2022年2月2日(水)、DBICでは、未来へ向けての提言「VISION PAPER 2」(VP2)の発刊を記念したイベントをオンラインで開催しました。発刊したVP2は、「沈みつつある日本を救う」ための1つの処方箋として「人口1,000万人以下の賢い小国から学ぶべきモノとは」をテーマにまとめたものです。イベントでは、発刊までの経緯や4か国大使および参事官とのやり取りで感じた事柄などについて語られました。イベントは共同執筆者の鈴木賢志明治大学教授にもオンライン参加してもらい、各場面で議論に加わって頂きました。
イベントは、DBIC副代表・西野弘の「現代の日本人は実りある人生を送れているのだろうか」という問いかけで開幕しました。「DXにしてもデジタル活用というキーワードばかりに目がいって肝心な企業変革を忘れている。しっかり目を見開いて企業変革に取り組まないと浮かび上がれない」という主旨でした。
VP2のテーマは、「信頼経営から始まる未来 人を信頼し、時間を活かす 新しい時代の企業モデルへ」というもので、今、日本が学ぶべきは、デンマーク(580万人)、シンガポール(590万人)、スウェーデン(1,000万人) 、スイス(860万人)の小さいが賢く機敏な人口1,000万人以下の4か国(Small Smart Nations=SSNs)であろうという仮説のもとに、4か国の大使館や専門家の全面的な協力を仰ぎ発刊しました。4か国は世界有数のビジネススクールIMDの2021年の3つのランキング(世界競争力ランキング、世界デジタル競争力ランキング、世界人材ランキング)で平均順位のトップ4に位置する国々です。VP2では、「各国が対象とする市場は小さいがなぜ国際レベルでしっかりと競争力を得ているのか」また、「環境対策や幸福度などの課題を実現できているのか」などにフォーカスを当て、日本が生き残る道を探りました。そこから見えてきたのが、「信頼経営から始まる未来 人を信頼し、時間を活かす 新しい時代の企業モデル」。そしてDBICとして、「信頼経営の道を目指し、昭和の企業モデルからの脱皮することなしに未来はやって来ない」という提言をレポートにまとめました。
VP2発刊の背景は、「個別の国についてはそれぞれ詳しい方もいるでしょう。ところがこの4か国すべてに精通している方は皆無なのではないか」という疑問がきっかけでした。そこで、DBICでは4か国は、「4つの限界に気づいた上で、懸命に対策を講じているのではないだろうか」との仮説を立てたとのこと。その4つとは、「資源への幻想=資源限界への気づき」「逃げ切り思考=成長限界への気づき」「責任の外部化=適応限界への気づき」「緩やかな衰退=持続限界への気づき」です。
また、西野からは、4か国に比べて、逆に日本は満たされている。国内のマーケットも大きいし、自然にも恵まれている。単一民族であり、言語コミュニケーションも比較的楽な環境にある。そんなことから限界を感じることなく、"のほほん"と暮らしていたが故に世界競争力ランキングで下位に甘んじているのではないだろうかと。
この章の最後には、VP2の制作過程で感じたことの説明が西野からありました。
「1人の人間として実りある人生を送れていないのではないか?家族や友人との時間、自然との深い触れ合い、趣味の時間を満喫しているのだろうか」
「デジタルネットワーク社会は国の規模の話しではなく、知力の大きさが最大の価値の時代。それを実現するには、人間という資源の拡大化を組織が支えるモデルが不可欠」
「昭和100年になる3年後までが日本の勝負!令和になろう」
「リーダーの心理的柔軟性と心理的安全性の重要さがあれば、変化に即応した対策が取れるのではないだろうか」
「PDCAは右肩上がりを前提としたものだが、日本のPDCAは目的化したまま」
本来の賢く成長する為のPDCAをもう一度、トライすべきということを感じたとのことです。
