それを実現するための活動・人材・組織を準備し、成果を実現することを価値基準として活動する。この考え方を、私たちは「マネジメントOS」と呼んでいる。
それに対して、日本企業の多くは「現状の問題点」を改善することを価値基準として経営を行っている。この方式を、私たちは「管理OS」と呼んでいる。
管理OSでは、既存の業務をいかに正確に、効率的に行うかが重視される。その結果、顧客の価値に直接貢献しない内部的な部分最適の活動が増え、現場は忙しくなっているのに、顧客にとっての価値はあまり変わらない、ということが起こる。
では、「顧客成果」とは何なのか。

1.顧客成果という言葉の混乱

最近、DXやAIの議論で「顧客価値」や「顧客成果」という言葉を耳にすることが増えた。しかし日本企業では、この言葉がしばしば誤解されている。
例えば、「売上を増やす」「顧客数を増やす」「市場シェアを拡大する」といった目標が「顧客成果」として語られることがある。
しかし、これらは顧客成果ではない。企業成果だ。顧客成果とは、企業ではなく、顧客の側に起きる変化をいう。売上が増えたとしても、それだけでは顧客にどんな変化が起きたのかは分からない。企業にとっての成果と、顧客にとっての成果は、分けて考える必要がある。
経営者がまず問うべきなのは、「自社の売上をどう増やすか」だけではない。
「顧客に、どんな状態変化を起こしたいのか」という問いではないだろうか。

2.顧客成果とは「顧客の状態変化」

顧客成果を一言で言えば、顧客の状態が良くなることだ。
例えば、タクシー会社の顧客成果は、「タクシーという車両を利用すること」ではない。顧客が求めているのは、「必要な場所へ、必要な時間までに移動できる」という状態だ。
農業機械なら、顧客成果は「トラクターを購入すること」ではない。「農作業にかかる時間を短縮し、必要な収穫量を確保できる」という状態かもしれない。
ECであれば、「商品を販売すること」が成果ではない。「欲しい商品を、自分で店を探し回ることなく、必要なときに入手できる」という状態が顧客成果になる。
ここで重要なのは、顧客が求めているのは商品そのものではない、ということだ。
商品やサービスは、顧客成果を実現するための「手段」だ。
この違いは、企業の仕事の設計を大きく変える。
例えば工作機械メーカーが、「高性能な工作機械をつくる」ことを目的にすれば、精度を上げる、速度を上げる、新しい機能を追加するといった製品改善が中心になる。
しかし、顧客成果を「工場を止めず、生産を安定して続けられること」と定義したらどうだろう。必要なのは、機械の性能向上だけではない。故障を予測する、異常を早期に発見する、部品交換を先回りする、復旧時間を短縮するなど、製品の外側にあるサービスまで考える必要が出てくる。
つまり、「良い機械をつくる」から、「顧客の工場を止めない」へと、仕事そのものが変わるのだ。

3.顧客成果が企業を変える

顧客成果を定義すると、企業の設計は大きく変わる。
先ほどの工作機械メーカーを考えてみよう。
「高性能な工作機械を販売する」という発想なら、製品開発部門、営業部門、保守部門など、それぞれが自分たちの仕事を改善していくことになる。
しかし、「顧客の工場を止めない」という成果を定義した瞬間、発想が変わる。
どのようなサービスが必要なのか。どのようなデータを取得すべきなのか。どのような保守体制が必要なのか。営業は何を顧客に提案すべきなのか。製品開発は何をつくるべきなのか。
つまり、成果から逆算して、仕事を設計することになる。
その結果、顧客成果 → サービス → 製品 → 企業、という順序になる。
これは従来の、製品 → 販売 → 売上、という企業設計とは大きく異なる。
物流会社でも同じだ。
「荷物を運ぶ」ことを仕事と考えれば、トラックを増やす、配送ルートを改善する、配送時間を短縮する、といった改善が中心になる。
しかし顧客成果を、「必要な商品が必要なときに届き、顧客の事業を止めないこと」と定義したら、物流会社が提供すべき価値は大きく変わる。
単に「運ぶ」のではなく、需要を予測し、在庫を管理し、配送を最適化し、異常が起きる前に対応することまで、仕事の範囲に入ってくる。
ここに、マネジメントOSの特徴がある。

顧客成果を定義すると、企業の仕事が変わる。
仕事が変われば、必要な人材が変わる。組織が変わる。業務プロセスが変わる。そして、必要なITやAIも変わってくる。
だからこそ、AIやデジタルを導入することから始めてはいけない。
「顧客にどんな成果を実現するのか」を先に定義し、そのために何を変えるべきかを考える必要がある。

4.マネジメントOSの出発点

経営者が最初に問うべきなのは、「私たちは、顧客のどんな状態を変えたいのか」ということだ。そして、その答えから、サービス・製品・仕事・組織・人材・IT・AIを逆算していく。
顧客のどんな成果を実現するのか。そこを定義できるかどうかが、企業の仕事、組織、人材、そして経営そのものを決めていく。
それが、マネジメントOSの出発点なのだ。

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