2020年10月28日(水)、DBICでは企業変革実践シリーズの第3回オンラインセミナーを開催しました。講演テーマは、「もったいないよ日本人、グローバルに合わせませんか」です。講師は、スリランカ出身のカウシャル・ワウラガラさん。米国ハーバード大学での経験、在学中の起業経験、その後は日本に8年間在住し、国土交通省での海外派遣プロジェクトのリーダーシップ学のコーチ、そして新潟県でのグローバルITパーク南魚沼の立ち上げなどの経験を踏まえての講演です。
日本人の礼節は「控えめな態度」。そして、言われていないことはやらないのが礼儀。しかし、そのままのカルチャー・態度では新しい価値を創造する仕事はできません。持っているはずの能力や個性が発揮されないのは、もったいない。せっかくの人生、もっと自分の能力を生かすように進化してはどうでしょうかという内容で、講師のカウシャルさんが、日本のビジネスマンに日本人特有の習慣とグローバルとの差を説明しアドバイスして頂きました。
本レポートでは講演内容を再構成してお伝えします。
カウシャル・ワウラガラさん:こんにちは。ワウラガラです。私は1977年にスリランカで生まれました。子どもの頃から、チャレンジングな性格でした。そうした性格を成人になっても引き継いでいて、21歳になった時に起業しました。大学の2年生でした。その会社は3、4年くらいで大きくなりましたが、もう次のことにチャレンジしたくなって、ハーバード大学のビジネススクールに行き、リーダーシップ学について学びました。それから、ボストンのコンサルティング会社に勤務しました。2005年には日本のモバイルテクノロジーを学ぶために来日し、国際大学でEビジネスマネジメント学の博士号を取得。2012年には日本企業のグローバル化を促進するための戦略コンサルティング会社のアダムイノベーションズ株式会社を東京に設立しました。日本企業が海外展開する時のサポートが主な仕事です。2016年にはまたまた新しいことにチャレンジしたくなり、「グローバルITパーク南魚沼」を立ち上げました。これは南魚沼市と新潟県庁、国際大学と弊社が一緒になって発足したもので、地域活性化のための事業に取り組んでいます。
新潟は農業経済ですね。若者は良い仕事を求めて東京などに移動します。この過疎化問題はインドの最南端にある30年前のケララ州と同じでした。ケララ州はインド初のITパークを立ち上げた場所として知られています。皆さんは、インドですとバンガロールは良くご存知だと思いますが、ケララは今、ITを使ってもの凄い地域活性化を遂げています。すでにITの会社が600社くらい起業されています。この事例をケーススタディとして使って南魚沼市に提案し、2016年からプロジェクトがスタートしています。基本的に、このITパークでは国内の会社と海外企業がコラボレーションするためのプラットフォームを提供しています。
優秀な技術を持っている海外の会社、または海外での事業経験がある会社を連れてきて日本企業と一緒になって最先端な技術開発を勉強し、さらに海外に打って出るようなプロジェクトを展開しています。
これはその「グローバルITパーク南魚沼」のオープニングセレモニーの時の写真です。
カウシャル・ワウラガラさん:このパークの目的ですが、1)世界に向けて次世代の革新的な技術を開発すること 2)海外企業とのコラボレーションを通じて、日本企業を海外市場への進出機会を提供すること 3)グローバルなコミュニケーションや共同開発、知識の共有を促すプラットフォームを提供すること 4)日本におけるスタートアップ・エコシステムを構築することーなどです。誘致企業の目標数は、15年後に350社を目指しています。
カウシャル・ワウラガラさん:ITパークは5社の入居から始まって、今、11社まで来ています。インドとスリランカの会社の参加が最初で、今ではアメリカとポーランドの会社も参加してくれています。インダストリーIoTやデータ分析、キャッシュレス技術の開発、保険関係のERP開発、教育系ERP、デジタルマーケティングや映像制作の会社などが入居しています。
さて、今日のテーマです。
