【レポート】企業変革実践シリーズ第28回「AI時代の社会構造の変化から高等教育はどうあるべきか」

概要

教育ジャーナリスト&アクティビストの後藤健夫氏からみて、産業構造の転換や国際情勢の変化から社会構造の変動、具体的には、少子高齢化、デジタルへの対応、とりわけAIが教育にどのような影響を及ぼし、高等教育はどう変わるのか。日本の大学入試や高等教育の変化について語っていただきました。

教育は多様性や主体性を尊重し、思考力や創造力を育むべきである。そのためには、入試や資格試験に縛られるのではなく、子供たちの興味や目的に応じた学び方を提供することが重要である。また、教師は伴走者として子供たちの学びをサポートし、メタ認知やアンラーニングの能力を高めることが求められます。

これらの考え方を具体化するために、国際バカロレアの教育、軽井沢風越学園や早稲田大学のリアル事例を紹介しながら、現代社会において教育が転換する学びのLX(Learning Transformation)の必要がある理由に触れながら、今求められる思考力・判断力・表現力を伸ばす教育法は何か、人間ならではの教育とはどうあるべきか。私たち企業が担う役割を考えその方向性について考察する機会となりました。

参加者の方からの活発なご質問に答えながら進め、DBICのプログラムの経験学習のコンセプトであり共感するポイントが多かったと嬉しいコメントをいただきました。

記事の目次

現代の教育の事情と今求められるLX

少子高齢化時代を迎える現代、最新の教育事情を知っていますか?
このセッションでは、以下の3つの観点から教育事情を分析し、今求められる思考力・判断力・表現力を伸ばす教育法について議論しました。

  • 産業構造の転換、教育の転換がどのように影響するか? 世界の学びはどうなっているのか? 何が本質なのか?
  • AI時代に必要な能力とは何か? 予測不能な課題を乗り越えることができる学習者、すなわち意欲の強さと情熱とを発揮できる人材をどのように育てればよいのであろうか?

<産業構造の転換、教育の転換がどのように影響するか?>

現代社会は複雑化・多様化・不確実化しており、AIやデジタル化の進展により、産業構造や社会環境が大きく変化しており、グローバル化に対応できる人材が求められています。
これに伴い、教育も新しいスキルや知識を身につける必要がありますが、現状ではそれに対応できていないという課題があります。

具体的には、以下のような課題が挙げられます。

  • これまでの教育制度は工場型であり、一斉教育や詰め込み教育によって個性や創造性を奪っている。また、入試や資格試験に縛られており、覚えることや正解することが重視されていた。
  • これらの教育は子供たちの興味や目的に沿っていないため、学びが持つ楽しさ、感動などの経験が育まれず、モチベーションが低下している。大学入試が緩和されて競争がなくなり、これまで競争という相対的価値が学習にインパクトを与えていた学生たちのモチベーションがさらに低下している。
  • AIで教育はどのように変わるのかという問いに対して、教育関係者や学生たちが十分な理解や準備をしていない。
  • 最も教えやすく、最もテストしやすいスキルというのは、最もデジタル化、自動化、外部委託に移行しやすいスキルでもあるという事実に気づいていない。
  • AIを使う人、AIに使われる人は真偽の判定やメタ認知という能力を養うことが重要であるという認識が浸透していない。
  • 教育は出口に依存する。産業構造の転換に縛られる。AIで産業がどのように求めるスキルが変わるかということを追求していくことになる。

このように、産業構造の転換や教育の転換に対応できていない現状や少子化や地域格差などの社会的課題も教育に影響を与えていることは、学生たちの将来に大きな影響を及ぼす可能性があります。

<世界の学びはどうなっているのか? 何が本質なのか?>

日本だけでなく、世界でも教育は多様化やグローバル化の流れに沿って変化しています。
教育の転換の方向性としては、デジタルで小さくなった地球において、多様性や主体性を尊重し、思考力や創造力を育む教育にシフトしている。
特に、国際バカロレア (IB) は世界159以上の国・地域において約5,600校で、日本における認定校は160校あります。日本にある国際教養大学APU (Ritsumeikan Asia Pacific University) のようのような教育機関では、学生たちが自ら主体的に学び、課題解決や創造性を発揮することが求められています。

これらの教育機関では、以下のような特徴があります。

  • 教科を学ぶだけでなく、楽しさや面白さを感じることができる。
  • やりがいや生きがいを見つけることができる。
  • 好きになることや興味を持つことで、課題意識を持つことができる。
  • 経験を通して知識や技能を身につけることができる。
  • 探究は目的ではなく手段であり、まったく新しい状況で何ができるかによって確かめられることができる。
  • 教育には「知的体力」が必要であり、悩み考え続ける知的体力や知的体力を支える足腰としての基礎学力を備えることができる。

特に、国際バカロレア (IB) のPYP (Primary Years Programme)は3歳~12歳までを対象としており、精神と身体の両方を発達させることを重視しているプログラムです。PYPのカリキュラムは、国際教育の文脈において不可欠とされる人間の共通性に基づいた以下の6つの教科横断的なテーマが中心となっています。

