【横塚裕志コラム】デンマークは なぜ競争力世界一なのか

先日、デンマークデザインセンターにリサーチャーとして駐在している富士通の本多さんをお迎えして、デンマークが競争力世界一である秘訣をうかがった。デンマークは、IMDが発表している「世界競争力ランキング」で、2022年・2023年と連続1位であり、平均年収も600万円で日本の400万円の1.5倍、また、5週間の休暇を全員が取得している国だ。本多さんのお話、北欧に詳しい西野さんのお話を伺って私が感じたことを書こうと思う。

1.長期的な課題に取り組む姿勢
取り組むべき課題には、目の前の短期的な課題と10年後20年後を見据えた長期的な課題とがあるが、デンマークでは「長期的な課題」を重点的に考える傾向があるとのこと。これが、競争力を増す秘訣の一つではないだろうか。
例えば、首都コペンハーゲンでは20年前には自動車の渋滞で様々な問題が発生したそうだ。そこで、これを長期的な視野で解決すべく、自動車から自転車へのシフトを進めることを決断し実行する。自転車専用道路の整備などをくまなく行うことで、現在では、自動車より自転車の台数が上回り、渋滞も解消し、CO2問題にも大きな効果を発揮している。 企業構造や社会構造の重大な課題に取り組むには、小手先の対応ではあまり効果がなく、しっかり議論したうえで「長期的な視野」で進めていくことの方が得策だということを国民が知っているようだ。
長期的な課題を検討するにあたっては、20年後を想像しながら真の課題を見極めていく能力、多くの関係者にとっての利害を調整していく能力、意思決定の権限を持つ方の決断力など、短期的課題に取り組むのとは比較できないほどの難しい能力を必要とすることが想定される。しかし、多くの人のコンセンサスのもとに長期的に取り組むことができる「国としてのレベルの高さ」がそれを実現している気がする。
マイナカードで20年後、せめて10年後、どんな日本を創ろうとするのかの議論が全くない状況が悲しくなる。日本は国全体として、政治家も有識者も企業人も、長期的視野でモノを考える能力が不足しているのだろう。

課題解決のプロジェクトに参加する人には、必ず「あなたは何のためにこのプロジェクトを進めているのか」という問いが発せられるとのこと。一人一人が自分の想いを心の芯から絞り出しながらプロジェクトに参画する姿勢、それが、表面的ではない真の課題に挑戦しようというチームのコンセンサスをつくっているように見える。

2.なぜ生産性が高いのか
デンマークは、面積が九州とほぼ同じ広さ、人口は581万人で兵庫県とほぼ同じ。国民IDをベースにした行政の電子化は世界一クラス。平均年収、休暇は上記の通り。
なぜ、これほど生産性が高いのだろうか。

国民一人一人が、「自分と家族の幸福を第一と考えているから」というのが最大の理由のようだ。もちろん、自分と家族の生活のために働くわけだが、働くことの優先順位は低いので、無駄と思う仕事はやらないし、無駄と思う会議もやらない、ということが徹底されているようだ。
デンマークデザインセンターのCEOも、お子様の迎えに行くために16時には仕事をやめる。家族のだんらんや楽しみを最優先に考えれば、夜遅くまで働くことなど論外なのだろう。
一人一人が自分の人生を大切にするという考え方で「自立」しているので、全員が無駄なことはしないとなれば、自ずと生産性が高まるのだろう。デジタルを使っての効率化も世界の最先端を走っているし、組織のあり方もいかにフラットが効果的か、権限委譲はどの程度が合理的か、常に工夫し、変革し、いいものを探し続けている。
働くことを義務とは考えていない。働くことを権利と考えている。自分の働く権利をどのように行使するかは自分が決める、という明確なスタンスがある。どのように働くかを選択する権利を持っている。社長も守衛さんも同等というのが市民の感覚の根幹にある。日本のような上下という感覚がないから、上意下達がない。全員が同等に生産性を議論していれば、それはきっと無駄なことはたちまち排除されるだろう。

日本でも、組織の中の一人一人が自分の人生を大事にすることに目覚め、「これは無駄なのでやめましょう」と勇気を持って議論し始めれば、グーンと生産性が上がっていくのではないだろうか。「家に早く帰ってもやることないし」とか言っている間は生産性を上げることは思いつかない。自分たちがまず変わることから始めれば、日本の社会構造も変わっていくに違いない。

参考

他のDBIC活動

他のDBICコラム

他のDBICケーススタディ

一覧へ戻る

一覧へ戻る

一覧へ戻る

このお知らせをシェアする