企業の中に漂っている空気感は、その企業のエレベータに乗っただけですぐに感じるものだ。暗くて重苦しい空気感と未来を見ている空気感では全く違う。ハノイのFPT本社で感じた空気感とそれをつくっている経営の考え方を紹介する。
とにかく顔が明るい。多くの部門やオフィスを訪問したが、みな、ひたむきで前を向いて進んでいる。皆が助け合って、一つの方向に向かっている雰囲気を感じる。 いくつかの部門で「なぜそうしているのか」という質問をしてみるのだが、これがすべて明快な答えが返ってくる。「じぶんごと」として自分の仕事をとらえているからだろう。それは方針ですから、とか、それは上司に聞いてください、とか、よく日本企業で聞く言葉がない。
また、生成AIの開発部門で、少し意地悪に「GPTを超えられますか」と聞いてみたが、それは難しいと謙虚な回答。「同等の投資ができるわけはないので、ベトナムとインドネシアに関しては対抗できるサービスにする」と明確なゴールを口にする。たぶん、すべての部門で明確なゴールが全員で共有されているのだろうと推測した。
企業の中に充満する空気感は、自然と生まれているものではなく、意識して経営陣が醸成しているものだとFPTの経営を見てそう感じる。その施策をいくつか紹介する。私が外から見て感じていることを書くので、FPT経営陣のいい分とは違うかもしれないが。
小澤征爾さんが亡くなって、小澤さんを書いた一つの本を手に取った。そこに、小澤さんの言葉が書いてあった。 「師事したカラヤン先生の教えは、指揮者の役割は「インバイト」だ」 つまり、指揮者はオケのメンバーの演奏を自分の思う色合いにコントロールするのではなく、メンバーの想いを聞きながら自分の目指す方向にインバイトしていくことが大事だ、ということらしい。メンバーの演奏をいちいちコントロールするより、方向性を示し、その方向性を腹落ちしたうえで自分の思いも加えた演奏の方が、より高いレベルの演奏になると確信しているカラヤン先生の言葉なのだろう。 FPTの組織運営、経営方針に「インバイト」を感じた。インバイトの方がチームとしてのhappyな仕事ができると確信し、それを具体的な行動で実践し、happyなカルチャー、風土を意識的に作っていると感じる。それを実行するために、経営陣が率先垂範で謙虚に「学び」にひたむきに取り組んでいる。その姿で社員をインバイトしている。そこに私は感動した。
4回にわたってベトナムについて報告した。共同代表の西野さんから早くベトナムに行った方がいい、と言われて重い腰を上げた。行ってみて、そのアドバイスの趣旨がよくわかった。「障子を開けてみよ、外は広いぞ」という言葉がぴったりだ。大正8年、豊田佐吉が上海に紡織工場を建てようとしたら社内が大反対して、そのとき、障子をバシッと開けて言い放った言葉と言われている。 日本の常識は世界では非常識だということが良く分かった旅だった。日本企業の若者の皆さん、日本の変な常識をぶち壊していきましょう、あなたたちの方が正しいのだから。
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