私は2005年に来日して日本でいろいろ経験しました。その経験の中で感じたことをこれからお話ししたいと思います。私が感じる日本の「もったいない」と思う部分です。
今日のセッションでは、チームに分かれて議論してもらいます。Zoomのブレイクアウトルームを利用します。約15分、議論してもらい、その後、チームの代表者に発表して頂きます。
さあ、始めましょう。
カウシャル・ワウラガラさん:もったいない話しの最初は、日本人の「個人」の話しです。
1つは、グローバルで起きているトレンドに気づく力が足りないのが、もったいないです。
これについては、これからいろいろな例を紹介しながら説明します。
2つ目は、リーダーシップを発揮していないので、もったいない・・・
3つ目は、自分自身を表現することが出来ず、もったいない・・・
まず、グローバルなトレンドに気づく力が足りない話しです。日本人はいつも改善に力を入れるばかりで、世界で起きる変化を見ようとしていません。改善は悪いことではないのですが、大きなトレンドを見過ごしがちです。
この画面は2006年のKDDIの広告です。
カウシャル・ワウラガラさん:前に言ったように、2005年に米国ボストンから来日しましたが、その目的は日本でモバイルテクノロジーを学ぶためです。ドコモの「iモード」をはじめとする携帯電話市場の事情を学ぶためでした。この広告には、シャープとか東芝、京セラなど数多くの企業のモデルが掲載されていますが、当時、日本の携帯電話市場には15社が参入していました。まさにレッド・オーシャンでした。しかし、日本のメーカーはデザインとか色にフォーカスするばかりで、ソフトウェアへの投資はおろそかでした。
iPhone3Gが日本で発売されたのは2008年7月、それからたった2年で日本の携帯メーカーはアップルに負けました。凄く、ショックでした。問題は、日本のモバイルメーカーがハード志向だったことでした。
スティーブ・ジョブズは、ソフトウェアが勝負を決める。ひとつの端末でソフトウェアさえ入れ替えれば競争できると・・・それはモバイル市場だけでなく、どの産業でも起こりえる事柄です。
例えば、自動車産業。2017年、自動車の製造工程におけるソフトウェアの比率は30%でした。自動車はこれから自動運転の時代に突入します。あと2年後の2022年には、ソフトウェアの割合が70%になると予想されています。自動運転の世界が本格化した時、日本のトヨタとか日産、ホンダがグーグルとかアップルとかとどうコラボしていくのか、少し心配しています。というのはグーグルやテスラなどは従来の自動車産業とはまったく違った構造を持ちながら産業を牽引しようとしている企業だからです。企業文化の違いをどう解決していくかが課題です。
ここで、新潟のグローバルITパークに参加したエピックテクノロジー社の事例を紹介したいと思います。エピックはスリランカのIT会社です。従業員は280人くらいですが、世界のトレンドをみながら起業しました。ここでエピックの技術をビデオで紹介します。
マレーシアは小さな島がいっぱいある国です。ただ、農村部や漁村部には銀行の支店がありませんし、彼らのほとんどは家でお金を管理しています。そこで、エピックはマレーシアの各地にある小さなお店のPOS端末を使ってサービス展開することを考えました。そしてPOS端末で口座を開くとか、振込むとか、引き出せるソリューションの提供を始めました。今から、5、6年前に始まったサービスです。日頃、食料品や日用品を買っているお店で銀行サービスを利用できるので瞬く間に普及しました。
この話しで言いたいことは、最先端、多機能、ブランドというキーワードは海外進出においてまったく意味がないということです。ローカル・マーケットの実態を把握し、その実情に合ったソリューションが提供できるのかがポイントになります。エピックの成功は要請があったマレーシア国立銀行の4000もの支店に対する設備投資を避けて、消費者の立場に立ったソリューションを提供できたことにあります。
カウシャル・ワウラガラさん:次に2つ目の日本人はリーダーシップを発揮していない、というテーマをお話しします。