  • 私たちは誰なのか
  • 私たちはどのような時代と場所にいるのか
  • 私たちはどのように自分を表現するか
  • 世界はどのような仕組みになっているのか
  • 私たちは自分たちをどう組織しているのか
  • この地球を共有するということ

このように、世界の学びは、学生たちが自分自身の価値観から問うことや、AIを育てる人間としての役割を果たすことに重点を置いています。

<予測不能な課題を乗り越えることができる学習者、すなわち意欲の強さと情熱とを発揮できる人材をどのように育てればよいのであろうか?>

教科を学ぶ楽しさや面白さを経験させることの重要性について、以下の3つのポイントから考えていきます。

  • 基礎学力と知的体力の関係
  • 経験学習の理論と実践
  • 教育の目的と方法について

教育の目的は、若者の未来を明るくすることであり、若者の未来に寄り添うことであると考えます。そのためには、教科を学ぶ楽しさや面白さを経験させて、好きになる、興味を持つ、課題意識を持つ、やりがいや生きがいを育むことが必要です。教育だって反復練習で基礎学力をつけることは大切ですが、覚えることは「身につける」ことであって、無闇に暗記しても忘れるだけです。経験を通して知識・技能を身につけることが大切です。

基礎学力と知的体力の関係

知識・技能を身につけるためには、基礎学力だけではなく、知的体力も必要です。

知的体力とは、「悩み考え続ける知的体力」であり、「GRIT」と呼ばれるやり遂げる力「情熱と持続性」です。
知的体力は、探究することや新しい状況に対応することなどに役立ちます。
知的体力を支える足腰としての基礎学力は、内省と対話などで高めることができます。

経験学習の理論と実践

経験学習の理論は、コルブが提唱したものであり、「具体的経験」「観察・反省」「概念化・抽象化」「試行・実践」の4つのサイクルで学びを深めるというものです。経験学習の実践には、構造化・抽象化・転移や言語化などの工夫が必要です。経験学習を通して、学習者は成長実感や自己肯定感を高めることができます。
そのためには、以下の2つの要素が重要だと考えます。

 内省と対話
学習者は自分自身の学びについて内省し、自己評価や自己調整を行うことができます。
学習者は他者と対話し、意見交換やフィードバックを行うことができます。
学習者は内省と対話を通して、自分の学びに対する成長実感や自己肯定感を高めることができます。

 構造化・抽象化・転移
学習者は経験したことや知ったことを構造化し、整理することができます。
学習者は構造化した内容を抽象化し、一般化することができます。
学習者は抽象化した内容を転移し、新しい状況に適用することができます。

教育の目的と方法について

教科を学ぶ楽しさや面白さを経験させることの重要性、基礎学力と知的体力の関係、経験学習の理論と実践が重要である。教育は、若者の未来を見据えたものであるべきです。そのためには、教育者は常に自らも学び続ける姿勢が求められます。
社会の変化に主体的に向き合って関わり合い、自らの可能性を最大限に発揮し、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していくことが重要となります。 教育を通じて、解き方があらかじめ定まった問題を効率的に解ける力だけではなく、社会的・職業的に自立した人間として、伝統や文化に立脚し、高い志と意欲を持って、蓄積された知識を礎としながら、膨大な情報から何が重要かを主体的に判断し、自ら問いを立ててその解決を目指し、他者と協働しながら新たな価値を生み出していく能力を育むことが求められます。
育成を目指す資質・能力と個別最適な学び・協働的な学びの在り方について、教師が専門職としての知見を活用し、児童生徒の実態に応じて、学習内容の確実な定着を図る観点や、その理解を深め、広げる学習を充実させる観点から、カリキュラム・マネジメントの充実・強化を図ることが重要である。
日々の充実した生活を実現し、未来の創造を目指していくためには、学校が社会や世界と接点を持ちつつ、多様な人々とつながりを保ちながら学ぶことのできる、開かれた環境となることが不可欠です。

今後もDBICではラーニングトランスフォーメーション、つまり学びの改革や発展に努めていく必要があり、DBICの取り組みと後藤さんの考え方は共通の部分がたくさんあるということがわかりました。

まとめ

世界の教育改革は、学生たちが自ら主体的に学び、課題解決や創造性を発揮することを目指しています。
AI時代に必要な能力は、AIと協働する能力やAIを超える能力であり、それらは人間らしさや個性を表現する能力です。
世界の学びは、学生たちが自分自身の価値観から問うことや、AIを育てる人間としての役割を果たすことに重点を置いています。
最後に、予測不能な課題を乗り越えることができる学習者、すなわち意欲の強さと情熱とを発揮できる人材を育てるためには、「内省と対話」、「構造化・抽象化・転移」という2つの要素が重要だと伺いました。

最後に後藤健夫氏から、心に響くメッセージをいただきました。

教育は出口である産業に依存するため、
大人のアンラーニングが重要。つまり未来の子供達の可能性を引き出すLXが不可欠。
私たちは今その維新の真っただ中にいます。

(文責:DBICディレクター 鹿嶋 康由)

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