【横塚裕志コラム】味の素 藤江社長との対話 なぜ3か年計画をやめたのか

先日、味の素 藤江社長のご厚意でDBICメンバーの社長・役員の皆さんとの対話の時間をいただいた。テーマは「味の素はなぜ3か年計画をやめたのか」だ。そのときに私が感じたことを書いておこうと思う。

1.藤江社長の本音の課題認識を直にうかがった
事前にご準備いただいたスライドの順にはお話しされるが、実際にお話される内容はスライドには書いていないことばかり。その時の問題意識や背景、悩まれたことをざっくばらんに原稿なしでお話しされる。原稿なしで語る本音トークは、自然と心に沁みる。味の素が何をしたという事実というより、藤江社長が生身の人間として何を悩み、何を決めたのか、ということが体に刺さる。 「経営会議では、役員は自分が他の役員から何か言われたくないから、別の役員の管掌にも口を突っ込まない雰囲気があった」と、本音で話されると、その場のほとんどの役員が苦笑いしながら頷く。そういう苦笑いシーンがいくつもあって、そのたびに「そこを変えたのか」という驚きと「凄いな」という尊敬が沸き起こる。 一瞬で藤江社長のファンになってしまうと同時に、社内でも本音で社員に問題意識を語りながら改革を進められたのだろうとその姿を想像していた。

2.「1回やめてみて、必要ならまたやればいい」という決断
3か年中期経営計画の廃止にしろ、給与制度の中での各組織の業績反映を廃止することにしろ、「やめよう」という決断のスピードが速い。そのスピード感を意識して経営しているという。スピードを出すためには、長い時間議論するより、「1回やめてみよう」という考え方で早く実践する方がいいという。
日本企業はとかく「やめる」ことが苦手と言われる。しかし、限られたリソースの中でサステナブルに活動していくためには、やりたいことをやる代わりにやめることを決める、という決断が重要な要素になっている。そのとき、「1回やめてみよう」という考え方は採用すべきフレームワークではないだろうか。

3.「計画」より「種をまく実行」
3か年計画廃止の理由の一つに、「P、P、P、・・・(P=Plan)」という企業文化を変革して、シェアードバリュー目指して「種をまく」実行を旨とする企業文化に生まれ変わりたい、という強い想いがあるとのこと。前々から3か年計画を積み上げて作るのがうっとうしいと思っていた、とか、一度も3か年計画の目標を達成したことがない、とか、ぶっちゃけてお話しされる。私も現役のころは薄々そうは思っていたが、口に出してやめようとは言えない雰囲気だし、仕方なくやっていた。このお話のときも会場は苦笑いの渦だったように思う。みんなそう思っているが、表立って反対できないので、IRのときに必要というところに逃げて議論してこなかった感がある。会場からIR対応のご質問があり、藤江社長が問題はなかったと答えられた。「PPPPP・・・」という文化を「実行」するという文化に変えたいという強い想いが、証券アナリストにも通じたようだ。「やめた」上で「こうしたい」という強い想いがあるからこそ、「やめる」ことができるんだろうということも同時に感じた。

4.ふと思い出したことがある
この対話の中で、ふと思い出したことがある。DBICを設立して間もなく、当時のJALの社長の植木氏が、虎ノ門の私たちのオフィスに来られたときのことだ。植木氏はこう話し始めた。「私はパイロットだったので、経営会議とは無縁だった。社長になって、経営会議に出て驚くのは、役員がこうしたらうまくいくのではないかという議論ばかりしていて、こういうことがやりたい、という意見がないんだ。やりたいことがないようでは会社はうまくいかない。DBICというのは、やりたいことを見つける場になっていくのかな。」と。
「やりたいこと」という言葉がふと思い出されたのだ。これが一番大事な原点なのだとあらためて感じた時間、空間だった。

5.変革の「本音」に触れることで心が感じる
「本音」は辞書に、「本心から言う言葉」とある。変革の表面的な事実はスライドに「3か年計画を廃止」とは書いてあるが、その変革を起こした危機感とか背景というのは「本音」で、どこにも書いていない。しかし、私たちの心が何かを感じるのは「事実」ではなく「本音」だ。私たちが学ぶべきは、そのなぜという「本音」だろう。そこに心が触れると少し自分の行動を変える何かがうごめく感じがする。
今回は、そんな「本音」に触れる機会であった。藤江社長にあらためて感謝申し上げるとともに、「本音」に触れる機会を今後もさらに創っていきたいと思う。

参考

【レポート】トップ・セミナー 味の素 藤江 太郎 社長「味の素は何故、中期経営計画をやめたのか?」
【横塚裕志コラム】「味の素」が中期経営計画を廃止した

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