1. 「DX戦略」という言葉に対する違和感
私は、経営戦略あるいはビジネス戦略とは別に「DX戦略」をつくるということに強い違和感を持ち続けている。例えば、こんなことだ。
- IT部門の担当常務をしているとき
社長から「販売戦略」「商品戦略」などをつくるから「IT戦略」をつくるようにと指示を受けたとき、一瞬何をすればいいのか戸惑った。ビジネスの戦略とは別に、ITの戦略を立てるとはどういうことなのかと。「経営戦略」という一本の柱があって、それを実現するために販売はどうするのか、商品はどうするのか、ITをどう使うのか、という段取りで考えるのかと思っていたから、「経営戦略」という柱無しに各部門がそれぞれ戦略を考えるということに違和感を覚えた。
- 経産省の「デジタルガバナンスコード3.0」のプレス(2024.9.19)
冒頭に以下のくだりがある。
「経営環境が急速に変化する中で、持続的に企業価値を向上させるためには、経営ビジョンと表裏一体で、その実現を支えるDX 戦略を策定し、実行することが不可欠である。DX 戦略の検討に当たっては、経営陣が主導し、経営ビジョンとのつながりを意識しながら、重要なデジタル面の課題について、具体的 なアクションや KPI を考えることが求められる。」
つまり、「経営ビジョンを意識しながら、重要なデジタル面の課題を考える」ということがデジタル戦略だと説いている。要すれば、デジタル部門として戦略を考えろ、という趣旨になっている。意識するのは、経営ビジョンだとし、経営戦略とは言っていない。これは、上に書いた私の常務の時の体験と同じだ。経営戦略とは別に作れ、と経産省も言っている。
2. 言われた通り、DX戦略「重要なデジタル面の課題」を考えてみた
- 事業部門からのデジタル化要請への対応
- 事業部門の戦略を実現するためにはデジタル化が必ず必要。その案件を受託して、スケジュールやコストを計画通りに実施していく
- ビジネスの持続可能性を脅かすデジタル面の課題
- ソフトウエアのサポート切れ、業務システムの老朽化による問題、などを洗い出して、対処策を考える
- ソフトウエア開発の継続性を脅かす課題、例えば、人材面の量とスキルの課題、外部委託会社の継続性の管理などを考える
- コンピュータセンターの維持、あるいは委託の継続性を確認し、問題に対処する
- 最新技術の学習とスキルの獲得
- AI、データ分析の分野のスキル獲得策
- システム開発・システム運用の生産性向上に向けた新技術の導入
- DX人材の育成
- ビジネスサイドの人材へのデジタルスキル研修
- 生成AIをビジネス現場に普及させる活動
3. DX戦略を書いてはみたが
デジタル面を重視して書いてはみたが、やはりIT部門の課題となってしまう。会社のトランスフォーメーションにはなっていない。DXはXが重要だと誰もが言っているのだから、トランスフォーメーションを企画しないといけない。
4. もう一度、デジタル面からトランスフォーメーション案を考えてみよう
経営ビジョンを意識する必要があるので、古巣の東京海上日動火災の経営ビジョンをホームページから拝見する。
「お客様の信頼をあらゆる事業活動の原点におき、「安心と安全」の提供を通じて、豊かで快適な社会生活と経済の発展に貢献する。」とある。
これを意識しながら、トランスフォーメーションを考えてみる。
- 災害時に、保険金を画期的に早くご提供できる仕組みはどうか
- 各地域のハザードマップを持ち、リスクの高い方にアドバイスをしてはどうか
- 人手不足の中小企業に、デジタルでの生産性向上をアドバイスしてはどうか
5. トランスフォーメーションは、やはり「経営戦略」ど真ん中
デジタルの可能性を考えつつ、ビジョンに照らしてトランスフォーメーション案を考えてみたが、アイデアコンテストには出せるかもしれないが、しょぼい案ばかりだ。
やはり、トランスフォーメーションは経営戦略そのもので、性根が座った熱い想いがなければ企画できないように思う。
だから、私の違和感は続く。経営戦略と別にDX戦略をつくるってどういうこと?