前回までのコラムで「信頼経営」を学習して、その考え方を以下の要素に整理してみた。
- 挑戦的な「存在意義」の設定
- 「信頼して」任せる「フラットな組織・文化」
- 自分の人生を第一に考える「自立した社員」
- 管理しない管理職、自立する社員を「育成」する
- 過去の経験則に依存せず、「学び・行動・改善」のサイクルを回し続ける
今回は、この「信頼経営」という経営方法はなぜ生まれてきたのかをいくつかの実践企業から学び、私なりに5つの理由を洗い出してみた。
- 未知の製品・サービスの開発という仕事は過去の経験則が使えないから、上司の指示に基づくやり方では、正しい保証もないし、かえってスピードを妨げることになる。従って、担当者なりチームに権限を委譲し、自由な発想を大事にする考え方を採用する方が成功確率が高い。
- 社会課題解決や顧客への新しい価値づくりは、課題が複雑で解決策がはっきり見えてこない。従って、困っている市民や顧客と一緒になって、解決策の仮説を立て、試行し、試行結果に基づいて仮説を検証し、また試行するというサイクルを回し続ける必要がある。それを円滑にスピーディに回し続けるためには、現場に権限が委譲されている状況が必要だ。都度、上司と議論していてはとても回らない。
- 社会課題解決や顧客への新しい価値づくりは、その分野の専門家の知見がかなり重要だ。専門家の知見、あるいは新しいテクノロジーの試行をスムースに繰り返すためには、チームに一定の決定権限が必要だ。都度、会社に持ち帰って稟議申請をしているようでは専門家や技術者の共感は得られない。
- 未知の課題への挑戦は、計画や予算をあらかじめ決めることはできない。従って、その課題に経営としてGOサインを出すためには、投資対効果とは別の意思決定方式が必要となる。その一つが「信頼」だ。目指すテーマが、企業が掲げたユニークな存在意義を達成するために重要なテーマかどうかを議論し、経営・リーダー・チーム員の間で「共感の信頼」が生まれるならGOという判断になる。
- 自分のチームに、仕事の責任と権限がすべて任されているという状況は、もっともモチベーションが上がる状態だ。まさに、自分ごととして考えることができ、ゾーンの状態で、夢中で解決策を絞り出す空気感になる。一人ひとりが能力を100%発揮できる状態を作るのが、「信頼」と「権限委譲」だ。
以上が「信頼経営」を実施する理由だ。まさにこれからの時代に必要な考え方になっていると思う。では、従来型の企業が「信頼経営」にトランスフォームすることについて、どのように考えるべきなのだろうか。
現状では、「信頼経営」に自社の文化を変革するという経営判断は以下の理由から難しいと思われる。
- 「信頼経営」の考え方に確信が持てない
- 投資対効果が計算できない上に、何年で終了できるか計画することが難しい
- 大きな変革がゆえに失敗のリスクも大きいので、起案する人が出てこない
- 経営者の多くは、「信頼経営」に挑戦するほどの現状への危機感を持っていない
- 社員の自立と新しいリーダーの育成など、育成と組織変革をどのような順で進めていけばいいのか知見がない
一方で、多くの国が、多くの企業が、新しい時代の存続をかけて必死に戦っているなかで、この「信頼経営」への挑戦が行われているのも事実だろう。私たちのVISION PAPER 2でも、北欧の小国が生き残りを賭けた戦略が「信頼」だとレポートし、また、GAFAもユニコーン企業も「信頼」をキーにしている。
経験則が通じない未知のビジネスに挑戦する時代、お客様や市民と一緒に課題解決のために学習を続ける時代、この新しい世界には新しい文化である「人を信頼する文化」が欠かせないと考えてもおかしくない。20世紀の製造業が大量生産していた時代のピラミッド文化のままで、新しい価値づくりの時代に挑戦することができるだろうか。
これから先は、一般論で調査しても意味がなく、企業のなかで真剣に挑戦しようと考える方々と議論していく必要がある。DBICは、自分の会社を「信頼経営」に変革していきたいというdX人財と議論しながら、北欧の会社との議論などできるだけの支援をさせていただこうと考えている。