前回は、私が経験したDXを題材にして、DXの「事例説明」と「実際の物語」を比較してみた。
☞【横塚裕志コラム】DXの起こし方を 考えてみよう (1/4)
4回シリーズの第2回は、「事例説明」には書いていない「実際の物語」での行動エピソードから「起こし方」を抽出してみようと思う。抽出したポイントは以下の6点。
- 強烈なモチーフから変革はスタートする
このままでは10年後はもたない、という危機感が「変革すべし」というエネルギーを湧き起こしている。単なる課題認識ではそこまでのマグマは育たない。強烈な危機意識を持つことができた一人の強力なリーダーがいたから、DXの最初の1歩を歩みだすことができた。
- 検討プロセスはらせん階段を回りながら上がっていく
「事例説明」で整理しているようなきれいな順で検討が進むわけではない。変だよね、というモチーフを題材にして、原因分析や解決案などがらせん階段を上がっていくような感じでぐるぐると回りながら検討されて次第に熟していく。経営者や社長室がさっと作成できるものではない。
- モチーフが強烈であるがゆえに、過去の伝統を覆す案が浮上する
過去から先達が積み上げてきた遺産を捨て去る決断はかなりのパワーがないとできない。しかし、モチーフが強烈であれば過去を否定できる。加えて、過去を否定した変革案はそう簡単にはコンセンサスは得られない。これを全社が共感できるレベルに論理的に組み立てていく変革リーダーの強い姿勢、強い粘り、強い信念が実現のカギ。
- 血を流す経営の覚悟があって変革できる
代理店に対して、例外なくデジタルなプロセスに切り替えることを宣言することは、代理店の他社への流出などビジネス上のデメリットが間違いなく想定される。あえてそれを覚悟で長期的なレンジで決断する経営者、この存在なくして変革は実現できない。しかし、なぜそれができたのか、そこは私自身もうかがったことがなく興味深い。
- 覚悟がマネジメントに現れる
変革の進捗をマネジメントするべく、いくつかの施策が打たれた。商品や事務の変革スケジュールを進捗管理したり課題の解決を経営レベルで行うスキーム。代理店のオンライン化・キャッシュレス化の進捗を支店別にモニタリングするスキーム。情報システムの開発状況のモニタリングと問題点の経営レベルでの可視化、解決スキーム。毎週の経営会議の冒頭では、「抜本改革」の課題論議を行うスキームが完成まで実行された。
- 社内で猛烈な議論ができる風土があった
シンプルがいいかどうかの議論はある意味で哲学論争でもあり、一方で「いい塩梅」を探る議論でもある。その議論を忖度なしにフリーに議論することができる風土があったことが、合理的な変革案の策定を可能にするベースにあったように思う。
以上、いくつかの行動エピソードから「起こし方」のポイントを抽出してみた。この点が、まさに「起こし方」に必須のポイントではないだろうか。「事例説明」には現れにくい激しい感情のようなマグマや共感という偏西風みたいな世界が、実際の変革を起こすエネルギーになっているのではないだろうか。透明人間みたいな経営者が変革を論理的に進める姿ではなく、人間の感情が突き動かす嵐に似たようなものが発生することが重要なキーであると思われる。
次回は、このエネルギーなるものは何なのかを深堀してみようと思う。