ほぼ20年前に、尊敬する経営者の方から教えていただいたことがある。
「グローバルで一流とされる人間の必須条件は『INTEGRITY』なのだ。『INTEGRITY』を持たない人は、世界では相手にされないよ。」
「INTEGRITY」という言葉のニュアンスを和訳するのが難しい。辞典を調べると、真摯・誠実・高潔・正直・品位などと出てくる。こういう感じなのだろう。私の解釈を平たく言うと以下の感じかと考えている。
「ずるいことをしない」「正しくないことをしない」「嘘をつかない」「礼を失することはしない」「逃げない」「約束は守る」
もっと具体的に言うと以下の感じかと。
セクハラ・パワハラ、品質不正などは問題外。長時間残業の放置、上司への忖度、業務委託先への横柄な振る舞い、スタートアップ・NPOなどへの上から目線、部下の人間性を尊重しない態度、部下の幸福度より売上を優先する考え方、責任はとらない、失敗は部下のせい、などの体質も問題外ということだろう。
P.F.ドラッカーは、『ドラッカー名著集2 現代の経営』で「INTEGRITY」について以下のように書いている。訳者の上田惇生氏は「真摯」と訳している。
(以下引用)
「組織のマネジメントには、明確で目に見える具体的な行動規範が必要である。そしてその行動規範は、人の弱みではなく強みを重視するものでなければならない。それは卓越性への動機づけをなすべきものである。行動規範は、組織の文化が精神の領域に属するものであり、その基盤が真摯さにあることを明確にするものでなければならない。
真摯さは習得できない。仕事についたときにもっていなければ、あとで身につけることはできない。真摯さはごまかしがきかない。一緒に働けば、特に部下にはその者が真摯であるかどうかは数週間でわかる。部下たちは、無能、無知、頼りなさ、不作法などほとんどのことは許す。しかし真摯さの欠如だけは許さない。そして、そのような者を選ぶマネジメントを許さない。
真摯さに欠ける者は、いかに知識があり、才気があり、仕事ができようとも、組織を腐敗させる。企業にとって最も価値ある資産たる人材を台無しにする。組織の文化を破壊する。業績を低下させる。
このことは、特にトップマネジメントについていえる。組織の文化はトップから形成されていくからである。士気の高い組織はトップの士気が高い組織である。組織の文化が腐るのはトップが腐るからである。木は梢から枯れる。したがって、特にトップマネジメントへの昇進においては真摯さを重視すべきである。要するに、部下となる者すべての模範となりうる人格をもつ者だけを昇格させるべきである。」
自分の過去を振り返ると耳が痛すぎる。それは棚に上げて、これからの企業の文化のあり方を考えると、あらためて、大事にすべきテーマと考える。
組織の全員が自由に意見を言い合える文化、組織の全員が能力を存分に発揮できる雰囲気、全員が責任を持った意思決定をする風土、常に新しいことを追求する土壌、そういう組織をつくっていくためには、リーダーのINTEGRITYに基づく「お互いの信頼」が重要な要素なのだろう。
国のリーダーが「法に触れなければズルいことをしてもいい」という考え方で行動されると、国への信頼は醸成されない。国への信頼の欠如が、マイナンバーカードが普及しない一因となっているとみる向きもある。こういう事例を見ると、リーダーのINTEGRITY度の重要性がよくわかる。
「ビジョナリー・カンパニー2」でも、IMDの調査でも、先見性のある会社のリーダーに共通した特性は、「驚くほどの謙虚さ」と説明されている。真のトップリーダーは腰が低く、人の話に耳を傾け、感謝の気持ちを忘れず、学び続ける、という共通点があるようだ。
従って、この時代のINTEGRITYは「謙虚に学び続ける」と解釈することにしてはどうだろうか。この「謙虚に学び続ける」を企業の行動規範的な文化にできれば、VUCA時代の大きな競争力の源泉になるのではないだろうか。
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