【横塚裕志コラム】個性を信頼して 大事に育むために

同じ事例を学んでも、個人によって何を学んだかはそれぞれ異なる。例えば、架空のケースで何人かの姿を想像してみた。
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韓国の小学校に行って「デジタル授業」を視察する。社会科で「南極について調べてプレゼンしなさい」という授業。生徒はパソコンを持ち、先生は24人の生徒のパソコンをモニターしながら授業を進め、生徒がPPTで資料を作成していく。
この場面を見て、何を学んだかを個人別に聞いてみると様々だろう。
・個人A:画期的。デジタルの特長を生かしている。教科書を単にデジタルにするのではなく、教育の形態を大きく変革している。そして、24人の個人別に先生がフォローできる仕組みをつくっている。デジタルの本質が見えてきた。
・個人B:どういうソフトウエアで稼働しているのだろうか。ぜひ知りたい。どこの学校も同じソフトなのだろうか。家に帰った時の通信はどうしているのだろうか。
・個人C:こういう授業は初めて見た。とても勉強になった。
・個人D:パソコンばかり見る時間が長いので視力に問題は出ないだろうか。先生も一定のスキルが必要となるので、社会の先生もたいへんだろうな。
・個人E:想像通りの内容。もう少し工夫があるとよりよくなる。
・個人F:私は先生ではないので学校の授業には関心がない。
・個人G:韓国という小さな国だからできることなんだろう。日本では無理だな。

ざっとこんな感じで全員違うことを考えているにちがいない。何を学ぶかは自由だし、個人差が出るのは当然だろう。しかし、このままで終了してしまうと、思考が浅い状態で終わるので、思考が深まらないし、個性が伸びない。せっかくの学ぶ機会が台無しだ。また、企業側が社員に投資して「学び」を提供しているとすれば、投資に見合う効果を挙げるまで至っていない。 一方、企業側の思惑としては、個人Aのような感じで学んでいただけると効果ありで、B以下の学びでは効果がないとしてしまう傾向がありそうだ。果たしてそうなのだろうか。模範を全員に押し付けるやり方は20世紀の古い考え方であり、現在は、もっと個人の個性をリスペクトし、個性を信頼して、個性を育む取り組みをすべきという考えが大きくなってきている。

そう考えたとき、個性を大事にはぐくみながら、思考を進化させ成長させていくためにはどのようにしたらいいだろうか。「学び」には事前準備・学びの実践・言語化作業・コーチングの4ステップのプロセスが必要で、これによって効果を発揮させることができると考えるべきではないだろうか。

  1. 事前準備
    韓国のデジタル授業を学ぶにあたって、自分のこれからの仕事、チームのこれからの業務内容などに照らしながら、どんなポイントで観察するかを考える。そして、それを上司の期待と並べて比較しながら、上司と対話する。上司はあくまで個人の感覚を尊重しながら、個人の個性を大事にして、組織の期待とを融合させていく。
  2. 学びの実践
    コンテンツを実践する。
  3. 何を学んだかを言語化する
    実践後に、学習者が何を学んだかを言語化する作業が重要だろう。言語化する作業の中で、自分のハートと自問自答しながら、感じた思いを反芻することで、学びが深くなり、自分に沁みていく。そして、そのアウトプットをコーチがモニターしながら、次のコーチングのステップに移る。
  4. 個人別フォローとコーチとの対話
    コーチとの対話を進める中で、自分だけでは発想しなかった気づきや深さを感じていく。コーチは問いを発するだけだが、その問いをきっかけに深く考え、新たな視点を得ることになる。このコーチの存在がとても重要になる。社員がリスペクトできるコーチの存在が大事だ。

「ヒト」という資源が豊富にあった過去は、多くのヒトの中で、企業が模範と考える回答を持つ人材だけに依存すれば企業は運営できていた。しかし、「ヒト」が希少な資源となっている現在、そして課題が複雑になっている現代では、ヒトの個性とヒトの深化の両方を磨いていく考え方が重要ではないだろうか。個性を信頼して個性を磨いていく4つのステップの繰り返しが、ヒトそれぞれの本領を発揮できるプロセスだと思いいたるとき、人財育成のプロセス自体を大きく見直していくべき時が来ていると実感する。「人財育成」にいくらお金をかけても、育成プロセスが旧来のままではどぶに捨てることになると危惧してやまない。

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