私が見てきたインドやスリランカ、米国のトップリーダーは新しいやり方にいつも挑戦しています。日本のリーダーは「安心と安全」が第一です。失敗を恐れて、いつもと同じやり方で仕事をしています。
ただ、日本にも面白いビジネスリーダーがいました。盛田昭夫さん、ソニーのファウンダーです。彼のミッションは、日本という国を「クオリティ」で有名にすることでした。アマゾンのCEOジェフ・ベゾスさんは盛田さんについてこう発言しています。ここでそのビデオの紹介をします。アップルのスティーブ・ジョブスさんも盛田さんを尊敬していました。
(VTR上映)
21世紀のリーダーとして重要なキーワードは、コンバージェンスとコラボレーションです。特にコラボレーションが大事になります。最近、世界で大きくなった会社、ウーバーとかエアビーアンドビーをみると、他の会社と手を組んで様々な課題解決をしています。これは今後、注目すべき点です。この点は皆さんもこれから大事にした方が良いことだと思います。
カウシャル・ワウラガラさん:私は2013年から3年間、国土交通省でリーダーシップ学のコーチとして働いたことがあります。30歳から40歳くらいまでのヤングリーダー50人ほどを相手にマンツーマンのコーチングをしていました。その経験で感じたことが、日本人の多くはセルフ・エクスプレッションの能力が凄く弱いということでした。学校でアメリカンフットボールチームのキャプテンをやっていたとか、ボランティアをやっていたという話ししかしない。具体的にどのようなことをやっていたというアピールが出来ないのです。自分の経験を踏まえて、相手が感動するようなエピソードを訴えることができない。このことは、日本人としてもったいないというポイントとして考えています。
それでは今から、チーム・ディスカッションの時間に入りたいと思います。テーマは、1)グローバルで起きているトレンドに気づく力が不足している 2)リーダーシップを発揮していない 3)自分自身を表現することが出来ていないーーという日本人のもったいないの3点です。自分が経験したこと、思ったことをチーム内で自由に話して下さい。持ち時間は約15分です。
15分という少し長めのチーム・ディスカッションはDBIC実践シリーズでは初めてのことですが、各チームともオンラインながら活発な意見交換がなされたようです。
あるチームリーダーからは、「こうしたもったいないという変革セミナーには、若い人たちだけでなく、40代、50代の管理職が積極的に参加すべきだ」という意見や「途上国の若い人は大学を卒業しても働く場所がなくて海外に仕事を取りに来ている。その中で自分の能力を最大限アピールするという厳しい環境下にあるから」という意見が出されました。
それでは次のポイントに行きます。もったいないと感じている「企業・文化編」です。
日本の会社は、ものづくりのマインドセットが中心です。だから、目に見えることに関しては価値を見出せるのですが、目に見えないソフトウェアやデジタルビジネスのことになると理解できない。これは日本のビジネス文化に依存しているように思います。
これからのものづくりは「デジタルものづくり」になります。
カウシャル・ワウラガラさん:ITパークに入っているインドの会社のテック・マヒンドラ社。インドで3番目に大きなIT企業ですが、この会社が新潟の展示会に未来の工場に向けた新しいサービスの「デジタル・ツイン」を出展しました。この製品は、実際の製品を仮想的に表現できるもので、製造コストを大幅に削減できるものなのですが、日本の会社には理解してもらえなかったそうです。目に見えないものに関しては拒否反応があるようです。
カウシャル・ワウラガラさん:日本はスタートアップ企業へのサポートが弱い。日本のVC(ベンチャー・キャピタル)は銀行よりも厳格で、スタートアップ企業の将来性に投資しない。短期的な利益を優先していて、本当にもったいないと思っています。
