渋谷ハチ公前で開催されたタップダンスのステージ。観客の頭には小型のデバイス「Ontenna」が装着され、リズムに合わせて光ったり震えたりしています。実は観客の中にはタップダンスの音が聞こえない聴覚障がい者がいます。しかしこのOntennaを使うことで「音を感じる」ことができ、みんなが一緒にリズムを楽しんでいます。
この様子を楽しそうに話されているのが、富士通株式会社でユーザーインタフェースデザイナーをされている本多達也様。大きな影響力を持った若者30名が特集される「Forbes 30 Under 30 Asia 2017」にも選出されたイノベーターです。 本多達也様 Ontennaは音を光と振動に変換するデバイスです。クリップで髪の毛に装着すると、周囲の音の大きさによってデバイスが振動し「音を感じる」ことができます。主に聴覚障がいを持った方をターゲットにした製品ですが、その応用範囲は多岐にわたります。 DBIC代表 横塚裕志 もともと大学で情報システムやデザインを学んでいた本多様、すべては大学の文化祭で聴覚障がい者の道案内をしたことが始まりでした。そこで案内をした人物ががNPO法人「はこだて音の視覚化研究会」の会長でした。 その時の様子を本多様は「まるで初めて西洋人に会った時のような、普通の人にはない強力なパワーを感じました」とおっしゃります。それがキッカケとなってお2人は意気投合し、週末には一緒に温泉に行きながら、本多様は手話を学んでいくことになります。 一方で、大学では脳波の状態を色で表す「シカクカ」というプロジェクトを研究されていた本多様。人間の様々な感覚を表現するなかで、自然と聴覚にフォーカスしていくことになります。そして聴覚障がい者にヒアリングを進める中で、髪の毛が繊細なセンサーになることに気付きました。これがOntenna誕生のストーリーです。 Ontennaの試作品をろう学校に持ち込んだところ、大きな反響がありました。普段は手話で会話している生徒たちが声を出し始めたのです。声が伝わるという体験をしたことがない生徒たちにとってOntennaは衝撃でした。 会話だけではありません。ろう者にとってリズムに合わせて楽器を演奏することは非常に難しいことです。しかしOntennaをリズムに合わせて振動させることで、いままで演奏できなかった子が積極的に演奏に加わるようになりました。 2013年に研究を開始したOntennaの評判は瞬く間に広まり、ろう学校ではなく、映画館、卓球の試合、サッカーの競技場、アート展示会など、幅広い分野での実証実験がおこなわれています。2018年4月には筑波大学の落合陽一准教授と日本フィルハーモニー交響楽団が開催した「耳で聴かない音楽会」においてもOntennaが使用されました。 本多様はこの技術を広めたい一心で、障がい者向けソリューションを研究している富士通にコンタクトを取りました。富士通であればろう学校側も信用して実証実験に協力してもらえる。これはスタートアップ企業では無理なことだったと本多様は語ります。 後半のワークショップでは参加者がそれぞれOntennaの活用方法を考え、様々なアイデアが生まれました。本多様の目標は全国のろう学校に通う11,000人以上の学生にOntennaを届けること。熱いイノベーターの想いが社会を変えていきます。
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