【横塚裕志コラム】新しい人材育成の「枠組み」を考えるべき時が来ている

1.目指す人材像が今の延長線上でいいのか

「人的資本経営」が喧しい。「人への投資が重要」とか「経営戦略と人材戦略の一体化」とか、勇ましい言葉が並ぶ。しかし、今までの延長線上の人材でやっていけると判断しているのか、そうではなくて大きく見直さないといけないと危機感を感じているのか、そこが大事なポイントではないだろうか。

私たち企業人は、「現状のリソースの中で頑張りなさい」という常識で生きてきた。だから、人への投資と言っても、今の人材をベースに新しいスキルなどをリスキルする程度のことしかイメージできないかもしれない。
社内の出世競争で勝ち残る人材は優秀で、営業でもいい成績を挙げるし、本社の戦略部門でもライバル社に勝る施策を企画するに違いない、と考えてきた。ビジネスが今までの延長線上で来た今まではそれが通用したかもしれない。
しかし、そのままの人材で激しいグローバル競争で勝ち残れるのだろうか。

日本企業の不振、世界の国々の人材投資への大きな熱量などを見ていると、リスキル程度の投資では、世界に太刀打ちできる人材はつくれないと考えるべきではないだろうか。日本人は間違いなく優秀な部分はある。しかし、時代が変わった。
例えば、「会社の方針、上司からの指示、組織の目標・予算などに忠実に従い、目先の課題をクリアしながら黙々と仕事をこなしていく優等生社員」だけでは、大きく変化する時代に対応していけないことは世界が証明している。現状を疑い、あるべき高い姿を構想し、本質的な問題を発見し、それを自分ごととして改革していく人材が必要ではないだろうか。企業に従順ではなく、一人の人間として自律し、自分が考える「企業の将来に向けた課題」を自由に提起する人材を育成しなくてはならないのではないだろうか。

2.決定的に不足している人材

これからの厳しいグローバル競争を生き残っていくためには、日本企業に決定的に不足している人材が二つある。この人材を育成すべく投資すべきではないか。

  1. 「変える人材」
    「何かを変えなくては」という自分の使命感を持ち、今までの常識を疑い続け、会社を変えていく人材、そういう人が企業に絶対必要ではないか。そういう人材は、今までの研修プログラムやOJTの延長では育成できないのではないか。
  2. 「プロ人材」
    今までのビジネスを変えるためには、その本質を深く洞察できるプロ人材がいなくては正しく変革することができない。ゼネラリストの今までの経験だけでは通用しない事態が起きているとの危機感を持つべきだ。

3.ポイントは人材育成の「目的」

人材育成の議論になると、すぐに学ぶべきスキルや研修方法などに目をやりがちになるが、ポイントは人材育成の「目的」だ。存在してほしい人材を生み出すことが「目的」なのだから、「目的」をもっと明確にイメージすることが必要だ。今のままではだめだ、という危機感がなければ「目的」が設定できない。参考までに、DBICでは「大企業の今の社員ではイノベーションはできない」という危機感から、育成すべき人材像や育成方法を企画し実行している。

4.DBICが考える目指すべき人材像とその育成方法

  1. 目指すべき人材像
    企業においてイノベーションを実行できる人材を育成することを目的とする。その人材像をDBICとして調査・分析した結果、次のように定義している。
    会社の呪縛から解き放たれて自律し、顧客の本質的な課題を見つける五感を持ち、その課題解決をビジネスとして企画し、それを社内の組織やパートナーと共同で実現する人材。
  2. 育成方法
    ①会社から自律し、自分の使命を持つ(Discover Myself)
    U理論をベースにして、修羅場を繰り返し体験するトレーニングを行い、適時コーチングすることで、呪縛から解放され、自律する。自律することで、自分ごととして新しい挑戦の意欲が湧いてくる。

    ②顧客の本質的な課題を見つける五感を持つ(Design Thinking)
    顧客を深く観察し、インタビューし、肌感覚を研ぎ澄まして、顧客の潜在的な課題を見つける。そのテーマこそ、最大のイノベーションのテーマとなる。

    ③ビジネスとして企画し、実施体制を構築する(Digital Transformation)
    IMD(スイス)・DDC(デンマーク)の最新の知見、メンバーとともに策定したDXガイド(EGB)に沿い、戦略・組織・体制・要員・パートナーなどを学ぶ。

    ④変革を練習する(Diving Program)
    実際のプロジェクトを実践することで、能力を磨き上げ、そしてGRIT(やりぬく力)を養う。

5.世界で戦う人材の育成

世界で一流の人材は、日本での一流とはレベルが違う。その認識からスタートして、世界の一流を真摯に学ぶべきではないだろうか。すでに一部の経営層はそれを肌で感じ、手を打っている。海外の子会社の社長で鍛えてから経営の中枢に置くとか、海外での実績で役員候補を判断するとか、いろいろな施策をとっている会社も多い。
デジタルやAIの分野でも、世界の一流のエンジニアと情報交換することができる人材でなければ、世界レベルのサービスは開発できないとの認識も広がっている。
20代、30代のフェーズから、世界の一流となれる人材に育成していく新しい「枠組み」を考えるべき時が来ているのではないだろうか。

他のDBIC活動

他のDBICコラム

他のDBICケーススタディ

一覧へ戻る

一覧へ戻る

一覧へ戻る

このお知らせをシェアする