ここで、最近グローバルITパークに入ったばかりのインドの会社の話しをします。2019年創業のスタートアップの会社で、エアミート社と言います。開発している技術は、Zoomのようなコミュニケーションツールのひとつで、新感覚イベントプラットフォームとアピールしています。従来のプラットフォームと異なる点は、イベントの前後や休憩中に個別に知らない参加者とでも交流ができるバーチャルテーブルを設置したり、イベント会場に企業ブースを設けて、来場者ごとに自社製品の紹介ができる機能が装備されています。コロナ禍で多人数のイベントが難しくなった社会においてもリアルにキメ細かなコミュニケーションが取れると期待され、投資家からの反応の上々。今年9月には新たに約13億円の資金調達を実現しました。おそらくエアミートはインドの次のユニコーン企業になるでしょう。
ちなみに、2020年の資料でユニコーン企業が最も多い国ですが、これは多い順に、米国、中国、英国、インド、ドイツ、韓国、ブラジル、イスラエルとなります。日本は上位にも入っていませんね。とても残念です。
ここから2回目のチーム・ディスカッションに入ります。テーマは、1)日本人はものづくりのマインドセットが中心で、ソフトウェアやデジタルビジネスの理解が進まない 2)スタートアップへの支援が欠けている 3)新しい環境に溶け込まない、新しいチャレンジをしないーーという3点です。
このセッションでは、あるチームリーダーから「国としてデジタルビジネスの指針がなかったこと。企業内では経営層にデジタルビジネスに真っ向から取り組む覚悟がなかったこと。最後は、コンサルティングなど目に見えないサービスに対して、お金を払うという概念が日本にはないこと」を問題点として挙げられたほか、別のリーダーからは「スタートアップに関しては、支援というよりもパートナーとしての付き合い方が大切じゃないか」という議論内容が発表されました。
カウシャル・ワウラガラさん:弊社は、2012年から日本企業の海外進出、特に東南アジア進出のお手伝いをしています。気が付いたのは、日本の企業は海外に行っても群れたがることです。日本企業の工業団地とか日本企業ばかりが入居しているビルに入りたがる。マーケットのローカル・インテリジェンスを理解することが重要なのに、その辺を考えていません。もったいないです。海外に進出してもマーケティングが日本式というのは理解できません。
カウシャル・ワウラガラさん:これは、楽天の役員の例です。楽天は取締役やCAOやCTOに外国人を採用しています。これは外国人からみても好感がもてる企業として映っています。
例えば、米国のグーグルやマイクロソフトの現在のトップはアメリカ人ではないですね。何故でしょう。実際、当時低迷していたマイクロソフトも、サティア・ナデラさんがCEOになってパフォーマンスが向上しました。ナデラさんは、すべてのビジネスはソフトウェアビジネスになり、アプリを開発し、先進的な分析を用い、SaaSサービスを提供すると発言しています。また、デジタル・トランスフォーメーションの後は、CXやBMが非常に重要になると強調しています。この点は興味深いですね。
以上、ご清聴、ありがとうございました。
カウシャル ワウラガラ(Kaushal Wawlagala)氏
(略歴)
1977年スリランカ生まれ。
スリ・ジャヤワルダナプラ大学卒(マーケティング・経営管理)。ハーバード・ビジネス・スクール卒(Leadership Development)。国際大学卒(E-Business Management)。
スリ・ジャヤワルダナプラ大学在学中にスリランカ国内で起業する。その後、大学院、米国コンサルティング企業、外資系コンサルティング企業など経由し、2012年に来日しAdam Innovations 株式会社を設立。日本企業のグローバル展開を支援するコンサルティングを中心としながら人材育成として国土交通省向けにリーダシップトレーニング、長岡技術科学大学にてアントレプレナーシップ・DXをテーマにした講義を実施。2016年には新潟県南魚沼市にGlobal IT Parkを設立。世界のIT企業を日本に誘致し、日本の中小企業の発展と地方創生に努めている。
以上
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