「意気に感じる」は、中国の故事「人生意気に感ず 功名誰か復た論ぜん」に由来している。人生は情熱で動くもので、功名・手柄など誰が求めるか、という意味だ。
7年前(DBICができる1年前)、スイスにある世界最高のビジネススクールIMDの看板教授であるマイケル・ウェイド氏が、アジアから来た二人のおじさん(横塚と西野)の要請に応えて「構想中のNPOができたら、デジタル変革の指導者として日本に行く」と即座に決断してくれた。私たち二人がどんな人なのか、またNPOがどんな会社で構成されるのか、どんな活動をするのか、それらが全く分からない中で、よく「YES」と即座に意思決定してくれたなと思う。日本企業の方だったら、すべてがはっきりしてからでないと判断できない、と断わるのが普通だろう。
しかし、たぶん、マイクは「意気に感じて」意思決定してくれたに違いない。私たちがアピールした「30年以上停滞している日本を何とかしたい」という気持ちを意気に感じて意思決定してくれたのだと思う。この朗報を当時のDBIC設立準備委員会で報告したところ、「約束した証拠の紙はあるのか」と委員全員が疑った。紙などなくても、世界の一流の「Integrity」は凄い。1週間の幹部研修から始まって、経営者向けセッション、赤い本・青い本 の日本での共同翻訳、8週間のメンター・コーチ型オンラインプログラムの開発など、DBICエコシステムへの貢献はすさまじい。DBICの成果への責任を分かち合ってくれている。
また、デンマークデザインセンター(DDC)との提携も、シンガポール経営大学(SMU)との提携も同様だった。西野共同代表の熱意を「意気に感じて」即座に意思決定していただいた。また、創立当初のDBIC参加企業26社も同様だ。「デジタルをキーにしてとにかく日本を何とかしよう」という想いで、DBICというエコシステムが始まった。それから6年、参加者のみんなで議論しながら、毎回、毎年、活動内容に工夫を重ね、DBICエコシステムは想像もできない姿に脱皮を繰り返している。
あらためて思うのは、「意気に感じて」参加するという意思決定が、エコシステムをつくり動かす決定的な要素だということ。特に、「日本を何とかしたい」というような社会課題に取り組むエコシステムは、「意気に感じない」と始まらない。課題解決ができるのかどうかがわからない、1年先も見通せない、成果が出せるのかわからない、という状況のなかで、エコシステムに参画するかどうかの決断は企業にとって大変難しい。定番の費用対効果というメルクマールでは判断できないからだ。つまり、社会課題解決のエコシステムは、「意気に感じる」仲間でつくるコミュニティ活動なのだ。
そう考えたときに、エコシステムを構築していくためには、日本企業には三つの課題がのしかかる。
DBICエコシステムとしては、1.を生み出すために、「変革リーダー育成」のためのDX QUESTプログラムを開発した。参加者にはかなりの時間を投資していただき、自分の人生を見つめ、生きることの尊さに覚醒し、「意気に感じる」五感を取り戻していただいている。2.組織としての意思決定、3.貢献、という分野については、EGB研究会の中で議論を進めたり、ビジネスアジリティのプログラムでの議論、マイケル・ウェイド教授のクラスでの議論、DDCでの欧米企業との議論、などで深めている。
ただ、日本にはエコシステムを生み出せない、何か見えない別の大きなハードルが存在する。それは、会社のリーダーが「業務命令すれば社員が何とかする」という誤解をしていることと、「なんでも形だけ真似すればすぐにできる」という安易な考えを持っていることがすべてを邪魔している。変革をリードし新しいビジネスを創造するマインド・能力の育成には、多くの時間と多くの学びが必要だ。しかし、そこに投資することをしない。本質的なエコシステムを作り上げるためには、先ほど挙げた3つの条件が最低限必要なのに、それを理解せずに、形だけのチームをつくることでよしとするから何も生まれない。それこそ、業務委託のようなエコシステムまがいのチームでよしとしている。それは、プロジェクトマネジメントをその本質を理解せずに進捗管理みたいなことをやって満足している姿によく似ている。
会社を引っ張るリーダーが、「売上・利益・目標」という洞窟から這い出し、「人の気持ちを大事にする」世界の新しい経営感覚を謙虚に学び、猿真似でない本質的な変革の実現に取り組んでいただけることを期待してやまない。
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