続いて、今回のVP2の制作で分析やインタビュー同行をお願いした、明治大学 国際日本学部 学部長の鈴木賢志教授が登場。鈴木教授は以前、ストックホルムの研究所で研究活動をしていた経験があるものの、対象はデンマークとスウェーデンがメインで、スイスも合わせて考えたことがなかったと言います。そうしたことから、今回のDBICの"4か国横串研究"に興味を持ったとのこと。
鈴木教授は、世界競争力ランキングの30年の推移を参照しながら、VP2で取り上げている4か国も実は一度ランキングを落としている。日本はずっと落ちっぱなしだが、4か国は再び復活した。世界の趨勢が変わっている中でも、4か国はしっかり変革して情勢変化に合わせてきていると指摘。また、強さについて、鈴木教授は、「4か国は絶対的な人口が少ないので、優秀な人を外からスカウトすることを常時考えている。そのためにはどうしたら良いのか、外から来たくなるような環境をつくろうとしている。そうしていると、気づきのポテンシャルが高まる」と強調していました。
次にDBIC代表の横塚裕志からのコメント。前回のVP1では日本の弱点を洗い出し、分析した上で、どう改善していったら良いのかにフォーカスした。今回のVP2は4か国の戦略を学ぶというのがテーマ。その学びの中で出てきたキーワードが「信頼」だったと言います。
デンマーク大使とのインタビューの中で、「(IMDの)上位ランキングの常連でいられる秘訣は」と質問したところ、「それは国家と国民との信頼にある」という言葉が発せられた。他の国も「経営と従業員の信頼」という言葉がいくつも出てきた。個人的には、「信頼」という言葉を聞いて、雷に打たれたようなショックを受けたとのこと。ちなみに、デンマークは生産性が日本の1.5倍。幸福度ランキングも高い。そうした事例を学ぶ中で、横塚が立てた仮説が、「1人ひとりが自立して、楽しくて夢中になって仕事をする」環境が出来上がれば、生産性も幸福度も向上するだろう、というもの。
また、「上司と部下が、人間として心の絆で結ばれた信頼関係を醸成する。組織をフラットにして、権限を委譲し、個人の判断で仕事をする状態をつくる」こと。もう1つが、「個人が、会社の仕事より自分の幸福を優先して考える文化。個人は自立して自分の幸福を考え、楽しい仕事を選び、可能性を伸ばすために学び続ける」こと。それがないと信頼が生まれないのかもと自問自答していました。
西野からは、各国大使へのインタビュー時の経験として、全員が統計数字などではなく、自分が考えていることを自分の言葉で率直に披露してくれたことが語られました。インタビューに同行したDBICの鹿嶋康由ディレクターは「じゃがいもとコメの違いだよ」という日欧の分析が印象的だったようです。じゃがいも文化の欧州は作物の単位が家族単位。コメ文化の日本は村が1つの単位になっていると指摘されたそうです。そうした文化の違いがお国柄として現れているのではないか。また、4か国の多くが「午後5時からは家族との時間、そこで豊かな人生を育もうとしているし、原発の議論をする団らんも少なくない」とも。同じくインタビューに同行したスタッフの西岡芽生さんからは、シンガポールの大使の「ワークフォースは常に動いている。だから絶え間ないアップグレードが必要。従って、国も企業も常に再教育投資を続けている」という言葉が強く胸を叩いたとのコメントがありました。
残り50分では、参加者からの質問に回答する形で活発なやり取りがなされました。
※DBICでは12月16日にVision Paper 2「Small Smart Nationsから学ぶ信頼経営への進化」を発刊しました。このコラムにも通じる内容ですので是非ご一読ください!
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鈴木 賢志(すずき けんじ)氏
明治大学 国際日本学部教授・学部長
1992年東京大学法学部卒。英国ウォーリック大学で博士号(PhD)。97年から10年間、ストックホルム商科大学欧州日本研究所勤務。日本と北欧を中心とした比較社会システムを研究する。
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