【横塚裕志コラム】ビジネスプロセスは、誰が経営するのか

1.企業を変えたのは、ビジネスプロセスだった

ユニクロの店舗では、以前からレジの混雑が顧客にとっても、店舗にとっても大きな問題だった。そこで、商品一つひとつにICタグを付け、レジで商品を一つずつ読み取る必要をなくした。
重要なのは、ICタグという技術を導入したことではない。
「レジが混雑する」という問題を、単なる店舗運営上の問題ではなく、顧客体験や店舗の生産性に関わる経営課題として捉え、レジの処理能力を上げるのではなく、会計というプロセスそのものを変えたことに意味がある。
スターバックスも同じだ。レジの行列に対して、レジを速くするのではなく、Mobile Order & Payによって、事前に注文と決済を済ませ、店舗では商品を受け取るだけという流れをつくった。さらに、アプリの利用開始そのものが障壁になると、App Clipによってアプリをダウンロードしなくても注文できるようにした。

これらに共通しているのは、店舗の問題を経営の重要課題と捉え、仕事の流れそのものを変えることで解決していることだ。企業の生産性や顧客体験を大きく変えるのは、新しい商品やシステムだけではない。ビジネスプロセスのどこにボトルネックがあるのかを発見することが重要なのだ。

2.「おかしい」と感じることから始まる

では、こうしたボトルネックは、どのように発見されるのだろうか。
「顧客が長時間待っている」「部門間の引き継ぎに時間がかかっている」「承認を待つために仕事が止まっている」。こうした現象は、多くの企業に存在する。しかし、それが必ずしも経営課題にはならない。
現場では、「昔からこうなっている」「ルールだから仕方がない」「システムがそうなっている」と受け入れられていることが多い。
ここに大きな問題がある。
ビジネスプロセスの改革は、必ずしも最初から大きな改革案として現れるわけではない。「なぜ、こんなことをしているのだろう」「なぜ、顧客にこんなことをさせているのだろう」「なぜ、こんなに時間がかかるのだろう」という、小さな違和感から始まる。その違和感を「仕方がない」で終わらせず、問題として捉えることが重要なのだ。

3.経営課題として認識されて、初めて変わる

プロセス上の問題を見つけても、それだけでは改革にはならない。「現場が困っている」という話で終われば、個別の改善で終わる。
経営者が、「これは顧客にとって重要な問題だ」と認識して初めて、経営課題になる。
そうなれば、部門をまたいでプロセスを見直すことができる。既存のルールを変えることもできる。組織の役割を変えることもできる。必要ならITやAIを使うこともできる。
つまり、改革の出発点は、必ずしも新しい技術ではない。「今のプロセスは、本当にこれでよいのか」という経営者の問いだ。

4.ビジネスプロセスは、「体で感じる」ことから始まる

ビジネスプロセスを考えるというと、業務フローを描き、データを分析し、ボトルネックを特定することを思い浮かべるかもしれない。しかし、その前にもっと大切なことがある。
経営者自身が現場を見ることだ。
工場では、経営者や現場の管理者が工程を実際に見て回る。製品がどのように作られているのか、どこで時間がかかっているのか、作業者がどのように動いているのかを見る。そして、「ここに無駄がある」「この動きはおかしい」と感じる。
製造現場では、コストを1銭単位、時間を1秒単位で改善していく思想がある。
同じように、顧客接点でも、経営者自身が顧客の行動を見てみることが重要ではないだろうか。
例えば店舗に入り、商品を探し、レジに並び、支払い、商品を受け取る。その一連の流れを、顧客の立場で実際に体験してみる。「なぜ、ここでこんなに待つのだろう」「なぜ、ここで店員と顧客のやり取りが集中するのだろう」「なぜ、顧客自身にこんな手間をかけさせているのだろう」。そんな違和感を持つことから、プロセスの問題が見えてくる。
そして、現場の担当者にも直接聞いてみる。
「お客様が困っていることはありませんか」「仕事をしていて、おかしいと思うことはありませんか」「もっとこうした方がよいと思うことはありませんか」。管理者から整理された報告を聞くだけでは、見えてこないことがある。
実際に顧客と接している担当者だからこそ知っている、ちょっとした不便や、日々繰り返される小さな無駄がある。大切なのは、まず経営者自身が、「これはおかしいのではないか」と感じることだ。
その感覚から、「なぜこうなっているのか」「本当にこの仕事の流れでよいのか」「もっとよい方法はないのか」という問いが生まれる。
現場を自分の目で見て、顧客の行動を見て、そこで起きていることを自分の体で感じること。そこから生まれた違和感を経営課題として取り上げる。
経営者には、そうした「ビジネスプロセスを見る感覚」が必要なのではないだろうか。

5.AI時代だからこそ、プロセスを見る

AIによって、個々の仕事を効率化することは、これまでより容易になった。
しかし、既存のプロセスの一部分をAIに置き換えるだけでは、大きな変化につながらないこともある。
企業には、組織を管理する仕組みも、数字を管理する仕組みもある。しかし、顧客に価値を届ける仕事の流れそのものを、経営の対象として見ることは、まだ十分に行われていないのではないだろうか。

だからこそ経営者には、現場の「おかしい」という声や、顧客のちょっとした不便を見逃さず、その背後にあるビジネスプロセスを見てほしい。
そして、「この仕事の流れを、誰が決めたのか」「そもそも、なぜこのプロセスなのか」「顧客にとって、本当にこのプロセスが最善なのか」と問い直すこと。
そこから、企業の本当の改革が始まるのではないだろうか。

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