【レポート】第3回 デジタルビジネス・トランスフォーメーション実践ワークショップ ~ 「対デジタルディスラプター戦略」の理解と実践 ~

小西一有 マイケル・ウェイドIMD教授の著書「対デジタル・ディスラプター戦略 既存企業の戦い方」を教本に、DBICメンバー企業各社のデジタルビジネス・トランスフォーメーション(DBT)に向けた課題を具体的に議論するワークショップ形式のプログラム。2018年の11月(シーズン1/第1回、第2回)に続き開催された今回のシーズン2(第3回、第4回)では、前回の受講者のアンケートで多く出された「DBTの失敗事例から学ぶ」「B2Bの事例から学ぶ」を中心に講義とディスカッションを行います。

DBTの失敗事例から学ぶ

フィルム産業における巨人であった米イーストマン・コダック社(以下「コダック」)は2012年1月に倒産しました。当時の新聞は「デジタル化遅れ」「フィルム固執が命取り」といった見出しで倒産の原因を報じていますが、実態としてはコダックは早期から積極的にデジタル投資を行っていました。 1975年に世界初のデジタルカメラを開発したのを皮切りに、1992にはフィリップスと共同で「フォトCD」を開発し世界最大の生産会社になっています。現在のデジタル一眼レフカメラの礎ともなるモデル「コダックECAM1989」(120万画素)を1989年に開発したのも同社です。 更に2001年にコダックはアメリカで最大規模のオンライン写真共有サービスを買収しています。ところがコダックはそのシステムを使って、ユーザーがアップロードした写真データをプリントして配送、または近所のDPEショップで受け取るというビジネスモデルに注力してしまいました。 ワークショップ中の参加者の様子 そんな中、コダックの息の根を止めたの要因のひとつは2008年に発売され、2011年に出荷1億台を突破したiPhoneです。Androidも含めたスマーフォフォンの携帯性と常時オンライン化は「写真を撮影する意味」を変えてしまいました。もうひとつの要因は2010年にリリースされたInstagram(2012年にFacebookにより買収)、そして2011年に産声を上げたSnapchat(当時はPicaboo)が「写真を共有する意味」を変えてしまったことです。 Instagramの写真比率が正方形なのはコダックの「インスタマチック」規格とポラロイドのインスタントカメラを踏襲したためだと言われています。Instagramにとっても無視できない存在であり、早期に写真共有サービスを買収していたにも関わらず、コダックがDBTに失敗した理由は以下のように整理することができます。 コダックはデジタル化に遅れたのではなく、むしろ積極的に投資をしていました。しかし、コダックはデジタルの能力を「従来の写真やフィルムの代替」としてしか捉えることができませんでした。そのため、本質的な変革、即ち「意味のイノベーション」ができなかったのです。 もし、コダックが「瞬間の共有(コダックモーメント)」とも呼ばれた自社サービスの「意味」に特化して変革することができたら、InstagramやSnapchatをコダック自らが生み出していたかもしれません。

B2Bの事例から学ぶ

B2Bにおいて対象的なふたつの事例をご紹介します。ひとつは、国内大手メーカーが開発した、大規模な病院内で薬剤師の代わりに薬を運搬する自律型ロボットです。 病院職員へのインタビューや行動観察を行い、薬剤師が本来の専門である調剤よりも広い病院内での移動に時間を取られていることに注目し、「人的リソースの代替」として開発した製品(サービス)であることが想像できます。これにより病院経営の効率化によるコストダウンに一定の効果は期待できますが、「売上を一桁上げる」規模のDBTにつながるソリューションにはつならないでしょう。 もうひとつは手術支援ロボット「da Vinci(ダヴィンチ)」です。アメリカに本社を置くインテュイティヴ・サージカルが開発し1999年に発売されたこのロボットを使うとき、医師は顕微鏡を見ながら(鏡視下手術)コントローラーを操作し、実際の執刀はロボットが行います。これにより、それまで人間の手では不可能とされていた角度からの視野確保や、手ブレが起きない精密な鉗子とメスの動きが可能になりました。

ダヴィンチ開発の背景には、前立腺がんなど従来は手術の難しかった患者が身内にいた開発関係者が、その困難さの原因を医師にヒヤリングし、「今までの医療の意味を変革する」ソリューションへのチャレンジがあったのではないかと想像できます。結果としてダヴィンチは不可能だった手術を可能にしただけではなく、「機械(患者)と医師が同じ場所にいる必要がない」ことから、遠隔手術を当たり前にしてしまいました。 ワークショップ中の参加者の様子 サプライヤー、クライアント企業、最終消費者から構成されるB2B業界において、イノベーション戦略は3パターンしか有りえません。

  1. サプライヤーがクライアント企業のために「新しい意味」をつくる
  2. クライアント企業が最終消費者に向けて「新しい意味」をつくる。その手助けをサプライヤーが行う
  3. サプライヤーが直接市場参入し、最終消費者に向けて「新しい意味」をつくる

どの戦略を選ぶにしても、B2B企業にとって最初に必要なのは「自社の現在の事業とはなにか?」を定義することです。その際に、製品・サービス・技術領域・業種で答えてはいけません。コダックやダヴィンチの例から学べる通り、「自社が顧客のために解決している課題」で考えることが重要です。コダックの例で言えば、フィルムや画像処理ではなく「瞬間の共有」が答えになります。 また、事業の意味を議論する際は同じ会社や部署のメンバーだけでなく、他の会社、他の業界、規模や歴史の違う会社など、異なる視点を入れて、評価し合うようにすることも重要です。 第4回となる次回は2019年1月30日(水)開催予定です。

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