【レポート】ビジネスモデル研究会(2018年4月期) 第3回

今回のセッションは1997年(日本語版2001年)の「イノベーションのジレンマ」を出版したハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセンによる一連の著作のエッセンスを凝縮して紹介し、大企業におけるイノベーション実現のための方法論を議論する内容でした。 小西一有 クリステンセンは「イノベーションのジレンマ」から続くイノベーション3部作において、「大企業からイノベーションは生まれない」と書いています。大企業は社内外に既存ビジネスにおけるステークホルダーを多く抱えてしまっているので、破壊的なビジネスを思いついたり競合が現れた際に、そのうちの誰かの利益に反することが理由で断行できないためです。一方でスタートアップ企業は利害関係者がいないので、イノベーションを生み出しやすい環境にあります。 その後、2016年(日本語版2017年)に出版された「ジョブ理論」において、クリステンセン教授は大企業でも可能な新規事業創出のフレームワークを提唱します。なお、ジョブ(用事)という概念自体は、それ以前の著作から登場しています。

顧客(個人や企業)の生活にはさまざまな「用事」がしょっちゅう発生し、彼らはとにかくそれを片付けなくてはならない。顧客は用事を片付けなくてはならないことに気付くと、その用事を片付けるために、「雇える」製品やサービスがないものかと探し回る。 「イノベーションへの解 利益ある成長に向けて」(翔泳社、2003) P92

クリステンセンによるジョブの事例として有名なのはミルクシェイクです。あるファストフードチェーンがミルクシェイクの売上を伸ばしたいと考え、マーケット調査で要望の多かったフレイバーを追加したりという施策を行いましたが、効果が出ませんでした。 相談を受けたクリステンセンが「あなたはなぜ、ミルクシェイクを買ったのか?」という視点で再調査を行ってみると、自動車通勤の多いアメリカにおいて、長く持続し、手が汚れず、運転中の手持ち無沙汰を解消するアイテムとしてミルクシェイクが買われていたことが判明しました。 つまり「どんなフレイバーのミルクシェイクがあったらもっと買いたいか」ではなく、「どれだけ長持ちするか」「運転中にどれだけ持ちやすいか」といった視点で商品やサービスを開発するべきであったことがわかったのです。これこそが、顧客が解決したかった「ジョブ(用事)」というわけです。 ここからは本プログラムのメインコンテンツである、多彩なビジネス事例の紹介です。最初に、単純に安価なだけのヘアカットだけではなく、移動中に短時間で身だしなみを改善したいという「ジョブ」を解決することで成長したQBハウスが紹介されました。 続いてクリステンセンのもうひとつの重要な示唆である「無消費は最大のチャンス」という点が解説されます。事例として挙がったLCCは価格戦略により「これまで飛行機を使わなかった顧客」を開拓しましたが、日本人にとって馴染みの薄い事例としてドーバー海峡の行き来におけるコンサート需要があります。 「(ドーバー海峡の向うで開催される)ライブには行きたいけれど、飛行機代がないから行かない」と諦めていた「無消費」ユーザーを一気に掘り起こし、今ではLCCの独壇場マーケットになっています。 他にもウォークマン、GoPro、デオドラントシート、スナップチャットといった事例を通し「マーケット調査の結果ではニーズはないと判断されていた商品・サービス」が、実際には消費者の「ジョブ」を解決したことで爆発的なヒットにつながったことが解説されました。 最後に紹介された小松製作所による建設・鉱山機器のビジネスモデルの進化は圧巻でした。機器の販売からスタートし、メンテナンス込みのリース制、稼働時間課金のレンタル制、そして現在では採掘土砂量にコミットする成果報酬制にまで発展しています。顧客の「ジョブ」は「機器を使うこと」ではなく、例えば「2年で山を掘削したい」であるとに気づいた結果というわけです。 以上で全3回のビジネスモデル研究会(2018年4月期)が終了しました。次回は2018年の秋を目安にテーマと事例を刷新してシーズン2が開催予定です。ご期待ください。

関連リンク

・【レポート】ビジネスモデル研究会(2018年4月期) 第2回 ・【レポート】ビジネスモデル研究会(2018年4月期) 第1回 ・イベント告知ページ

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