【横塚裕志コラム】「顧客起点デジタル」と「企業論理デジタル」その①~あなたの会社のデジタル化はどっちですか~

企業が顧客との手続きをデジタル化することは普通になっている。しかし、その操作性が顧客にとって快適なものになっているかというと、煩雑だったり難しかったりして顧客にストレスをかけているケースが多い。これでは、デジタルにしたせいで顧客を失うことにもなりかねない。DXと声高に叫んでみても、顧客に喜んでいただけなければ無駄な投資になる。
そこで、私は「顧客起点デジタル」「企業論理デジタル」という言葉をつくった。デジタル化は「マーケティング」だけでなく、事務処理でも顧客との接点を持ち、実は顧客に対して大きな影響を与えている。だから、事務処理でも「顧客起点」の視点が重要だということを主張したいためだ。
「顧客起点デジタル」は実は簡単ではない。簡単ではない理由を分析しながら、「顧客起点デジタル」に進むためにはどうすればいいかを考えてみたい。

1. 普通に「デジタル化」を行うと「企業論理デジタル」になってしまう

デジタル化は企業が行うので、普通にやっていると「企業論理デジタル」になってしまう。「企業論理デジタル」の典型例を以下に3つ示そう。

  1. 紙を削減するためにオンライン化する
  2. 電話の問い合わせを減らすためにホームページをつくる
  3. 税をくまなく捕捉するためにマイナンバー制度を導入する

その結果、顧客はどう感じているか。

  1. 紙のときと同じ専門用語に悩まされ、ストレスを感じる
  2. どうしても電話したいのに電話番号がないので他の会社を探す
  3. マイナンバー制度の価値がわからない

ほとんどの会社のデジタル化が、こんな感じの「企業論理デジタル」になっている可能性がある。これでは、顧客は逃げていくことになる。

2. 「企業論理デジタル」の問題は根が深い

上記の3つの事例すべて、デジタル化の「目的」が企業論理になっている。故に、WEBでの操作性だけを工夫しても顧客には理解されない可能性が高い。つまり、発注側の考えが企業論理に立っていることが問題を引き起こしているので、SEがそれをCXデザインなどでカバーすることはできない構造になっている。故に根が深い。
加えて、発注するビジネス部門は、自分たちの論理が正しいと考えているので、自分たちの問題で顧客が逃げていることに気がつかない。

3. 「顧客起点デジタル」とはどういうことか

「デジタル化」とは、オンライン化ではない。「デジタル化」とは、デジタル時代の新しい社会の中で、顧客起点ですべての手続きを根本的に考え直そう、ということだ。その事例を以下に示そう。

  1. デンマークでは、出産後3分で病院からその子のマイナンバーカードが交付される。日本では、親が申請書を市役所に行って記入し、その後、その子を抱いてカードを受け取りに市役所に行く。
  2. 韓国の新幹線は改札口がない。日本の新幹線の改札口には、切符と指定席券を同時に入れても判別する高度な機械が設置されている。

つまり、「デジタル化」とはアナログ時代のプロセスを白紙にして、顧客起点でプロセスを全面的に見直そう、ということだ。そのためには、アナログ時代に企業が決めたルールや慣習も含めて、白紙に戻したうえで、顧客起点を考えようというものだ。確か、音楽や本をオンライン販売に変えるとき、著作権などの既存のルールを見直すことで実現したように理解しているが、これも典型的な顧客起点だと思う。

4. 「顧客起点デジタル」を進めるためにはどうしたらいいか

まず、以下のような取り組みでは難しい。

  1. 「顧客起点」を会社のビジョンに書く
  2. 「顧客起点室」を設置する
  3. ビジネス部門にデジタル研修をする

「顧客起点デジタル」を構想・設計できるプロ人材を育成するしかないと思われる。そのプロ人材とは以下の能力を持つ人だ。

  1. 業界の常識、会社の慣行から脱却して白紙で構想できる
  2. 顧客のプロブレムを感じ、深く共感する感性を持つ
  3. 最新のデジタル技術を駆使した業務プロセスを描くことができる
  4. 経営や守旧派の人へ新プロセスを説明し、コミットを得る

上記の能力を持つ人材は、まさにBA(ビジネスアナリスト)だ。「顧客起点デジタル」は今後も継続して企業のキーとなるテーマであり、BAの育成、設置は企業競争力を高めるという視点で、経営の責任で取り組むべき大きなテーマだ。欧米には、200万人が活躍しているのだから、日本企業も取り組むべきではないだろうか。

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