【横塚裕志コラム】正しいDXを進めるうえでの問題提起

Ⅰ.正しいDXとはなんだろうか

ChatGPTに聞いてみると、以下の定義が提示された。

「DXは単にデジタル技術を導入することにとどまらず、ビジネスそのもののあり方や価値観、組織文化、顧客との接点などを深く変えていくことを指す」とのこと。
私はこの定義が正しいと考える。この正しいDXを進めるにはどうしたらいいのか、という視点で考えてみる。定義の前半にある「ビジネスそのもののあり方」は次回以降に議論するとして、今回は、定義の後半に書かれている「価値観、組織文化、顧客との接点を深く変える」というテーマについて考えてみたい。
まずは、この「組織文化を変える」というテーマについては、日本企業は明らかに軽視しているように見える。今までの成功体験に胡坐をかいているのではないか。現状の文化のままでは大きな問題を抱えていると考えるべきだ。

問題は何か。大きな問題が二つ存在すると私は考える。「当事者意識の低さ」と「顧客理解の能力欠如」だ。

1.「当事者意識の低さ」
大企業の社員に以下のような態度が多く見られる。これでは変革などできるわけがないと感じている。

  1. 受け身の姿勢と指示待ち態度:上司から言われたので研修に来ました、という態度。学んで成長したいという意欲がない。
  2. 責任逃れと言い訳:予算がない、時間がないという常套句。会社に持ち帰りますと言って意思決定しない。
  3. 自発的な行動の欠如:不明点を質問したりすることが少ない。反論することもなく、コメントすることもない。
  4. 意見やアイデアの不表明:会議や討論の場では、いかにも正解を言う。自社のことは語らず、他社のことには聞き耳を立てる。
  5. 危機感の欠如:視野が自分の短期的な仕事の範囲に限定されており、俯瞰して自社の課題を考える視座がない。

2.「顧客理解の能力欠如」
DBICでの「デザイン思考」のトレーニング、事業開発トレーニングで感じていることだが、顧客を理解することが不得意。この問題は日本企業の決定的な弱点だと感じている。最近も、大阪万博のチケット販売の煩雑さ・複雑さの問題が新聞で報道されているが、顧客のことを1ミリも考えていない典型だ。日本企業が不得意な理由を以下に挙げてみる。

  1. 製品志向の企業文化
    日本企業は伝統的に、製品の品質や機能の向上に重点を置く傾向がある。この「モノづくり」重視の姿勢が、顧客のニーズや課題を深く理解することを忘れさせ、すぐに多機能・複雑な製品づくりに走ってしまう。
  2. 顧客との直接的なコミュニケーション不足
    日本企業は往々にして、顧客との直接的なコミュニケーションよりも、中間業者や販売代理店を通じた間接的な情報収集で終わりにする傾向がある。顧客の真のニーズや課題を直接理解する意欲がない。
  3. 顧客の潜在的な課題を感じる感覚が失われている
    会社人間になると、認知にバイアスがかかり、肌感覚である五感が失われてしまう。その結果、顧客の真のペインを感じることができない。故に、イノベーションや新規事業が起こせない。
  4. 組織の縦割り構造
    多くの日本企業に見られる縦割り組織構造が、部門間の情報共有を妨げ、顧客の全体像を把握することを困難にしている。

Ⅱ.組織文化の変革

組織文化についての現状の問題を書いた。これを変容させていかなければ、DXどころか、どう考えても日本企業に明るい未来はないように思う。
では、組織文化を大きく変革するにはどうしたらいいか。欧米の動きを見ていると、その変革を推進するには、マインドセット改革を会社全体で実施することが効果的のようだ。マインドセットを改革することで、組織文化が自由で挑戦的なものになり、その結果、創造性が生まれる。また、五感を取り戻すことで顧客のペインポイントに共感できる感覚が生まれる。これは心理学などで根拠を持って語られるが、私には説明できないので、ChatGPTの説明を以下に載せる。

1.マインドセット改革
マインドセット改革とは、「自己認識」というものを高めるトレーニングを行うことで、自律性を高め、結果、創造性や感受性が取り戻すというもの。

  1. 自己認識と精神的自律の関係:
    自己認識を高め、自己理解を深めることで、自分の強みや弱み、感情や思考パターンをより明確に認識する。心理学者のダニエル・ゴールマンは「感情的知性(EQ)」の重要性を提唱し、自己認識を高めることで、より効果的に問題解決や意思決定を行えるようになると述べている。
  2. 自己認識と創造性:
    自己認識を深めることは創造性にも貢献する。自分自身の価値観や信念を理解することで、新しいアイデアを受け入れる柔軟性が生まれ、異なる視点を取り入れることができるようになる。心理学者のミハイ・チクセントミハイは「フロー理論」を提唱し、自己認識が高まることで、創造的な活動に没頭しやすくなると説明している。
  3. 顧客理解の向上:
    顧客のニーズを理解するためには、共感力と自己認識が重要。自己認識を高めることによって、自分の価値観やバイアスを認識し、他者の視点に対して開かれるため、顧客の立場や課題に対する感受性が増す。これにより、顧客の本質的なニーズをより深く理解し、適切な提案や解決策を導き出せるようになる。

2.CDOはCHROを兼務すべき
早稲田の入山教授が講演のなかでこの兼務を提唱しているが、私も共感している。兼務すべき理由は明らかだ。DXとは、「DXは単にデジタル技術を導入することにとどまらず、ビジネスそのもののあり方や価値観、組織文化、顧客との接点などを深く変えていくことを指す」と定義されており、それを実行するためには、ビジネスの変革と組織文化の変革の両方を実行する必要があり、それを担当するCDOとCHROを一人で担当すれば話が速い。

加えて、具体的な人事課題もいくつかあるように思う。

  1. プロ人材の配置:ゼネラリストとは別にプロ人材を配置する制度改革
  2. 内製化:ビジネスアナリストの育成・配置、デジタル部門の内製化
  3. AI時代の組織・人材の姿:必要とされるスキル、採用政策、評価制度、給与制度

日本企業は、大事な戦略であるDXを矮小化してIT化と勘違いし、リスキルに走っている傾向がある。正しいDXを認識して、ビジネス変革・組織文化変革を同時に実行する体制をトップが先導すべきではないだろうか。

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