以下にいくつかの事例を挙げてみる。
A:DXは、現場ごとに行うデジタル化であり、現場社員にDX研修をする B:DXは、経営戦略であり、本社のプロ集団がDX戦略を企画・実行する
A:AIの活用は、生成AIを各現場が活用することであり、全社運動を展開する B:AIの活用は、主力商品やコア能力をAIで変革させ、競争力を上げること
A:ERPを現場の作業に合わせて使いやすくカスタマイズする B:世界中のグループ会社を同じERPとし、リソース・マネジメントの基盤とする
A:デジタル部門は、ソフトウエアの開発と運用の作業部隊で、コストセンターだ B:デジタル部門は、経営戦略を企画するコーポレート機能の一つだ
4つのテーマでそれぞれA方式、B方式を書き分けてみた。AとBの推進体制に大きな決定的な違いがあることに気がつかれるだろうか。私は、デジタルに向き合う経営のスタンスの違いを典型的に示している事象だと考えている。
端的に表現すると、A方式は、現場の改善努力を重視する経営であり、B方式は、本社のコーポレート機能が「経営戦略」をつかさどる経営だ。資本の要素であるヒト、モノ、カネ、情報をコーポレートとしてマネジメントするべく、本社の人事部、経理部、デジタル部が活動するのがB方式経営だ。
日本は、A方式を採る企業が多い。昭和の時代から日本企業がとってきた経営方式で、事業自体が大きく変化をすることがない時代の方式だ。経営企画部が企業としての経営戦略を作成する形はとっているが、内実は各事業部門の戦略を集めて合成するだけのことであり、事業部門がそれぞれ自立して稼ぎ、そのボスが役員になるというスタイルだ。だから、デジタルが出てきても、同様に、現場がデジタル化を考えるべしという考え方を採ってきている。デジタル部門も、人事・経理部門も「間接部門」という考え方を採り、経営戦略への直接的な参画は期待されず、各事業部門の戦略遂行をサポートする役割を持つという整理になっている。
世界標準はB方式であり、日本企業も変わるべしという意見が多くある。いくつかの「経営の教科書」を読んでみると、以下のような指摘が多い。
「VUCAの時代で、ビジネスにかかわる環境が目まぐるしく変化していく時代では、事業部門という既存ビジネスの改善だけでは、変化に対応していくのが遅れる。コーポレート機能として、変化を常に観察し、先手を打って企業を変革させていくことが必要だ。特に、地政学的な動き、国の動き、マーケット・顧客の変化を感じ取り、企業全体のリソースをマネジメントし、機敏に変化させていかなければ後手に回る。」
では、日本企業がB方式の経営に変えようとしたき、例えば、デジタル部門は何をすべきなのだろうか。冒頭に例示したB方式の機能を果たすことになると思うが、以下に、具体的に書いてイメージを掴んでみようと思う。
このB方式の役割が、まさにCIO/CDOの本来の役割だと理解できる。まさに、事業部門に対して、チーフに主導権をとってオフィサーするということなのだ。
コーポレート機能を果たすためには、事業部門に対して全体最適の視点、顧客の視点、あるいはデジタルを使った新しいビジネス変革の視点など、大きな変革の提案を行うことが必要だ。 そのためには、その先頭を走るリーダー(CIO/CDO)としての人材、そして具体的な企画案を作り、実行する「CIOオフィス」のメンバーが必要だ。これらの人材は、事業部門に対して提案、議論をできる能力を持つ必要がある。つまり、業務プロセスや全体最適なデザインなどに精通した、ビジネスアーキテクト、ビジネスアナリストなどのプロ人材が必須だ。ゼネラリストでは、事業部門と対等な議論ができる能力を持ち合わせることは難しい。 B方式に舵を切るためには、コーポレート機能が果たせるプロ人材の育成・確保が何より重要だ。その人材が未熟だと結局はB方式への変革が失敗に終わり、各現場での工夫レベルのデジタリゼーションで終わってしまうだろう。
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