第1回では、野中郁次郎教授が「知識創造理論」で実証した、強い日本企業が実践している変革の進め方 ――「メタファー → アナロジー → モデル」という知識創造プロセスを整理してみた。
ホンダの「スーパーカブ」開発や私自身の企業変革体験を例に、このプロセスがいかに実践的な「戦法」として機能するかを紹介した。
特に、「メタファー」は変革の出発点であり、トップの直観から生まれる強いメッセージが組織を動かす「点火装置」となること、そしてその直観は対話によって磨かれることが重要であると述べた。
今回は、メタファーの次のプロセスである「アナロジー」のポイントを考えてみる。
私自身の変革体験を例にすると、以下のプロセスだ。
メタファーで明示された変革テーマである「血液がさらさら流れていない」という問題を具体的に分析するプロセスとなる。
実際には、「保険約款の複雑さ、保険料計算の難しさ、保険料集金の煩雑さ、代理店と保険会社との手続きの煩雑さ、基幹系システムの複雑さ」などを分析した。
タブーなしに、あるべき姿を描きながら本質的な問題を深掘りしていく。例えば、保険商品は過去からの積み重ねがあり、複雑なのは当たり前で、業界の会社はみなそうしているので「問題」とは言えない、とする常識を捨てて考える。あるいは、明治時代から保険料は現金でいただくことで初めてリスクを引き受けることができる、という「即収の原則」という憲法を、一旦棚に上げて真摯に問題を掘り下げる、というプロセスだ。強い意志と覚悟が求められる。
現行の商品や業務処理は、過去からの正しい理由があったうえでの結果であり、ある意味正しい姿なのだ。しかし、今後は今の姿では立ち行かないというところに問題意識があるわけで、未来の姿をどう見るかで議論が分かれる。
従って、現行派と問題派と猛烈な議論になる。野中教授が言う「知的コンバット」になる。この「全身全霊」の議論が、いろいろな人のどこかに隠れている暗黙知を引き出すことになり、想定以上の深い議論になっていく。このプロセスが、さらに深い本質的な課題をえぐっていくことになる。
「お客様の価値」って何だろうか。当社のサービスってどこに価値があるのだろうか。お客様に聞いても誰もわからない、どこにもない形式知が生み出されていく。
参加者が忖度して発言を控えたり、既存の成功パターンに固執する文化があると知識創造は滞る。イノベーションを起こすためには、参加者が自律的に考え、自由に発言できる文化を組織内に醸成することが不可欠だ。
事例として、アイリスオーヤマの新商品開発会議が論文でも取り上げられているので紹介する。
「社員一人ひとりに自ら意思決定できる権限と責任を与えており、心理的安全性が担保されている。この環境があるからこそ、社員は「失敗してもよい」という前提で新しいアイデアを提案できる。組織全体が忖度や権威主義に縛られない文化を持つことが、暗黙知の共有と外化を促進し、SECIモデルを効果的に回す鍵となる。」
では、社内で「できる人」をアサインすれば創造的な議論ができるかと言うとそれが難しいのが事実だ。「できる人」は、上司の指示・命令を受け止め、何の疑問もはさむことなく邁進する人が多いが、そういう人は創造性が乏しい。
アナロジーが実践できる人材としては、上司の考え方に迎合しようとか、自部門の権利維持とか、そういう組織的な縛りから自律することが求められる。加えて、自分個人の認知バイアスを意識してはずしていくことも必要。さらには、自社の常識・業界の常識も捨てて、企業パーパスに真摯に向かっていくマインドの養成が求められる。
このマインドの大転換は非常に難しい。故に、企業文化もその方向に転換させる必要があるが、個人でも転換のトレーニングを受けないと認知の変革は難しい。そのために、DBICでは、「トランスパーソナル」と「UNLOCK QUEST」というかなりハードなトレーニング・プログラムを提供している。
社員同士が、正しい健全な「知的コンバット」ができる思考能力を持たなければ創造のレベルは上がらない。そのためには、リベラルアーツの学びと問題解決のフレームワークのトレーニングは必須だろう。
正しくものを考える力の源泉は、正しい姿勢すなわち「Integrity」を習得する必要がある。人として正しいこと、会社として社会の中で正しいことを極めなければ、会社の長期的な利益は得られない。そのために、リベラルアーツを学ぶのだ。リベラルアーツの学習は、歴史、哲学、心理学などの異なる分野に触れることで、正しさとは何かを固定観念に縛られず、異なる視点から習得することができる。また、個別の事実を見て、一般的な本質に昇華し、抽象化する力も養われる。
また、フレームワークの学習は、情報の整理や意思決定を効率的に行うために重要だ。デザイン思考やシステム思考などのフレームワークはSECIモデルでの議論を効果的に行う意味でも有効だ。
そのために、DBICでは「リベラルアーツ講座」、「HENKAKU QUEST」というプログラムを提供している。
次回は、「モデル」を考える。
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