イノベーション(DX)は、会議室で会議していればできるものではない。イノベーション室を設置したらできるものでもない。デジタルテクノロジーを学んだり、実験したりしているだけでできるものでもない。 その会社として、どうしても解決しないと今後の発展が見込めないと思われる本質的な問題を発見し、それにチャレンジすることがトリガーとなる。 以下に例示する。
東京海上日動火災の「抜本改革」(2004年から2012年): 「会社の中の血液がサラサラ流れていない。このままではお客様に迷惑をかけ、市場から追放されてしまう。」
旭酒造(獺祭の蔵元)(2000年から): 「多くの人に喜ばれるおいしい日本酒を造りたい。このままでは、日本酒の文化が途絶えてしまう。」
上記の二つのトリガーに共通している特徴は以下の通り。
会社の中で見えている事象から、その奥に隠れて見えない重大な経営課題を発見するにはどうしたらいいのだろうか。 これはかなり難しい仕事だろう。隠れている本質的な問題を、現場の事実を見ながら感じ取る仕事だ。論理を積み重ねたらできるというものではない。私たちは長年、学校や企業で問題を見て解答や解決策を考える経験は豊富にしてきているが、問題を発見するという経験はほとんどしていない。 明らかなことは、誰でもできる仕事ではない、ということと、トリガーが見つからないことにはイノベーションはできない、ということ。トリガーを見つけることが、経営者の最大の仕事だろう。
ある仕事をするためのステップを以下にご紹介しよう。何の仕事のステップかを考えてみていただきたい。
これは、実は、アーティストが作品を制作するプロセスだそうだ。小説家の村上春樹氏もエッセイか何かで、小説の冒頭シーンが具体的に浮かべば書き始めることができると、①のビジョン、トリガーの重要さを語っている。 つまり、アートもイノベーションもトリガーが浮かぶことで、作成が始まっていくのだ。新しいことを創造していくということでは、アートもイノベーションも同じ仕事であって、トリガーを見つけないことには始まらないのだ。
上記の二つの事例では、東京海上日動は専務、旭酒造はたぶん社長がトリガーを発見し、言い出している。他の事例を知らないので何ともおぼつかないが、上述したトリガーの4つの特徴から考えても、社長ないしは役員が行うべき仕事なのだろう。 現行ビジネスをうまく運営していくというマネジメント主体の時代は終了し、イノベーションを提起し行動するリーダーシップを発揮する社長・役員が求められる時代になっている。IMDが世界をリードしているリーダーの特徴をレポートしているが、最大の特徴は「謙虚に学びつづけること」とある。必死に学びつづけるしか道はないのだろう。
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