プロジェクトマネージャー(PM)のプロとしてご活躍されている方にお話をうかがう機会を得ました。この方は、ある企業グループのシステム会社で複雑で大規模なプロジェクトを経験され、アメリカやヨーロッパの会社のIT部門に出向されてグローバルな経験もされています。現在は、ホールディングスに所属して、海外40社程度、国内20社程度のグループ企業のプロジェクトをサポートする立場で飛び回っておられるようです。 その方に、グローバルにプロジェクトをマネージしている中で感じていることをうかがうことができた。個人の思いを率直に語っていただいたが、その危機感はその企業グループだけのテーマではないように私は感じるので、以下にレポートする。
「グローバルと日本のPMの仕事ぶりはだいぶ違う。日本のPMが作成するプロジェクト企画書はPPTで10枚程度だが、グローバルのPMはWORDで50枚は作成する。例えば、以下の通り。
以上が一つの例だが、日本のPMはグローバルから学ぶところは多い。グローバルでは、PMは重要なプロの職業になっており、個人で独立されている方も多い。日本でもプロジェクトがどんどん複雑になってきているので、PMのレベルを上げた方がいいのではないか。また、今のままでは、日本のPMはグローバルなプロジェクトをマネージするのが難しい。」とのお話だった。
「日本の品質は高いと思っていたが」と水を向けると、「細かいことに気を遣うが、大事なことが押さえ抑えられていない」と返ってきた。日本のプロジェクトは同じ日本人の中でやっているので、まあ何とかなるさ、という甘い感覚があるのかもしれない。グローバル企業や大手コンサル、大手ITベンダーなどはすでにこの問題に気がついていると思うが、誰も危機感を口にしないのはなぜなのだろうか。
「日本のプロジェクトやプロダクトの検討内容を見ると、レベルが低いと言わざるを得ない。プロダクトデザインの基礎ができておらず、顧客視点に全然立っていない。前例踏襲の要件が多く、検討の幅が狭いうえに、表面的で、深く掘り下げて考えていない。真の課題を掘り下げて考えるという機会があまりにもなさ過ぎて、考えない習慣になっているようにも見える。」と、厳しいご指摘だった。 会計検査院が、政府が開発したマイナンバーカードのための業務アプリのうち39%が利用すらされていない実状を報告していたが、容易に想像できることだ。官僚が構想するプロジェクトがいかに現実を見ずに霞が関の中だけで作っているかの証左だろう。そのようなことが、政府はもとより民間でも横行しているのだ。
「日本以外では、ITに限らず、すべての職種でその道のプロが業務を行っている。経営戦略、マーケティング、プロダクトデザイン、ビジネスプロセス、経理、投資、人材育成、などなど、すべての分野にプロ人材が存在し、その専門分野で企業を転職しながら、上位にエスカレーションしていく仕組みだ。だから、部長や役員になっても、具体的なことや詳細な事実などにも詳しい。経験が長いから上になればなるほど詳しい。日本企業はそうではない。具体的なこと、詳細な事実は下に聞かなければ上は知らない、という状況だ。さて、どちらがこの時代にフィットしているのだろうか、ということだ。」と語り、ゼネラリストを否定するわけではないが、プロ人材も育成していく必要があるのではないかと言う。
私はこう考える。 専門分野を持つ人材については、日本では以前から「専門バカ」という言葉を使って、柔軟性に欠けるとか他のことは視野に入らないなどの欠点を指摘する意見がある。しかし、人材育成の世界団体ATDが定義するプロ人材は、コミュニケーション能力や柔軟なアジリティ能力などを必須の能力と定義しており、世界では既に「専門バカ」はプロ人材ではないとしている。プロであることの能力として、専門性の能力に加えて、コミュ力などの個人としての能力、組織への貢献能力の3つを体系化している。だから、そういうプロ人材は役員候補としても位置づけられている。これだけ複雑で先が見通せない時代での戦略構築は、やはりプロ人材が集まって対話する中で始まり、仮説・検証を繰り返す中で磨き上げていくという経営スタイルが望ましい、と世界は見ているのではないか。
お話をうかがって私が感じるのは、「日本人の思考の底の浅さ」だ。上司からの方針に従い、その指示の中での細かいことは検討できるが、そこに大きな問題があるのではないか、とか、変えなくてはならないのではないか、とかを考える能力が薄い。 小さいときからの「答えを探す教育の問題」と言えばそれまでだが、そうも言っていられない。日本でも、プロ人材を育成するという目標を掲げて、「深く思考する」という能力を鍛えるための別次元の学びに取り組む必要があるのではないだろうか。OJTとか自己研鑽とかリスキルとかいうレベルでは、深い問題意識を持つ能力を醸成することはできないのではないだろうか。
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