小西一有 マイケル・ウェイドIMD教授の著書「対デジタル・ディスラプター戦略 既存企業の戦い方」を教本に、DBICメンバー企業各社のデジタルビジネス・トランスフォーメーション(DBT)に向けた課題を具体的に議論するワークショップ形式の新プログラム。「デジタルビジネス・トランスフォーメーション(DBT)と単なるデジタル化は何が違うのか?」「企業はDBTにどのように取り組んでいるのか?」をテーマに講義とディスカッションを行います。
ウェイド教授は同書で「デジタル」を「つながること(コネクティビティ)によって可能になる、複数のテクノロジーイノベーションが融合する世界」と定義しています。また、国連におけるIoTの定義も「Any Time / Any Place / Any Thing connection」つまり、いつでも、どこでも、どんなものでもつながることです。すべてがつながったデジタル社会においては、どのような業界も企業も、その影響下にあると言えます。 書籍「対デジタル・ディスプラプター戦略」の原題は「Digital Vortex(デジタル・ボルテックス=デジタルの渦)」です。デジタル・ボルテックスにも自然界の渦巻きと同じ特徴があります。渦に巻き込まれると、速度の速い中心に引き込まれること。渦巻きの中の物体は、それぞれ動きが異なること。そして中心に近づくほど物体がぶつかり合い、バラバラになったり他の物体とくっついたりします。 IMDによるデジタル・ボルテックスのイメージ図 同書ではビジネス領域に応じたデジタル・ボルテックスの影響の強弱を、渦の外周か中心かで表現した図を紹介しています。渦の中央にあるメディア、IT、小売、金融、通信といった業界は例えばAmazonの進出によって強い影響を受けていることがわかります。これは「Amazon効果」と呼ばれています。 プログラム中のブループワークでは参加者が自社のDBT状況や課題をディスカッションした それでは外周に近い物流ビジネスは安全かというと、アメリカではAmazon Flexというサービスがあり、Uberのように一般から自家用車を持ったドライバーを募って指定したルートの配送を委託しています。日本では法規制により同様のサービスは始まっていませんが、既存の流通業界がこれを「法律で守られている」と見るか、「法律によって自分達も縛られている」と見るかが問われているのではないでしょうか。
また、同書においてDBTは「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善すること」と定義されています。その際の「トランスフォーメーション」は、「形・性質・機能などを変える」というレベルの変革を指しており、外観を変えるといった表層的なものではありません。業績改善と組織変化のそれぞれについて実例を見てみましょう。 デジタル・ヴォルテックスの中心に位置する広告ビジネスは、マスメディアの時代からネット広告に変化し、さらにその中でもバナーから検索、そしてソーシャルメディアに主軸を移してきました。2017年時点での日本国内の媒体別広告費はテレビが1.95兆円に対してネットが1.51兆円と肉薄し、3位以下の新聞や雑誌を大きく引き離しています。 国内最大手である電通の売上総利益が約9,000億円に対して、Googleは約7.4兆円。これを両者の従業員数で割った労働生産性は電通が約1,461万円に対して、Googleは約8,980万円となります。DBTにおける「業績改善」とはこのレベルのことを指しています。「売上を10%アップする」といったレベルではありません。 組織変化についてはUberの事例を見てみましょう。日本国内にも日本交通のジャパンタクシー(旧「全国タクシー」)といったタクシー配車アプリは以前から存在していましたが、あくまで既存のタクシービジネスの効率化という目的のサービスでした。 一方でUberは、そもそも車両もドライバーも所有せず、利用者とサービス提供者をマッチングさせるという「会社不要」のビジネスモデルと構築しました。つまり、本質は「経営資源のモデルを変えた」ことにあります。「事業部を統合した」といったレベルの変化ではないのです。 これらの事例から、DBTが「デジタル化」ではないことがわかります。ツールやシステムを入れることだけでDBTは実現しません。映画「トランスフォーマー」で自動車やバイクや飛行機がロボットに変形するように、トランスフォームする前と後で想像もつかないほど「形・性質・機能」が変わっているレベルの変化が求められています。 なお、本プログラムは第2回目まで予告されていますが、来春にかけて3回目以降も開催予定です。今後のスケジュールについては決定次第、本サイトにて告知します。
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