DXの起こし方を考える4回シリーズの3回目。過去2回では、私が経験したDXを題材に、事後的な事例説明と実際の物語を比較し、その相違点から起こし方を抽出し、6つのポイントを考えた。 ☞【横塚裕志コラム】DXの起こし方を 考えてみよう (1/4) ☞【横塚裕志コラム】DXの起こし方を 考えてみよう (2/4)
さて、3回目の今回は、6つのポイントからさらにDXを起こすことができるエネルギーとして、3つ要素に絞り込んだ。そして、その3つのエネルギー要素を社内でどのように醸成していくのかを考えてみた。それができなければDXを起こせないからだ。
代理店が保険料の試算がスムースにできない、という事象を見てどんな危機感を感じるかが問題だ。普通の社員は、その事象なら「勉強会などで教育すべき」と考えるのがせいぜいだろう。しかし、この事象を見て「こんな状態では10年後の会社の存在が危ぶまれる」という危機感を持つ強力なリーダーが出現したことで、初めて変革の物語がスタートしている。この強烈な「変革モチーフ」がないことには、DXはスタートしないだろう。
そうだとすると、「変革モチーフ」を持つことができる人が、そもそも社内にいるのか、ということが問題になる。もちろん、これをコンサルに投げるようでは、その会社は終わりだ。社内にそういう人がいないからDXが起きていない、ということになると、ではそういう人をどのように育成すればいいのか、となる。また、DX推進室の役割として、果たして「変革モチーフ」を持つことを明示しているのか、それを持ちうる人をその部署にアサインしているのか、という問いにぶつかる。
そして、過去のハーバード・ビジネス・レビューでも議論されているし、現在、IMDも主張しているが、既存ビジネスで業績を上げる能力と変革を起こす能力は180度違うものだ、という議論がある。私はこの考え方に賛成だ。違う能力と認識したうえで、意識して変革を起こす能力を持つ人材を育成する必要があると考える。
さて、みなさんの会社ではどのようにお考えでしょうか。「DX人材」がブームですが、「変革モチーフ」を持つことができる人材を育成しているでしょうか。
① 商品約款の再構成
保険商品は複雑で過去からの積み重ねが深い。そういった過去を深く理解しながら、本質をくずさずにシンプルな構造に変革していく業務は、素人にはできない。専門性を持った商品部門の人たちが、保守派に回るのではなく、自分ごととしてポジティブに変革の機会を生かした仕事ぶりは画期的と言っていいだろう。
② 各支店で現場の事務を統括するベテラン社員の活躍
現場で生の事務プロセスの中で苦労している社員が大きな役割を果たした。まずは、新プロセスのデザインについて、貴重な生の意見を率直にぶつけた。そして、新システムの定着に当たって、代理店への新プロセス・システム操作の研修・指導を熱心に行った。「私たちは、この日が来るのを30年待ち望んでいた」と語っている。
③ 基幹系システムを代理店用に全面再構築したシステム子会社の挑戦
従来の社員用の基幹系システムを代理店用に全面的に刷新することに挑戦。様々な形態の代理店の意見を反映すべく、画面デザインはすべてを3回書き直すほど力を入れた。また、現行ビジネスの改善案件も並行で進めるべく、開発リソースを既存・変革と半分ずつにマネジメントし、専門性を生かすチーム作りを行っている。
以上、3つの要素を考えてきた。どの要素をとっても、通常のビジネスを通常通り運行していくときにはあまり必要としない能力・人材がDXを起こすためには必要だということがわかる。では、この変革リーダー、変革を決断する経営、変革をデザインする専門家集団は、どのように育成しておくのだろうか。 それを次回に考えてみることにする。
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