【横塚裕志コラム】データサイエンティストの仕事場を見てきた ~プロ人材シリーズ①

ある企業の「データ活用部門」に訪問して、データサイエンティストと言われるプロ人材の仕事場を拝見してきたので、その仕組み・人材の姿などを報告する。

1.「データ活用部門」の体制

この企業グループでは、グループ内のシステム会社とホールディングスに「データ活用部門」を設置し、そこにデータサイエンティストを集中して配置する体制(CoE方式)を採っている。この二つの部門が一体となって活動し、グループ内の事業会社や新規事業会社のデータ活用はもとより、様々な産業とのコラボによる新しいビジネス創造に取り組んでいる。

2.「データ活用部門」の機能・役割

以下の機能を果たしている。

  1. 事業部門への御用聞き
    「データ活用によるビジネスの構造変革」を、多くの部門や多くの企業に説明して回り、一緒に深く検討したいテーマはないかとサウンドする。
  2. 事業部門からの相談を受ける
    事業部門からのアイデアなど相談を受ける。その段階では解像度がまだ低いので、対話しながら何を目的としてデータを使うのかをはっきりさせていく。
  3. 事業部と個別のテーマを深堀する
    個別のテーマについて、事業部や企業と一緒になって、仮説を立て、検証し、また仮説を立て検証するサイクルを回す。加えて、対象とするお客様や部門の潜在的な課題などを観察したり、インタビューしたりして深堀していく。
  4. 個別のテーマの「データ分析」をデザインし、データを集める
    対象とするデータを選別し、どこから取得するかを明確にし、どのような手法で分析するのかを決め、超専門的な手法なら外部から調達し、トライアルを始める。
  5. トライアルの状況を分析する
    トライアルの繰り返し結果を分析し、業務としての成立を検証する。
  6. 平常業務変革する
    ビジネス現場での従来の業務プロセスを新プロセスに変革する。定着するまでは、利用状況を可視化して、課題を解決していく。

3.このプロセスの特長

この「データ活用」のプロセスは、以下のいくつかの特長がある。

  1. データサイエンティスト(以下DSと略)の御用聞きから始まる
    事業部からデータ活用を発想することは、今までにない業務なので難しい。DSからのわかりやすいお誘いが重要だ。
  2. 仮説の深堀は共同作業
    データ活用のキーは「仮説の設定」にあるが、この仮説は、事業部とDSとの深い共同作業で初めて探し当てることができる。
  3. 開発計画・開発予算は決められない
    検討してみないとどんなプロジェクトが起きるかはわからないので、開発量や開発予算は、部門全体のバルクで決めておく程度しかできない。
  4. 「データ活用部門」の組織リーダーはDSの業務を理解している人がいい
    DSをマネジメントするためには、DSの業務を深く理解している必要がある。従来型の管理発想ではDSが愛想つかして辞めてしまう。

4.有志の「草の根活動」から正式組織が生まれる

「データ活用部門」が正式な組織として認められ、開発予算が獲得できるようになるまでには、個人的な有志が担当業務とは別にデータ分析業務を少しずつ始めていた実績が基礎になっている。歴史は個人が変えていける好例だろう。具体的な経緯は以下の通り。

  • 2014年から2018年:有志が少数で集まり、分析業務を学び、事業部門の一部を巻き込んで、データ分析を始める。加えて、分析用のデータ基盤システムを構築。
  • 2018年:ある部門内に間借りして正式チームが発足。開発予算が認められ、事業部門に広く御用聞きを始める。
  • 2019年:デジタルイノベーション本部の設置に合わせ、正式部門として立ち上げ、人数も拡大する。

5.企業グループ内にDSというプロ人材が存在する意義

「データ活用」という戦略が成功するためのポイントが二つある。①テーマの設定と②仮説の深堀だ。
この両者ともに、事業部の人材だけでは実行できない。プロ人材の発想力、グローバルな知見、深い最新の技術力があってこそ、検討が正しい方向に進んでいく。
加えて、事業部とプロ人材との深い対話がエネルギーとなるので、委託・受託という体制ではできないことも明らかだ。故に、グループ内に存在する意義は大きい。

6.DSというプロ人材の特長

  1. とにかくデータで分析して新しいビジネス成果を見つけたい人
    「2.機能と役割」で書いた①②③は、事業部門と密接なやり取りを行い、顧客まで調査に行く業務であり、仮説をつくることがたまらなく楽しいようでなくてはできない。上司から言われたからとか、業務を受託したからという感覚ではできない仕事で、自分で考える楽しさを持つ人材が必要だ。
  2. AIを始め技術の進化が激しいので、謙虚に学びつづける人
    自分から技術の進化を学びつづけ、グローバルな研究や文献を調査し、自分で手を動かして試してみることが大好きな人材が適任だ。

7.プロ人材の配置方法

このグループでは、プロ人材をシステム会社に配置している。その理由は、事業会社よりもシステム会社の方が
①プロ人材を配置するべきという経営陣の想いが強いこと(CDOとCHROを兼務させている)
②プロ人材向けの特別報酬制度の新設や組織の変更がやりやすいこと

が挙げられるようだ。ただ、この場合、事業会社と対等に対話できる環境づくりへの配慮が必要だろう。

8.仕事場の雰囲気

皆さん、楽しくてたまらないという顔をしている。そして、プロ人材という誇りを持って挑戦を続けている。 「他の部署に転勤ということがないので、心おきなく学ぶことができる」という発言が印象的だった。

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