【横塚裕志コラム】「味の素」が中期経営計画を廃止した

3月16日付の「食品新聞」にて、「味の素」は新年度から中期経営計画を廃止したとの報道があった。以下のその記事を引用する。

「味の素はASV(味の素グループ・シェアード・バリュー『事業を通じた社会価値と事業価値の共創』)指標による中期ASV経営へのマネジメント変革を発表した。従来型の中期経営計画は廃止し、中期ASV経営に変革することで成長性の高い4事業に資源を集中し、持続的な成長を目指す。
2月28日に開いた「中期ASV経営 2030ロードマップ」発表の中で藤江太郎社長が明らかにしたもので、「精緻な数値を作り込み過ぎた中計策定を廃止し、挑戦的な「ASV指標」を掲げ、トコトン本気でASVを追求して実行力を上げる中期ASV経営へと進化させる」方針。
「中期ASV経営」に進化させる理由として、「中計病の払拭(何が起こるか分からないことだけが分かっている時代に、綿密に数字をつくり上げてきたが、数字通りにならないため計画が進まなかった)。そこで、ありたい姿を目指して挑戦的で野心的なASV指標を掲げ、30年までの道筋を明らかにし、毎月の進み具合をデータで見える化し、機敏な手をうち、実行力が上がれば企業価値の向上につながる」と語っている。」

「味の素」のホームページに、「Knock Knock 社長室 ~教えて!藤江さん~」というコーナーがあり、そこでも藤江社長が中計廃止の理由を語っている。

「ええ、中期経営計画はやめます。日本企業には「中期計画(中計)病」が多いといわれていますね。いまは先行きが不透明で将来の予測が非常にしにくい事業環境です。そんなときに3年程度先の計画の精緻な数値をつくり込みすぎることで、現場が疲弊してしまったり、計画そのものの意味が薄れたりすることを「中期計画(中計)病」と呼んでいます。
私は、変化をしっかり捉えていくことが大事だとつくづく思います。3年先にどうなるかわからないことを綿密に組み立てて、やれ計画だ、やれプランだということには意味がないと思います。
それよりも大事なのは、「ありたい姿」です。だから中計はやめて、これからは「ありたい姿」を目標とした「中期ASV経営」を目指します。
具体的には、2030年時点の「ありたい姿」を設定し、それを実現するための道筋を未来から現在へとさかのぼり、戦略やマイルストーンをロードマップとして整理するという経営に進化させていくことにしました。一般的な積み上げ型の経営計画とは異なる形ですね。(中略)
「中計がないと、投資家の理解が得られないのでは?」とか「数値目標が見えづらいのでは?」という意見もいただきますが、これをわかりやすく伝えていくために、無形資産を定量化していき、社内外のみなさんに「中期ASV経営」の伝え方をブラッシュアップしていきたいと考えているところです。」

以上が藤江社長の想いで、「経営」そのものを変革していこうとする覚悟を感じる。「味の素」はDBICのメンバー企業で、昨年の11月に藤江社長と会食をさせていただいたときに、「中期計画は廃止するつもりだ」との強い気持ちをうかがっていた。中期経営計画を廃止するという決断は、会社の文化を大きく変革することでもあり、また投資家の反応も気になるところでもあり、かなり難しい決断だったと思われるが、TRANSFORMATIONへの強い意欲と勇気に感動をおぼえる。
コロナ禍の前になるが、DBICでの「トップマネジメント会議」で、IMDのマイケル・ウェイド教授が中期経営計画を廃止すべしと強調されたことを今でも鮮明に覚えている。世界での競争が大きくゲーム・チェンジしていることに早く気づきなさい、という教授のアドバイスだ。今までやってきたことや今までの文化を大きく見直して、新しいゲームルールに合わせていかないとデジタル技術だけでは成功しない、と繰り返し繰り返し語っていた。
過去の常識からのUNLOCK、過去の成功体験からのUNCHAINがどうしても必要で、そこから新しい時代へのチャレンジが始まる。「昭和」からの脱皮には、個人のマインドや企業文化の変革が何としても必要で、中期計画の廃止はそれをドライブする象徴的な戦略だと感じた。

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